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2024年J2第7節横浜FC-ベガルタ仙台「生き残るのは、変化できる者である」

そのシュートが外れる度、何度も私は天を仰いだ。 中村拓海の至近距離からのシュートも、ユーリララのヘディングシュートもゴールラインを割ることはなかった。 横浜はベガルタ仙台に逆転負けを喫したのであった。

タフな試合になる予感

試合開始前より 両者の戦いには興味があった。 横浜も仙台もJ 2リーグでは最小失点。 つまり矛と盾ならぬ盾と盾のぶつかり合いとなった。 こうしたチーム同士の試合の場合、 前半は手堅い入りでゲームが動いていくことが多いと私は感じている。 お互いに相手の攻撃のキーマンを潰し良い攻撃の形を出させなくすることで自分たちがゲームの支配権を握ろうとするからだ。 一言で言うなら 我慢比べ あるいは言い方を変えるならタフなゲームになる。 わずかな隙が失点を生み、その失点を高い守備力の前に取り返せないままゲームは終了するのを避ける為に、ジャブを打ち合ったりリスクの少ない戦いをしようとすることは多々ある。

試合序盤は仙台の攻撃も散発的で厚みを感じていなかったが、徐々に中盤でボールを運ばれるケースが増えてペナルティエリアに侵入を許してしまう横浜。
その一方で横浜もチャンスはあった。特にカプリーニが中央でボールをフリーで受けるシーンが増え、仙台の中盤のマークの緩さを感じていた。ここをアジャストされる前にもう少し攻略できないだろうか。裏に飛び出す選手が少ないのは、リスクを回避しての事だろうか。

そうした中での先制点は横浜だった。前半39分コーナーキックのクリアボールを中野がダイレクトに射貫いてゴールを仕留めた。仙台GK林も動けない美しいゴールだった。流れからゴールを奪えなければセットプレーで。手堅いサッカーから、徐々に殴り合いが始まった中での鮮烈な先制点となった。

悔恨の5分間

後半仙台は松井を投入。ここから徐々に仙台に流れが傾く。前半の様な単純なサイド攻撃から縦パスを入れて楔を作られてからの展開。横浜としては、サイドの選手がサイドで構えるのではなく、中に入ってスペースを作り、後ろから選手が押し上げてくるので横浜としては中村や中野が一人で2枚を意識させられる形になっていた。
後半12分は松井から仙台・中島が受けてサイドに展開。ディフェンスラインの裏に飛び出した仙台・相良に渡ると岩武を交わしてクロス。ファーサイドにいた仙台・中山が押し込んで仙台が追いつく。このファーサイドを破るのは栃木戦での失点のような、横浜の右サイドからファーへの対応の脆さがスカウティングで見抜かれているかもしれない。栃木戦、仙台戦どちらも福森は飛びもせずボールを見送っている。こうした癖があるのかもしれない。

そのたった5分後。バックパスを受けた福森が前線に大きく蹴り出そうとしたボールをカットされ、飛び出してきた相良にボールが渡る。仙台陣内でボールが欲しいと手を挙げていた中村が必死に戻るが、その数メートル先で放たれたシュートは無常にも横浜のゴールネットを揺らした。あまりにも残念な失点で仙台に逆転を許す。

拓海という生き物

もちろん失点は悔しいのだが、中村があそこまで必死に戻るシーンをあまり思い出せないでいる。よく言えば他の選手に受け渡しているし、悪く言えば諦めている。ネガティブトランジッション、相手にボールを奪われたその後の彼の対応は目に浮かぶ方もいるだろう。
しかし、最近中村拓海の調子が良い。ウィングバックのポジションは彼の苦手な上下動を強いられやすいポジションであるし、一方で攻撃参加も求められる。昨年5月以降リーグ戦に出場していない彼に、この5-4-1のシステムの継続はどうでるか興味深いものがあった。順応できなければ今年も出場が難しくなってしまうのだが、見事にコンディションを取り戻しつつある。
前節鹿児島戦では3バックの右を担い、数的有利ではあったが完封を果たした。また、先制点を山根へのパスを配給したのは彼でもある。3月20日の群馬戦では、横浜に退場者が出た関係で、試合の流れの中でポジション変更をしつつも最後は右サイドの前線で運動量を保ったまま勝利に貢献した。この辺りから彼が昨年よりも遥かに良い動きをしているのがわかる。
一方でサポーターのブーイングにあくびで応えるなど、肝が据わっているのは相変わらずではあるが、そうした豪胆な部分がプレー面でも良い方向に出ていると感じる。それは元々持っていた素質が今表現されるようになったのか、何か彼の中で意識が変わったのかはわからないが、彼の変化を感じるのだ。
変化をしないと生きていけない。それはサッカー選手の宿命かもしれない。試合終了の笛が鳴って、地面に一回転して空を見上げた後うつむく彼を見てまたそう感じた。

いつもの交代

さて、時を戻して残り30分。横浜はそこから続々と選手交代をする。三田と新加入の高橋投入。和田の疲労、前線の運動量。
中野に代えて武田を入れてサイドの運動量と前線へのクロスの供給を増やす。櫻川を入れて前線により明確にターゲットを置く、新井を入れてアタッキングサードをかき回す。意図は感じるが、どこかいつもの感じがしてしまった。むしろそれを仙台は承知の上でしっかりと守備を固めて、カウンター狙いのサッカーに転換。

ブロックを固めた仙台の壁が横浜の行く手を阻む。カプリーニのクロスに高橋が飛び込むもカットされ、新井のクロスに櫻川がシュートを放つも空振り。中村のクロスにユーリが合わせるが枠を捉えられないまま時間だけが過ぎていく。これが盾同士のせめぎあいである。リードされると中々こじ開けられないまま、時間切れ。横浜の連勝は2で止まった。

対応力があるのかないのか

2022年J1昇格をした時は、四方田監督の打つ手が悉く当たり対応力があると言われたのだが、2023年、そしてこの2024年を見ている限りそれはJ2を勝ち抜けるだけの巨大戦力があったからなのではと最近は振り返っている。
2021年にJ2に降格した際に所属していた外国人選手は軒並み残留し、そこに小川航基と長谷川竜也、山下諒也が加わった。守備面では亀川諒史と中村拓海、そして和田拓也とJ経験豊富で世代別代表経験者をこれでもかと投入できた。
しかし2023年はリーグ序盤で極度の不振に陥り、戦術を大幅に転換。リーグ後半にメンバーを固定しがちだったのは、当初の編成と方向性が異なっており可能な限りカウンターに準ずる選手を優先して起用するしかなかったのは理解できる。前線やサイドの選手は馬車馬のように走っていたのは知っている。
そして、2024年もう一回仕切り直しても、交代する選手の方向性や仕組みなども変わらない。2022年時程の戦力がないのであれば、それを補う柔軟な戦い方が必要になる。シーズンも序盤でまた固定化する程まで追い込まれている訳ではないはずだ。その部分が非常に不安である。J1昇格を札幌でも横浜でも経験している四方田監督は実績があるが、彼もまた変化をしていく必要があると思う。

ビハインドになった際に、現状の取り替えだけではなくさらにプラスしてどう上回ろうとするのか。その変化を見ていきたい。
仙台に追い抜かれたがまだ5位。団子状態である。「生き残るのは変化に対応できる者だけである。」相手チームが変われば、自分たちも変わる。どう変わっていくか。「ずっとこのまま」では終われない。


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