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「夜のブルース」後篇(Blues in The Night)~ジョニー・マーサー徹底解剖7

さて、1941年の某月某日のこと。

のちにアカデミー歌曲賞にもノミネートされ、ジャズのスタンダードともなる名曲『Blues in The Night』を完成させた作詞家のジョニー・マーサーと作曲家のハロルド・アーレンのコンビは、あまりの達成感でその日のうちに誰かに聴かせたくなり、歌手のマーガレット・ホワイティングを電話で呼び出そうとした。

だけどホワイティングは自宅でのディナーパーティーの準備中で、行けるとしても夜遅くなるという返事…

だけど、そのパーティーの面子を聞いて、ジョニー・マーサーは色めき立った。

ミッキー・ルーニー、メル・トーメ、マーサ・レイ、そしてジュディ・ガーランド…

錚々たるスターが揃ったディナーと知り、ジョニー・マーサーは「俺たちがスペシャルソングを引っ提げて飛び入り参加だ!出来立てホヤホヤの歌を聴かせてやるぜ!」と電話を切り、ホワイティング宅へと向かったのだった…

詳しくは前回を参照のこと。

ジュディ・ガーランドは知ってるけど、他の人たちもそんなに有名なスターなの?

ミッキー・ルーニーとか、メル友とか…

メル・トーメや! 

もちろん。みんなスターだよ。

まずジョニー・マーサーが電話を掛けたマーガレット・ホワイティングは、この当時、素朴さというか田舎っぽさが売りの若手歌手としてミュージカル映画で大人気だった。

マーサーが共同設立者となったキャピトル・レコードの専属契約歌手第1弾でもあったんだよ。

Margaret Whiting (1924 - 2011)

最後のタメ息が可愛い(笑)

そしてミッキー・ルーニーは、ジュディ同様に1930年代に天才子役として名を馳せ、40年代にはジュディとのコンビで数々のラブコメディ映画に主演した。

歌って踊れる喜劇俳優として大人気だったんだ。

Mickey Rooney (1920 - 2014)

ミッキー・ルーニーといえば『ティファニーで朝食を』の謎の日系人ユニオシっちゅうのもあったな…

そしてメル・トーメは、1940年代後半から自身の楽団を率い、戦後のジャズ・エンタメ界を支えたレジェンドだ。

これぞアメリカン・エンターテイナー!という人物だね。

トーメのスキャットはまさに伝説的だった…

Mel Torme (1925 - 1999)

超カッコいい!

そして最後のひとりは喜劇女優のマーサ・レイ。

「大口女」として人気を博し、チャールズ・チャップリンの『殺人狂時代』のヒロインとしても有名だ。

Martha Raye (1916 - 1994)

1941年某月某日に行われた『Blues in The Night』完成の夜のディナーパーティーにはおらへんかったけど、参加者の人間関係において重要な人物であるデヴィッド・ローズの元嫁やな。

デヴィッド・ローズは5月19日にマーサ・レイと離婚して、7月28日にジュディ・ガーランドと電撃再婚するんや…

たった二ヶ月で再婚って、どうなの?

しかもマーサ・レイとジュディは仲良しの友達同士なのに…

セレブの世界っちゅうのは、ワイら一般人には理解できひんな…

しばらくは関係が冷え込んだ時期もあったらしいけど、マーサ・レイとジュディの友情は生涯続いたそうだよ。

のちにはこんな共演もしているほどだ。

なんか冒頭のデュエット部分の歌詞が意味深やけど、「あの頃はお互い若過ぎたのよね」的な雰囲気でエエな。

それにしてもマーサ・レイの変顔が迫力あり過ぎる(笑)

こんな彼女だけど、実はアメリカではジュディ・ガーランド以上の名声を得ているんだ。

なんとマーサ・レイは、アメリカ合衆国政府が制定する勲章の中で最高位の「大統領自由勲章」を授与されている。

これまでの歴史上、女優で授与されたのは、オードリー・ヘプバーンやメリル・ストリープなど僅か8人…

マーサ・レイはその内のひとりなんだよ。

すごいじゃんか!

でも何で?

第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争時の慰問活動(USO)で、映画女優として最大の貢献をしたんだ。

だから彼女の死後には米海兵隊から名誉大佐の称号が、陸軍からは名誉中佐の称号が与えられた。

あの変顔で、泣く子も黙る海兵隊の名誉大佐なのか!

人は見かけで判断しちゃいけないな。

さて、マーガレット・ホワイティング宅のディナーパーティーに飛び入り参加したジョニー・マーサーとハロルド・アーレンは、さっそく出来たばかりの曲『Blues in The Night』を披露した。

ジョニー・マーサーが歌い終わった瞬間、部屋は短い沈黙に包まれ、まずメル・トーメが立ち上がって叫んだ…

「信じられない!」

そしてミッキー・ルーニーが叫ぶ。

「なんだこれ!?これまで聴いた中で最高の歌だ!」

そしてジュディ・ガーランドが呟いた…

「ねえ、もう1回聴かせて…」

気が付けばジュディとホワイティングはジョニー・マーサーのすぐ横で、『Blues in The Night』を練習し始めていた。

結局この席でジョニー・マーサーは7回も『Blues in The Night』を歌わされることになったそうだ…

よかった。修羅場にならなくて。

せやけど、なんか引っ掛かるな…

この歌、そこまで凄い曲か?

コード進行は単純なブルースやし、歌詞もそこまで大絶賛するほどのものとは思えへん。

前回この曲がアカデミー歌曲賞で本命視されてたっちゅう話の時も、正直「?」って感じやったわ…

確かに「どうってことない」歌詞だよね。

ママが「男の習性」を娘に教えるって、昔から歌われている典型的なブルースだもん。

確かにそうだね。こんな歌詞だから…

<続きはコチラ!>


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