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深読み探偵おかえもん引退作品『BACK TO THE FUTURE(バック・トゥ・ザ・フューチャー)』第3話


前回はこちら



パパゲーノ、人のせいにするなよ。

Lie out underneath the stars…

「星空の下で嘘をつく」って、どういう意味なんだ?

なぜ彼女とメイク・ラブするのに嘘をつかなきゃならない?


映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』における「メイク・ラブ」とは…

大文字「H」の手による、エッチ無しの、肉体の交じりの無い「メイク・ラブ」なんだな。


はぁ?

ちょっと何言ってるか分からない。


あんたと話してると埒が明かんから、単刀直入に言おう。

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の冒頭10分間は、この絵のことしか言っていない。


『Annunciation of Cortona』
Fra Angelico


フラ・アンジェリコの絵…

コルトーナの受胎告知?


人気のないところ、星空の下で、若い男女が「lie out」している。

二人は寝転んでいないから、この「lie out」は「嘘をつく」なのだ。



確かに天井には無数の星が描かれているけど…

どこにも「嘘をつく」の要素は無いだろ?


マリアの処女懐胎は、カトリックや東方正教会では絶対的に信じられているが、合理性を重んじる宗派ではそうでもない。

中には処女懐胎を否定している宗派もあるくらいだ。

そもそも処女懐胎の根拠とされるイザヤ書の預言は「乙女が身籠り男の子を産む。その子はインマヌエルと呼ばれる」であり、「処女が身籠り」ではないからな。

多くの聖書学者は「乙女」を「処女」と訳したのは誤訳だったと考えている。


なるほど。言われてみれば確かにそうかも。


マリアの処女懐胎は、マリアの無原罪の御宿りと同様に、イエスの死後、キリスト教が出来てから生まれた概念だ。

エジプト神話の「ホルス神を産んだ処女イシス」、インド神話の「アグニ神を産んだ処女マイヤ」、そしてギリシャ神話の「ペルセウスを産んだ処女ダナエ」の影響が指摘されている。


『Danaë(ダナエ)』
Gustav Klimt(グスタフ・クリムト)


だから「lie out」…「嘘をつく」なのか…


それだけではない。

「lie out」のセリフの前後では、2人が「嘘」をついている。

マーティの「Jesus !」から始まるシーンだ。



2人が嘘を?

マーティは母ロレインに男友達とキャンプに行くと嘘を言った…

だけどジェニファーは嘘をついていない。


嘘をついたのは、マーティの母ロレインだ。

ロレインはマーティに「自分が高校生だった頃は未婚の男女が夜に二人きりになるなんて考えたこともなかった」と説教していた。

真っ赤な嘘だな(笑)



なるほど… 

若い頃の母を知らないマーティは、母が「女」であることなんて想像もできなかった。

僕もそうだったし、子供は皆そう思っている。

男の子は特にそうだ。


だからマーティは母ロレインを「I think the woman was born a nun」と評した。

「あの人は生まれながらの修道女」つまり「生まれた時から神に仕え、処女でいること定められていた特別な女性」だと。


それって、聖母マリアのことじゃ…


そうだ。だから言ったろ。

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の冒頭10分間は、全てフラ・アンジェリコの絵『コルトーナの受胎告知』の話だと。


そんなこと… 信じられないな…


では逐一解説してやろうか。

時計台前広場のシーンは、どういう会話で始まった?


自分の演奏を否定されて落ち込むマーティを、ジェニファーが慰める会話だ。



M:Too loud. I can't believe it. We'll never get a chance to play in front of anybody.

J:Marty, one rejection isn't the end of the world.

M:Nah, I just don't think I'm cut out for music.

J:But you're good, Marty. You're really good and this audition tape of yours is great. You've gotta send it in to the record company. It's like Doc's always saying…

M:Yeah, I know. I know. If you put your mind to it, you can accomplish anything.

J:That's good advice, Marty.

M:All right. OK, Jennifer. What if I send in the tape and they don't like it? What if they say I'm no good? What if they say "Get out of here, kid. You got no future"? Jesus, I'm starting to sound like my old man…


よし。とりあえず、そこまででいい。

日本語に訳してみろ。


マ「音が大き過ぎるって、信じられない… もう二度と人前で演奏するチャンスはないだろうな…」

ジ「マーティ、たった一度否定されたくらいで、この世の終わりみたいなこと言わないで」

マ「俺は音楽に向いてないんだよ…」

ジ「あなたはよくやったわ、マーティ。本当によく出来てた。あなたのオーディションテープは最高なんだから、レコード会社に送るべきよ。いつもドクが言ってるでしょ?」

マ「はいはい、わかってるって。本気でやれば、出来ないことは何もない…」

ジ「素晴らしいアドバイスだわ」

マ「だけどさ、もし俺がテープを送ったとして、レコード会社の人が気に入らなかったらどうする? お話にならないと言われたら? 失せろ小僧、お前に未来は無いと言われたら? 神様、なんてこった。俺は親父みたいじゃないか…」


どうだ。気付いたか?

この会話は全部フラ・アンジェリコの絵『コルトーナの受胎告知』のことしか言ってねえ。


どこが?


しかも「the end of the world」の使い方がサイコー過ぎるんだわ。


そういえば、そういう歌があったな。

オールディーズのナンバーで…


その通り。

実は最初からあの歌を想起させるためのセリフなんだな。


あの歌を想起させるため?


『the end of the world』の歌詞を聴いて、何か気づかないか?

2番の歌詞、何か変だと思わんか?



2番の歌詞が変?

1番は「なぜ太陽は輝き続けるの?なぜ海は波打ち際に寄せては返すの?」と歌われる…

そして2番は「なぜ鳥は歌い続けるの?なぜ星は夜空で輝き続けるの?」と歌われる…

ん?


変だろ、2番?


太陽と海はわかるけど、鳥と星空の組み合わせ…

確かに変だな…

小夜啼鳥ナイチンゲールってことか?


ナイチンゲールは夕暮れ時や明け方の薄暗い頃に鳴く。

星空が見える夜中は鳴かない。


じゃあ何の鳥なんだ?

まさかフクロウとかミミズク?


フクロウじゃ、もっと変だろ。

乙女がフクロウを思って切なくなるか?


ならない…

じゃあ何の鳥なんだ?


ヒント。

1番の「輝く太陽」と2番の「歌う鳥」、1番の「波打ち際」と2番の「輝く星空」は、対応している。

「太陽」が「鳥」になり、「波打ち際」が「星空」になるんだな。


太陽が鳥になる? 波打ち際が星空になる?

意味が分からない。

「輝く太陽」に対応するのが「輝く星空」、「波打ち際」に対応するのが「歌う鳥」だろう?

「波」も「鳥」も音を出すから。


それだと順番がオカシイな。

2番は「鳥」と「星空」ではなく、「星空」と「鳥」なんだぜ。


なるほど… 確かにそうだ…

しかし「太陽」は「鳥」にならないだろう?


なるさ。

「SUN」と「SON」の駄洒落を使えば。


サンとサンの駄洒落?


答えを教えてやろう。

2番の「鳥」とは「ハト」のことだ。


ハト? 鳩は夜行性じゃないぞ。


カヘッ、カヘッ、カヘッ(笑)

ここまで言っても分からんとは。

「鳥」と「星空」と言ったら、これに決まってるだろ。



へ?


そして1番の「輝く太陽」と「波打ち際」は、これだな。



ええっ!?


「わたし」のもとから去っていった「あなた」とは、イエス・キリストのことなのさ。

だから、さっきの動画の中の「あなた」は、キスした後、狙撃兵に「わき腹」を撃たれて血を流していた。

あの狙撃兵には、ゴルゴダの丘でイエスの脇腹を槍で刺したローマ兵ロンギヌスが投影されている。

画像を反転させれば、フラ・アンジェリコの絵にクリソツだろ?


『Piercing of Christ's Side(キリストの脇腹に刺さる槍)』
Fra Angelico(フラ・アンジェリコ)


本当だ…

しかしなぜ『THE END OF THE WORLD』なんだ?


は?


イエス・キリストは「愛」のために死んだんだろう?

アダムとイヴの堕落によって神が人間に科した原罪を、神の子である自分が贖いの小羊として背負い、自らの命と引き換えに人類を救済した…

人類を救ったんだから「世界の終わり」じゃない。


これだから日本人は…

あんたは大きな勘違いをしている。


勘違い?


救世主の「救世」とは、人々を救ってこの世を平和にすることではない。

イエス・キリストを信じる者だけを選び出し、消滅する地上世界から「主の国」へ連れて行くことなのだ。

つまりイエス・キリストの「救済」とは、この世に破壊をもたらすもの、「世界の終わり」に他ならない。

あんたはスタジオジブリ版「救世主再降臨」のショートムービー『巨神兵東京に現わる』を見てないのか?


2012年的作品《巨神兵出現在東京》 #庵野秀明 x #宮崎駿 x #樋口真嗣

Posted by 迅雷進 on Friday, September 25, 2020


あっ… そうか…

「花婿を待つ処女の喩え」だ…



その通り。

次に神が地上へ姿を現す時、つまり次のキリスト降臨の時は、世界が跡形もなく消滅する「終末」であり、全人類に「最後の審判」が待っているから、常に準備しておきなさい…

そもそもイエス・キリストは、この世界を終わらせるために、人の子として地上にやって来たのだ。

この世界を終わらせ、人類を「カントリーロード」へ導くために。


『New Jerusalem(新しいエルサレム)』
Gustave Doré(ギュスターヴ・ドレ) 


カントリーロード?


ジョン・デンバーの「COUNTRY ROAD」とは「COUNTRY LORD」つまり「主の国」の駄洒落。

歌い出しで「almost heaven(まるで天国)」と言ってるだろう?



「almost heaven」って、そういうことだったのか?

最初に種明かし、答えを言っていたということ?


凄腕のマジシャンと同様に、上手いストーリーテラーというのは、さりげなく最初に答えを出しておくもんなのさ。

この俺様のように。


お前みたいに? どういう意味だよパパゲーノ?


そのうちわかるさ。今は「カントリーロード」の話だ。

クリスチャンは「主の国」を「本当の故郷」だと考え、死んだら「そこへ帰りたい」と願う。

しかし宮崎駿は非クリスチャンなので「そこへは帰れない」と考えた。

それがジブリ映画『耳をすませば』の主題歌『カントリーロード』だ。



だからジブリ版の『カントリーロード』は「故郷」へ「帰れない」のか…

じゃあ、替え歌の『コンクリートロード』は?



「concrete」とは元々「実体化・具象化された」「形が与えられた」という意味の言葉。

旧約のユダヤ教では、神を人の姿で表すことはタブーとされてきた。

いわゆる「偶像崇拝のタブー」ってやつだな。

しかし新約のキリスト教では、神が人の姿をして地上へ現れた。

そして人の姿をした神は、谷を埋め、山を削り、すべてを平らにし、道を真っ直ぐにすると言った。

だから「CONCRETE LORD」というわけだ。


なるほど… うまいな、宮崎駿は…

絵も上手いけど、言葉を操るのも上手い…


宮崎駿に感心してる場合じゃない。

あの場面でジェニファーに「the end of the world」と言わせた脚本家ボブ・ゲイルに感心しろ。

one rejection isn't the end of the world…

一度の「rejection」は「the end of the world」ではない… だぞ。


一度の否定は、世界の終わりではない…

つまり、一度くらい否定されても、あきらめるな…

ん?


そう。これのことだな。



ある日、処女マリアの目の前に、どこからともなく天使ガブリエルが現れ、こう言った…

「おめでとう、恵まれた女よ。あなたは身籠って男の子を産むでしょう。その子をイエスと名付けなさい」

だけどマリアは、ガブリエルの言うことを信用せず、預言を否定した…

「どうしてそんなことがありえましょうか。わたしはまだ夫を知らないのに」

しかしガブリエルは、否定されても諦めずに続けた…

「聖霊があなたに臨み、いと高き者の力があなたをおおうでしょう。それゆえに、生れ出る子は聖なるものであり、神の子(インマヌエル)と称えられるでしょう」


「いと高き者」だから「too loud(大き過ぎる)」だったわけだな。

絵の中に書かれている3つのセリフの一番上が「いと高き者の力があなたをおおうでしょう」だ。



なるほど…


そしてガブリエルはこう続ける。

「あなたの親族エリサベツも老年ながら子を宿しています。不妊の女といわれていたのに、はや六か月になっています。神には、なんでもできないことはありません」

そうアドバイスされて、マリアはついに妊娠を受け入れた。

「わたしは主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますように」

『コルトーナの受胎告知』では、ガブリエルの「神には何も出来ないことはありません」が一番下、マリアの「私は主の婢です。お言葉通りこの身に成りますように」が真ん中のセリフになっている。



ドクのアドバイス…

If you put your mind to it, you can accomplish anything…

本気でやれば、出来ないことは何も無い…


そういうことだ。

だからあの会話の最後は「レコード会社へ送ったテープ」の話であり、オチが「神様!俺は the old man みたいだ」なんだな。


「the old man」は「親父」ってことだろ?

弱虫のチキン野郎だけど、マーティに車を貸してくれる優しい父ジョージのこと。


それなら母ロレインを「the woman(あの女の人)」と呼んだように「the man(あの男の人)」とすべきだ。

しかしマーティは「the old man(あの老人)」と呼んだ。

なぜだかわかるか?


うーん、なぜかな…


オーディションに出たマーティのバンドは、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのコピーバンドだった。

つまりマーティがデモテープの中で演奏しているものは、マーティのオリジナルではなく、誰かのコピーなのだよ。


だから何?

いきなりオリジナルの曲を演奏できる人などいない。

誰かのコピーから始めるのは普通の事だろ。


その通り。天使ガブリエルもそうだな。


え?


天使ガブリエルの「受胎告知」は、旧約イザヤ書の預言そのまんまだ。

つまり天使ガブリエルの「play」は、預言者イザヤの「record」を「copy」したものだと言える。


あっ! 建物の壁の上か!


巻物を持った預言者イザヤ…

まさに「テープ」を持った「the old man」だ。


Isaiah the Prophet(預言者イザヤ)


やられた…


カヘッ、カヘッ、カヘッ(笑)

これくらいで驚いてもらっちゃ困るぜ。

まだ映画冒頭10分間の中の30秒程度だ。

ここから次に「車」の話が始まる。


マーティが憧れていた車…

トヨタの4WD、ハイラックスだったな…

しかし『受胎告知』に「自動車」は関係ないだろ?



ばーか。関係ありまくりだ。

しかもアレはただの「TOYOTA」じゃねえ。

「STATLER TOYOTA」だ。


は?



つづく




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