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7ドルアイスに学ぶ資本主義を生き抜く術

ファストフードのお店に呼ばれました。この出前での私のお給料は7ドルくらいになるとアプリは告げます。お客様が追加でチップをくれる場合があるので、正確な報酬額は仕事が終わった1時間後に確定します。

お店に入り「エレノアの出前にきました」と伝えると、店員さんは冷蔵庫からアイスをひとつだけ出し、私に手渡しました。

アイスひとつに7ドルも貰えるのは少し違和感があります。エレノアの家はそんなに遠くないし、アイス本体も4ドル程だと思うので、2ドルか3ドルもらえる程度の仕事内容な気がします。


我々ドライバーの報酬は、お届け先までの距離と商品の価格によって変動します。例えば、大量の高級寿司をすごく遠方のお客様まで届けるのと、少量のファストフードをすぐ近所のお客様まで届けるのとでは、当然お給料は違ってきます。言わずもがな、前者の出前の方が我々は儲かるのです。

ですので、ドライバーによっては距離と報酬を天秤にかけて、依頼を受けるか受けないかを判断する方もいるようです。報酬が少ないのに遠くまで運ぶのは割が合わないという理屈です。ガソリン代は自腹ですから、そこを念頭に置くのも当然のことです。


では、なぜ近くに住んでるエレノアの小さなアイスに7ドルももらえるのか?

私の考察はこうです。

お客様はドライバーに2種類のチップを渡すことができます。先払いチップと後払いチップです。

先払いチップというのは商品を注文する時点で、任意で支払うものです。例えば「今日は雨が降っているから、雨の中運んでくれてありがとうの気持ちを伝えたい!」など、つまり事前にできるお礼です。

後払いチップというのは商品を受け取った後に、任意で支払うものです。例えば、配達が素早かった等のサービスに対してのお礼になると思います。

つまりエレノアは小さなアイスに多めのチップを既に払った状態で、出前を依頼したと考えられます。

残念なことに資本主義が極まったこの国では、対価を支払わなければ良いサービスは受けられません。お客様は商品代や手数料など、既に多くの支払いを済ませているので、チップは必須ではないのですが、より早くより良い状態のアイスを手に入れるためには、それを運ぶドライバーにチップという名の追加の対価を支払うのが、最善の策だと言えます。

どんなに安い買い物でも、神のように丁寧に扱われる素晴らしい国から来た私は、この仕組みはとても理不尽な仕打ちのように感じていました。しかし、チップをもらって働くようになってから、チップがもたらす経済的潤いとモチベーションへの影響の大きさに驚きを隠せません。チップが存在しなければ、私のお給料は約半分にまで減ります。


エレノアの先払いチップの真意は分かりかねますが、彼女は賢くて経済的に余裕がある人物に違いありません。

彼女は閑静な住宅街にある、おしゃれな一軒家に住んでいました。素敵なメガネをかけたアーティストのような雰囲気を纏う彼女は、アイスを1つ運んできただけの私に、満面の笑みで手を振り「ありがとう!」と叫びます。


帰宅後、お友達のお家に持って行くお土産を注文する事にしました。私は少し迷ってから、やや多めのチップを支払いました。ここのお店でしか手に入らないシュークリームですから、特別なお礼が必要かもしれないと考えを改めたのです。張り切って作ってくれる事を期待したいと思います。

(2件分)
所要時間:38分
配達料:$5.71
チップ:$12.01

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