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バランス・オブ・パワー 大国政治の悲劇

どうもアルキメデス岡本です。

さて、今回はウクライナ戦争の話題からテーマを変えて、そもそも何故、戦争が起きるのか?という視点から、戦争を分析します。

バランス・オブ・パワー

バランス・オブ・パワー(勢力均衡 balance of power) とは、国際社会の構成員間の〈力power〉の〈過不足ないつりあい〉を指し、その結果、一構成員がその意思を他者に強制できるほど強大になるのを妨げることができる状態として定義されてきた。これは構成員になんらかの制約を課すという点に意義があるといえる。その意味で、近代的統治機構における権力分立(チェック・アンド・バランス)の観念に対応するものといえよう。勢力均衡の概念は国際政治のあらゆる理論のなかでも最も古く、また最も論争性に満ちたものである。

戦争のメカニズム

何故、戦争が起きるのかを考える上でこの概念は非常に重要だ。ロシアがウクライナを侵攻した主な理由は、NATOによる東方拡大が主な原因だが、そもそもこの原理から考えてみれば根本的原因が見えてくる。

言い換えれば、自国の安全保障を確立する為には、「国際システムの中で唯一の大国になる」ということである。 国際システム の中では、支配的なポジションを得ようとして登場してくる国に、わざわざ自分たちのパワーをささげてしまうような「お人よしの国家」は存在しない。 大国は現状のパワーの分布状況 に決して満足することはなく、それとは反対に、その分布状態を自分たちに有利なものにしたいという誘惑に常に直面しているものなのである。

ほとんどの大国は「現在のパワーの分布状況を変化させたい」 という修正主義的な意図を持ち、もしそれが適度なコストで実現できると考えれば、軍事力に訴えてでもバランス・オブ・パワー(勢力均衡 balance of power) を自分たちに有利な方へと変化させることがある。バランス・オブ・パワーを変化させる時のコストとリスクが大きすぎるため、大国は自国に都合の良い状況になるまで時期を待つこともある。しかし「覇権国になる」という究極のゴールが達成さ れない限りは、すべての国家の中にパワー増加への欲望は残るのだ。そして当然のように、どの国も世界覇権は達成できないので、世界では大国同士の競争が永遠に続くことになる。

このあくなきパワーへの欲求が意味しているのは「大国には常に世界権力の配分を自国に有利にするチャンスを狙う傾向がある」という事実だ。 大国は自国に充分な能力が備わったと感じれば、決してそのチャンスを逃さない。単純に言えば、大国というのはいつでも他国に軍事的に攻め込む意欲を持っているということだ。 大国はただ単に他国を犠牲にしてパワーを獲得しようとするのではなく、ライバル がパワーを得ようとするのを妨害することもある。他国にとって有利な状況が現れそうだとわかると、 今までのバランス・オブ・パワーを守ろうとするし、今まで存在していたバランスをこっそり変えてしまおうとするのである。

侵略が起きる3つの理由

大国はなぜこのような行動をするのだろうか? この質問に対する答えは、国家が自国の安全を求めているにもかかわらず、それがお互いに対しての攻撃的な行動になってしまう、国際システムの 「構造」 (structure)に原因がある、というものだ。 国際システムには、国家を互いに恐れさせる要因が 三つある。

1 世界の国々の上に存在し、 全世界の安全を守ってくれる中心的な権威が存在しない。

2 どの国家もある程度の攻撃的な軍事力を持っている。

3 国家は互いがそれぞれ何を考え何をしようとしているかを完全には把握できない。

これらの要因により、すべての国家は決して拭い去ることのできない恐怖を持つのであり、自分たちが他国よりも国力を上げれば「自国の生き残り」の確率を高くすることができると考えてしまう。この自国の存続の確率を一番確実に高めてくれるのが、覇権国になることだ。他の国々は、これほどまでに強力な国に対しては、深刻な脅威を与えることができなくなるからだ。

このような構造上の問題が原因で戦争が起きるのである。

今回のウクライナ侵攻も同様に、ロシアの安全保障を固める為に、ウクライナの軍事力が上がる前にプーチンは戦争を仕掛け、NATO拡大阻止に動いた。そして、ヨーロッパでのロシアの覇権を取り戻す事が目的だ。このあくなきパワーへの欲求が今回、爆発したのである。

米中のパワーバランス

一方、アジアのバランス・オブ・パワー(勢力均衡 balance of power)はどうかといえば、中国が覇権主義国家を目指している。

もし中国が世界経済のリーダーになれば、その経済力を軍事力に移行させ、北東アジアの支配に乗り出してくるのがほぼ確実だ。 中国 が民主的で世界経済に深く組み込まれているかどうか、もしくは独裁制で世界経済から孤立して自給自足しているかどうかというのは、実はあまり重要な問題ではない。

民主制の国家というのは非民主制の国家と同じくらい自国の安全保障に気を使うものだし、どの国家にとっても自国の存続を最も確実にするのは、覇権国になることだからだ。もちろん中国周辺の国々やアメリカが、中国の国力増大をこのまま黙って見過ごすわけがない。その結果、反中国の「バランシング同盟」 (balancing coalition) を 結成し、中国を封じ込めようとするだろう。その結果起こるのは、前代未聞の大国間戦争の到来を予感させるような、中国と反中連盟諸国の間の、安全保障/軍事面での激しい競争であろう。

要するに、中国の国力が増加すれば、アメリカと中国は敵同士となる運命を避けられないし、米中戦争は国際システムの構造上の問題から考えても回避不可能である。

大国間政治の悲劇

このような構造上の問題から、大国は永久に覇権争いを繰り返し、最終的には軍事衝突する運命である。まさに、大国間政治の悲劇である。

事実、ロシアのウクライナ侵攻を止められない、世界の安全保障システムは脆弱であり、アメリカ、NATO、国連の力をもってしても防ぐ事が出来ないでいる。これが国際システムの現実であり、リアリズムである。

近い将来、これと同じ理由で中国による台湾侵攻が起きるであろうが、これを防ぐ為には先に上げた、圧倒的なパワーが必要になる。
このまま、中国とロシアによる力による現状変更を見過ごせば、覇権主義連合はつけあがり、あくなきパワーへの欲求が膨れ上がり覇権国の座を盗み取りにくる事は確実である。


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