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茅ヶ崎市美術館で版画を観る 学芸員さんに聞くとさらに楽しい

2/3(日)まで開催の「開館20周年記念-版の美Ⅲ-現代版画の可能性」を観に行く。JR茅ヶ崎駅南口から10分ほど歩くと、閑静な住宅街の奥の緑地公園内に建っている。一般200円。

こぢんまりした建物だなあと思ったけれど、中身は充実。展示室1では、「榛(はん)の会」の数年分の年賀状がズラリと並んでいる。「総勢161名が毎年版画による年賀状交換をする」という素晴らしくも凄まじい集まりで、主宰者に武井武雄、会員には棟方志功、恩地孝四郎、駒井哲郎などが名を連ねている。

会員同士が年賀状を送り合って腕を磨くという主旨なので、出来が悪い会員は翌年参加できなかったらしい。ひええ。各々ポストカードサイズにありったけの技を込めるわけで、それが何十枚も、数年分一気に観られるというのは壮観だった。

一緒に室内に入ったおじさんはツツーッと流していたけど、もう何度も来た人だったのかな。多色刷りあり、太い線細い線あり、面で描くもの線を極めるものあり。版画というと小学校の木版画くらいしか連想がなかったので、表現の幅広さを実感する。

そのほか、写真撮影を許された展示として馬渕録太郎・聖の父子の作品が並んでいた。父・録太郎は緻密な木口版画の人。写真は大きく見えるものの実寸はコースターくらいの小ささ。白黒の線画なのに雪のフカフカ具合がわかるのがすごいな。

息子・聖は面やモザイクによる版画技法を駆使する人。彫る前の下絵と、実際の版画が並んでいる作品もあった。絵を決めて、それが表現できるように版を分けて、彫って、色をつけて、重ねて刷る。

展示室2と3は小野耕石の特別展示。

シルクスクリーンで何度も何度も(ときには100回近く)1枚の上に刷り重ねていくと、インクの柱ができる。柱は刷るたびに欠けたりくっついたり、面になったりならなかったり、その偶然も含めて作品になっている。

そばで観るとツンツンした細かい色の柱がびっしりある。何色も重ねるので色の濃淡も偶然の産物として出てくる。版画だけれど立体的。でも版画、らしい。

展示室3は6畳くらいの大きな作品がライトアップされている。学芸員さんが「同じ作家の作品です、ぐるっと回って観ると表情が変わりますよ」とのこと。ここも撮影+動画がOKだった。noteのテキストは動画が無理みたいなので静止画で。

たしかに周りながら観ると、玉虫色に作品が変化していく。最初は赤が眩しく感じたのに徐々に薄れて、反対側から観るとずいぶんダークになる。こっち側を最初に観たら全然違う印象を受けただろうな。暗い作品だなあと感じたと思う。

でも横に回ると急に緑色がキラキラし出す2枚が光ってきて「あれ、緑色なんてあったっけ」とまた違う作品を観ている気になる。「もう1周してもいいですか」と聞くと「どうぞどうぞ!」と学芸員さん。貸切なので見放題。

天井を仰ぐと照明は一方から斜めに強く当てられている。この照明も作家さんが考えたのか聞いてみた。

「作家さんと学芸員で相談して決めたんですよ。やっぱり一番変化するところを観ていただきたいと思って調整して」

斜めから当たるからいいんだろうな。よく確認すると左・右で4灯・3灯と明るさが違い、照明の数も角度もそれぞれ別に付けられている。作品が一番キレイに見える組み合わせなんだろう。

「芸大で自然光で展示されていたのも観たんですけれど、全然違いました。これほど色が変わる作品ではなかったですね」

たしかに、屋外展示で明るく照らしてしまうと微妙な変化はわからないかもしれない。暗い中で浮き立つような展示だから面白いのか。

ぐるぐる回っていると、キラキラ光る面が大きな全体として見えてきた。水面のような、スケートリンクのような。さっきの展示でミクロばかり気になって、この作品も最初はツンツンした細かさを確かめたけれど、マクロで観ると違ってくる。

「ここから観ても面白いですよー」といろいろ教えてくれた学芸員さんは交代の時間が来たようで「すみません、交代なので」と部屋を出ていく。いやあ、いろいろありがとうございました。

でも受付に戻って図録を買おうと顔を上げると、さっきの学芸員さんが。

「あっ、ここに交代になりまして。ぐるぐる回ってるものですからすみません」

そうか、同じ持ち場でずっと座っているのは大変だもんなあ。お客さんがいるときも大変だけど、誰もいない時間はもっと大変な気がする。

美術館に附属したカフェでは版画展に合わせた和菓子を提供していたので、コーヒーとともにいただく。静かな場所なので近くに住んでいる人は使いやすいだろうなあ。トマト風味パンは今回お試しでついてきた。

お昼時で混んできたし、そろそろ戻ろうと会計を済ませていたらお店か施設の人が入ってきた。横で何か話している。払い終わってパッと顔を上げたら、あら、さっきの学芸員さん! つい笑い転げてしまった。

「なかなか3回お会いすることはないです!」

そうですよねえ。これは何かのご縁だと思ってお名前を伺う。小笠原さん。今日はいろいろ教えていただいてありがとうございました。作品や作家さんの情報はもちろん、学芸員さんが日々アンテナを張って工夫されていることもわかりました。次の版画展もたぶん行きます。

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