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実は世界中で起きていた「安物買いの銭失い」。ー エネルギー価格の教訓。

 「これで日本が変わるかもしれない」

 2011年3月11日。忘れもしない「東北大震災」の日である。最初は ”2 m” の誤報かと思った ”20 m” の津波にも驚いたが、何と言っても大変だったのが「原発事故」日本人よりも欧米人の過剰反応が凄かった。

 「シンガポールかロンドンに逃げたらどうだ?」

 筆者にもそういう ”提案” があった。だが地元の郡山に両親も友人もいて、原発近くから郡山に数多く避難していると聞いていたので*「東京から海外へ逃げる」のは大きな違和感があった。だが、実際東京のトップシンガポール出張に行ったきり、そのままロンドンに ”逃げて” しばらく東京に帰って来なかったし(あとで経営陣にこっぴどく怒られていた。笑)、フランス人のスワップトレーダーは、客をほったらかしてその日のうちに成田に直行して本国へ帰ってしまった。当然日本人スタッフからは総スカン

 *「資金繰り」という仕事の立場上、オフィスから逃げるのは最後の立場だったし、日に何度も日銀と連絡をしていたので、実は政府中枢の雰囲気は十分伝わっていた。本当に東京が危なければ日銀も大阪に避難して業務を続けたはず。それもあって東京のトップ(アメリカ人)には「東京は大丈夫」と伝えたのだが、ほとんど聞く耳を持たなかった

 地震の恐怖に加え仕事も大変だったのだが、どこか ”光” も見えていた。敗戦がそうであったように、とにかく日本という国は ”ショック” がないと変われない国。当時から「温暖化」については議論されていたので、この大地震をきっかけに再生エネルギー等に大きく舵を来るチャンスではあった。今頃になって東京都では家屋に太陽光パネル設置などと言い出しているが、11年前に本気で始めていれば新規産業も育成できたし、現状の様に**電気代の高騰に苦しまなくて済んだかもしれない

 **「再生エネルギー発電再生賦課金」というのをご存じだろうか。標題  は「損切丸」家の電気代の明細だが、電気料金の実に11%を占める。当初はFIT(Feed-in Tariff、再生可能エネルギーの固定価格買取制度)のコスト負担とされていたが、賦課金の ”妥当性” については不明。我が家では10年で@40円/KWの "高額買取" が終了(→ @9円)したが、賦課金自体は毎年じわり上昇している。実体は ”隠れ税金” =原発事故の後始末で経営難に陥っている電力会社の救済金と見做される。この国ではこういう ”広く浅く” の仕組みが張り巡らされており、生活を圧迫している。

 「損して得取れ」

 昔の人は上手いことを言ったものだが、目先コストをかけるのは最終的に安く済むことも多い「原発はランニングコストが安い」が触込みだったが、こうやって重大事故が起きてみると何十兆円もの追加のコストが掛かる***廃炉等まで考えたら、あとどれだけかかるのか見当もつかない。つまり「安い」は完全にまやかしで、そのツケは全部国民に回ってくる

 結果「安物買いの銭失い」に陥ってしまった。

 ***筆者の実家の隣の公園には未だに「線量計」が設置されたまま。しばらくは地元テレビで「放射線量値」を天気予報と共に流していた。除染作業も森林や沼、湖周辺は終わっておらず、まだまだ「お金」がかかるのが現実だ。「原発事故」は福島県ではまだ終わっていない

 これを踏まえ、「侵略戦争」を巡る「エネルギー危機」を再考してみる。

 「やっぱり原発再稼働しかない」

 こう言う意見も良く見聞きするが、筆者は真っ向から反対だ。これでは同じ過ちの繰り返し。福島県出身だから感情的に言っている訳ではなく、相場やマーケット同様、苦しい時こそ戦略の練り直し、特に「リスク」の再検証が大事目先の安易な解決策に飛びつけば、ツケは自分に回ってくる。再稼働をするなら時限対応で、その後の "ビジョン" が必要。相場で言えば「将来価値」の算定であり、それなしに相応の "リターン" は得られない

 そもそもドイツが「ノルドストリーム」に飛びついたのも "安いから" 「健全財政」を誇るドイツの哲学からは ”正しい選択” だったはずだが、見事にしっぺ返しを喰らった。日本の3.11同様ツケは兆円単位の軍備費の増大として跳ね返り、国民の「安全保障」が脅かされてしまった日本の「サハリン」プロジェクト然り「タダほど高いものはない」

 中国の「大量・安価な製品」に飛びついたのも同じ構図で、まんまと "嵌められた" 。これは完全に "向こう側" の戦略。まさに「安物買いの銭失い」の典型であり、****「安い」からといって1カ所、2カ所に傾斜することのリスクを、今回まざまざと見せつけた

 ****リーマンショック以降、銀行の「資金繰り」については規制が厳格化され「大口借入先」も重要事項の1つ「お金」の借入先が1社で全体の20%を超えないよう厳しく規制された。欧州のBIS(Bank for International Settlements、国際決済銀行)が中心になっているが、銀行管理の手法がエネルギーに汎用されなかったのは、何とも皮肉ではある。

 幸い2011年に比べると、風力、水素、蓄電池等等、エネルギー政策の選択肢は増えている。戦争を "好機" をいうのは若干気が引けるが、「ディス・グローバリゼーション」で「インフレ時代」を迎える今は前倒しで「お金」をかける局面。まさに「損して得取れ」

 これは日本ドイツもそうだし、実は我々個人もそう。「お金」を溜めたり増やしたりするだけが「投資」ではない先行き上がりそうなコストを前倒しで「払う」のも立派な「投資」。例えば木材価格の上昇傾向 ↓ を見れば、自宅を早く建てるのも「投資」。頭の切換が必要な時期に来ている。


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