後悔

「あの時買っておけば良かった...」 ー 雑感 @2019年、酷暑のお盆に。

 暑い、とにかく暑い。最高気温35度越えはさすがに体にくる。日本もお盆休みに入り、相場も一旦お休み感もあるので「雑感」を述べてみよう。

 知り合いに「10年前、あのマンション買おうと思ったんだよなあ。あの時買っておけば良かった...」と会うたびにこぼす方がいる。気持ちはわかるし、そういう嘆きも巷には渦巻いているのかもしれない。だが、いざ投資の判断となるとこれが障害になることが多い。嘆いても終わったことは修正できないからだ。「ドル円が80円台の時にドルを買っていれば...」「日経平均が8,000円の時に買っていれば...」 - どれも今言ってみたところで1円にもならない。ドル円は今の105円台から、日経平均は20,600円台から今後どうなるか、である。ここからもっと上がるかもしれない。

 筆者は入行3年目でいわゆるディーリングルームに配属され、銀行のドル資金を調達する部署に配属されたが、当時稼ぎ頭でもあったここのチーフディーラーが恐ろしく厳しい人だった。配属して3か月ぐらいはろくに口も聞いてくれなかったし、質問の答えにまごまごしているとよく叱責された。たださすがに儲けていた人だけに言うことには説得力があり、特に驚いたのがいつも「予言」めいたことを言い、しかもほぼ的中していたことだった。何を努力すればあんな風になれるのだろう、と不思議に思ったものである。

 そのチーフディーラーは時々ふっ、と席からいなくなることがあった。聞けば図書館に行っているらしい。何をしているのかと思いきや、アメリカの過去40年の指標とFRBの金融政策を調べていたという。その中で「設備稼働率」80%が1つの目安になって利上げ、利下げの決定を下している、という結論に辿りついたそうだ。中央銀行と同じ考えに立てば、金融政策の行方はわかる - これが「予言」の正体だった。

 何ヶ月か経ってようやく筆者もディーラーとして認められるようになり、英ポンド、スイスフラン、ドイツマルクなどの欧州通貨の資金を任せて貰えるようになった。「会議」にも出席して意見を述べる立場になったが、相場の今後を「言い切れ」、と強く求められた。相場の解説や言い訳ではなく今買うのか、売るのかの意見表明を求められた。つまり儲けろ、ということ

 *「OOまで上がったら売ります。XXまで下がったら買います」と言っていた先物トレーダーが会議で怒られていた。「売られている時には売り材料が、買われている時には買い材料が出ているはずだ。本当にその時に逆張りできるのか? それよりも今日売るのか買うのか決めろ!」もっともである。トレーダーに求められているのは言い訳ではなく結果なのだから

これを最初の「10年前のマンション」の話に置き換えると個人レベルでも同様であることがよく分かる。4,000万円だったマンションが10年で5,000万円になってしまい、「4,000万円なら買うのになあ...」と嘆いているとする。しかし、いざ4,000万円に値下がりしたら、その時には値下がり要因が出ているはずである。この人は本当にその時4,000万円でそのマンションを買うだろうか? はなはだ疑問だ。

 手前味噌で恐縮だが、「お師匠さん」のまねをして担当するスイスフラン「歴史研究」をしたことがある。すると、スイスの金融政策は「変動ロンバート」と呼ばれる、3日起きに金利を変動させる方式で、スイスフランの対マルクの為替相場に連動していることを掴んだ。

 そこで、為替チャートがスイスフラン売りを示している間、筆者は金利が上がる方に賭けた取引を続けた。その時他の銀行のほとんどが金利が下がる方の取引をしてきて、おそらく掛け率は30対1ぐらいで筆者は1の方。相手のほとんどが逆の取引をしてくるのだから、正直あまり気分のいいものではなかったが、皮肉にも30行ほとんどが損を出し1行が儲かる結果となった。

 筆者は自分で調べた(どこかに載っていたわけではない)スイスフランの対マルクの為替レートにこだわって取引を続けたが、おそらく他行のトレーダー達はそれを知らなかったのだろう。見落としや無知は本当に怖い。後で部長が他の銀行との会合で「おたくにやられた」と愚痴られたそうだが、別に筆者がやっつけたわけではない。他行のトレーダー達がスイス中央銀行の政策意図を正しく汲んでいなかっただけである。

 さて本題に戻すと、一種の癖というか習性なのだが(笑)、「損切丸」note はこの「言い切り」理念に基づいて書いている。「お金のマニュアル」もマーケットについての「つぶやき」も全てそのつもりで、予想がはずれたらご免なさい+修正 note も追記するよう心掛けている。それが今後の損を回避し儲ける=資産を増やすために必要と信じているからだ。「言い切り」で投資を志す読者の方々と同じ土俵=リスクテイクを共有していく。

 だからエコノミストやストラテジストの方々のコメントとは、味付けが大分違ってくる。もちろん彼らのコメントや統計資料なども参考にさせてもらいつつ、自分自身見逃しがないように、今後の動向を「シナリオ設定」の形で予想していく。これが「損切丸」note のスタイルである。


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