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0、鍼灸臨床のジレンマ

鍼灸、マッサージ、整体、カイロプラクティックなど様々な代替治療と呼ばれる手技療法があります。

これらの手技が「なぜ効くのか?」考えたことがある方はおられるでしょうか。私は自身の施術はなぜ効いているのか分からなくなったことがあります。西洋医学では様々な検査をして患者を「診断」し、その「診断」に基づいて治療します。東洋医学では、四診と言って、望診、聞診、問診、切診によって得た情報を総合して「証(しょう)」を立てます。証にはいくつかの種類があり、鍼灸施術の証と漢方薬の処方のための証は違いがあります。立てた証に基づいて東洋医学では施術を行うのですが、証が間違っていた場合、症状は悪化するとされています。

しかし、それは本当なのか?臨床経験を積んでいく過程で私は疑問を抱くようになりました。

立てた証に従って治療し、患者の症状が緩和される場合とされない場合があるからです。「この違いは何なのか?」を考え、過去のカルテを確認し、あることに気づきました。患者の症状が緩和するかどうかは立てた証よりも患者の鍼の響きの感じ方によって変わっていました。鍼の響きを余り感じなかったり、響きに不快感があった場合と響きに心地よさを感じたり、効いてる
感覚があった場合を比べると、明らかに後者の方が治療成績が良かったのです。この気づきに基づいて一つの仮説を立てました。そしてその仮説に基づいての治療を試すことにしました。それは「東洋医学の理論に基づいた証によって症状が改善するのではなく、患者自身が心地よかったり、効いてる感じのする響きを与えることによって症状が緩和する」という仮説です。この仮説に基づき、私は施術することにしました。その結果、患者とのコミュニケーションに従って治療し、立てた証と逆の施術をしても患者の求める響きを与えれば主訴が消失する事を知りました。それがきっかけで私はかなり悩みました。東洋医学的根拠を患者に説明し、それに基づいて治療し、その効果があるのだと考えていましたが、実はそれとは別の要因による効果だと気づいてしまったからです。それからは患者を欺きながら施術している気分になり「これはなんとかしなくては!」と必死に学び始めました。

そもそも「なぜ鍼灸は効くのか?」東洋医学ではその根拠はわかりません。

はりきゅう理論の教科書を学び直しましたがどうも腑に落ちません。教科書に記されている鍼灸に関する研究のほとんどがラットやウサギなどの動物実験が中心でした。ヒトを対象とした臨床研究が見当たらなかったのです。現代の医療はEBM(Evidence Based Medicine 科学的根拠に基づく医療)が主流で科学的根拠という概念のおかげで現代医療は急速に発展しました。しかし、その時の私はEBMについて漠然と知っているのみでその全体像は全くわかっていませんでした。

「そういえば、EBMってなんだ?」と思いEBMについて学び始めました。

「鍼灸はなぜ効くのか?」「鍼灸の治療効果の科学的根拠はあるのか?」そういう疑問を解決させるのに、まずはEBMを理解しなければ始まらないと思ったからです。学び始めて、現代医療の根拠について私自身無知だったことに思いっきり気づかされた。現代医療の発展はEBMなしに語れない。そしてEBMを確立させるための妨げとなっているのが「プラセボ効果」だということがわかりました。EBM確立の歴史はプラセボ効果との戦いの歴史でした。じゃあプラセボ効果とは何か?今度はそれを学び始めた。プラセボ効果はまやかしの効果で思い込みによるもので実際にはまったく効果がない、と考えていましたが実は違っていました。製薬会社の治験の多くは実薬群、偽薬群、無処置群で比較研究されます。プラセボ効果に実際の効果がないのであれば偽薬群を設定する意味がありません。治験で無視できないほどプラセボ効果は強力だということがわかりました。私の東洋医学で診て立てた証に基づく鍼灸治療は患者と私との信頼関係があったからこそのプラセボ効果が強く影響しているのだという確信に至りました。更には人それぞれ鍼の響きの好みが異なり、各々に合わせた鍼刺激がプラセボ効果を発揮させる要因となっていたということがわかりました。

鍼灸にエビデンスがないわけではありませんでした。

が、東洋医学は治癒へと導くストーリーとしての役割を担っていたのだと考えられます。しかし私の鍼灸治療の効果の根本は別にあったことに気づかされました。今でも自身の鍼灸は確立出来ていません。東洋医学で患者を診ていますが、患者にはプラセボ効果が大きく影響していることはお伝えするようにしています。わかりやすく丁寧に説明すると皆納得してくれます。プラセボ効果を否定するのではなく、肯定的に捉え臨床に役立てる、そういう形を今現在探り続けている途中です。臨床の中にプラセボ効果を活かすようにしてから飛躍的に患者とのコミュニケーションがスムーズになり、治療成績も患者の満足度もリピートや紹介の数が以前よりも増えたことが確認出来ます。

プラセボ効果はすべての治療効果に関わります。

手技の違い、流派の違いがあってもプラセボ効果を学び、それを活かすことが出来ます。プラセボ効果を活かすように意識しないとその逆の効果のノセボ効果も意識しないことになります。すると施術時のノセボ効果による症状の悪化リスクを知らずにいることになります。治療効果を高めるため、更には施術による症状悪化のリスクを減らすためにもプラセボ効果について一緒に学んで頂けると幸いです。まずは、治療効果の中でプラセボ効果はどのような位置付けなのかを知って頂くために治療効果の全体像を直近で記事として順次公開していきます。「すべての治療効果は3つの要素からなる」このテーマに基づいて1、自然治癒力とは?2、プラセボ効果とは?3、エビデンスとは?まずはこの3つの項目について一つ一つ掘り下げていくことと致します。

最後までお読み頂きありがとうございます。
次回もよろしくお願い致します。

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