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【俳句鑑賞】一週一句鑑賞 24.03.31

鳩ばかり春雨のモータープール

作者:イサク
出典:句具ネプリ 2024 春号

季語は「春雨(はるさめ)」で、晩春を中心に三春。一般的には三春の季語(春の間ずっと使える季語)ということで良いのですが、僕は「春の雨」が初春・仲春、「春雨」が晩春というふうに使い分けることにしています。「はるさめ」という語感が、晩春の暖かく優しい雨にふさわしい気がするんですよね。

掲句も晩春をイメージして読みました。「モータープール」とは、駐車場のこと。「鳩ばかり」とありますが、雨が降っているわけですから、鳩で埋め尽くされているという訳ではないでしょう。無人であるゆえに、鳩しかいない景が印象に残ったのではないかと思います。晩春の、ぽつぽつと優しく降る小雨のなか、ぽつぽつと鳩が数羽歩く駐車場。そんな光景を思い浮かべました。

注目すべきは、駐車場のことを「モータープール」と書いている点です。単純に、関西の方言としてローカルな現場の臨場感を出していると読むこともできますが、描かれている光景自体は全国共通のものなので、僕は外来語である点に着目したいですね。一説によると、戦後、GHQ統治下において軍用車(=motor)を駐留する場所(=pool)を意味する言葉として使われたのが始まりだとか(諸説あります)。それを思うと、「鳩」が平和の象徴としての意味を持ってくるような気がします。

かつて、戦争があり、戦後という時代があった。いま、眼前の駐車場には、「鳩」が闊歩している。束の間の平和。そこに降る「春雨」の、なんと暖かく優しいことであるか。鳩「ばかり」という表現には一抹の不安・不穏さが滲みますし、いま現在の日本・世界が戦前・戦中であることは承知していますが、日常の平和を噛みしめる一句、平和が続くことを願う一句として、僕はこの作品を胸に留めたいと思いました。

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