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王女様のやさしい命令

娘が9歳の誕生日を迎えた。
私が言うのもあれだけど、娘は真面目で優しい良い子だ。争いになるとだいたいのことは周りに譲ってしまう。

それ自体は良いことのような気もするけれど、気が強い中間子の私としては、そういう生き方って疲れないかな?と時々心配になる。我慢が積もり積もって、いつか娘が辛くなるくらいなら、少しぐらい我を通したっていいのに。

そう思って、今年の誕生日は「王女様の命令」を実施することにした。娘に王女様になってもらい、思う存分わがままを言ってもらう。

※ちなみにこれは、「王様の命令」というお話の真似。王様の代理になった王子様が好き勝手に命令し、国をめちゃくちゃにする物語。

娘と夫の留守中、私が冠を作っていると、その隣で息子はお誕生日カードを作りはじめた。

がんばてるし おふろやってるし かわいい
◯◯ちゃん おたんじょうび 9おめでとう
きすしましょう すき

訳:頑張ってるし、お風呂のお手伝いをしているし、かわいい
〇〇ちゃん 9歳のお誕生日おめでとう 
キスしましょう 好き

カードでは弟から姉への愛情にあふれているが、ふだんは息子がわがまま全開で、娘はそれに耐えながら(時にキレながら)一生懸命に対峙してくれている。若干、育児疲れをしている時すらある。

だから「お誕生日は王女様になって、家族に命令できるってどう」とアイデアを伝えたとき、娘は目を見開いて
「え、チーカマ買ってきなさい!とか?」
と超しょうもないことを言って喜んでいた。(息子はチーカマが嫌いだから買ってくるとちょっと怒る。)

誕生日の朝、さっそく娘が嬉しそうに、フォトプロップス風の冠を魔法のステッキのように頭の上に掲げる。
「ねえ、ママ。プレゼントって夜じゃないとだめ?朝もらってもいい?」
「えっ、命令してよ…」
「命令!いますぐプレゼントをもって来なさい!」
こんなやり取りを何度もした。「確認しなくていいよ、王女様だから命令して…」とこちらから懇願するスタイル。

もう9年も口やかましく育ててしまったから、本人の中にバリアがあって、自由にできない。気を遣うことがクセになっている。なんだかすごく、申し訳ない。

その後も、「お昼ごはんはマックにしてください!」とか、「弟くんテレビつけて!」とか「いまからSwitchやる!」とか(それ命令…?)みたいな優しい命令が続いた。しかも、お誕生日だけど習い事の日でもあるから、着々と用事をこなす、普通の土曜日。

あっという間に夕方になってしまった。私は腕まくりしてご飯を作る。
手作り肉まん、れんこんチップス、無限ピーマン、コーンバター炒め、きのこのポタージュ、そして和菓子ケーキ。娘のリクエスト通り、 好きなものだけで食卓を埋めていく。
娘はとろけそうな顔で、ご飯をパクパク食べ、歓声をあげながら和菓子ケーキを口に入れた。終始テンションが高い。

あまりわがまま放題という感じではないが、「私が主役!世界の中心は私!」みたいなことは感じてもらえたんじゃないだろうか…?

21時になると、息子が「いっかいきゅうけいしてから、よふかしする」と言って、先に寝てしまった。こうなると朝まで起きない。娘が嬉しそうにこちらを見る。その目はランランとしている。

「ミニチュアを、つくりたい。ママとパパと。」
ダイニングテーブルに、夫、娘、私が並んで座る。誕生日プレゼントの1つ、ミニチュアドールハウスを作るのだ。

説明書はなぜか中国語で、私は読めるのに肝心の説明書が理解できない。そして夫は中国語が読めない。パーツが異様に多くて、番号の対応表もなくて、詰んでいる。

イライラしてるから、口調が荒くなる。大工の棟梁みたいな口調で指示を出す。夫も私も不器用だから、のりが出ないと思ったらのりの蓋が開いていない、今度こそと思ったら紙が挟まっている…など凡ミスを連発。そんな悪戦苦闘する両親を見て、娘が笑うのを堪えながら笑う。堪えきれず噴き出す。

3人でくすくす笑い、悪態をつきながら、のりを出す人、のりを伸ばす人、手でおさえる人、と分担して進めていく。娘の傍らにはご命令のういろう。ういろうという存在が地味すぎるので、白とピンクのういろうを薄く切って交互に並べ、つまようじを刺して食べる。謎のパーティういろう。娘はもぐもぐ食べながら、ずっと嬉しそうにしていた。

うちの王女様はあんまり命令が得意ではないけれど、本当はやりたいことがたくさんある。甘えたい時もきっとたくさんある。「お姉ちゃんだから」と今までに何回言ってしまっただろう。彼女がやりたいこと、まっすぐに受け止められる親になりたい。そんなふうに考えた夜だった。

ちなみに、ドールハウスは3人で1時間弱格闘して、やっとカウンター1つが出来た。来年の誕生日までには完成するだろうか…

#誕生日 #日記 #子育て #育児  

*ご報告
かつて、ワタナベアニさんから旅noteにサポートいただいたお金で、娘のスーツケースを買いました。

アニさんは「旅行資金に」と言ってくださったけれど、無くなってしまうのがなんだか勿体なく、ずっと使い方を悩んでいた。

娘のスーツケースならずっと残る。親離れしても旅の相棒になる。
娘は嬉しくて何度もジッパーを開けたり閉めたり、上の小さなほうを手に持ってみたり、抱きしめたり。最後はパジャマのまま家中をガラガラ引いて歩いていた。とてもかわいい。

ワタナベアニさん、ありがとうございました!



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