理念と実践(3)人生は価値創造 「現代人物論 池田大作」小林正巳著(昭和44年9月25日)第19回

王者の心
 「一流のなかには二流、三流も含まれる。二流だけ追っている人間は、どこまでいっても一流のものはわからない。第一級の人物と接し、最高の音楽をきき、最高の本に親しみ、最高の美を鑑賞する姿勢が必要だ。すべて最高のものには価値がある」
 価値判断に対する池田の考えの一端を示す言築である。食物にしても、日常粗食にあまんじていても、最高の味も知っていなければならないというわけだ。池田は、木曾義仲の軍勢が当時の最高の文化を知らなかったために、京に上ったとき、恥をかいた故事を引用して、
「最高のものを知っていれば、何ごとにも驚かず、自らを卑下せず、蛮勇にならない。私は、学会の同志たちを木曾義仲にしたくない」
 つまり,王者の心を知らねばならないと強調するのである。だから創価学会本部の建物にしても、創価学園、創価大学にしても、時代の最先端をゆく最高の設備を追求するし、創価労会が所蔵する美術品は、みごとなものが多い。
 池田は東山魁夷の絵をとくに愛好する。絵のことは私にはわからないが、たまたま池田の色紙をみた美術商が「この人はよほど美術に対する目のたしかな人に違いない。そうでないと書けない字だ」といっていたところをみると、鑑賞眼はたしかなのだろう。
 それについて思い出すの、素人ではあるが、古い書画の鑑賞について定評のある人物の話である。彼がその道の専門家に書画を見きわめる方法をたずねたとき「古画なら雪舟を枕元において、毎日みることだ。最高のものを知れば、それ以下のものの価値がわかる」といわれたそうである。この言葉は、一流のものに、二流以下が含まれるという池田の指摘とも共通するものがある。同時に、絵に限らず、あらゆるもの、もちろん人間についてもいえることだろう。余談だが、池田が自分のもっていたものを幹部にプレ ゼントしようと考えて「どのくらいの 価値のものだと思うか」と聞いたそうである。ところが手にとってためつすがめつ眺めていたその幹部の答えは、実際の百分の一以下だったとか。「一桁の違いならまだしも、二桁以上も低い評価では、持つ資格ないでしょ。だからヤーメタといったんです」とおどけた口ぶりで話してくれたこともある。

価値の創造
 「価値創造が人生である」と池田はいう。創価学会の活動も、価値創造を目指している。象徴的に現われているのが創価学会の文化祭である。
 昭和三十九年の文化祭では、同じ人文字でも、そこに描き出されたのは固定した絵だった。それが四十二年の文化祭では動画となった。はじめ小さく現われた鷲が、だんだん大きくなると、左右に飛びまわる。一隻の舟が、左右に揺れる波を乗りきる様子が、人間壁画の中に 描き出され、その素晴しい迫力はテレピの画面を通じて世間を驚かせた。つまり、新しい価値の創造である。
 四十三年東京で開かれた第一回の芸術祭では、客席の中央に背景のない舞台をしつらえ 、光線、音響効果などを使って新しい舞台芸術を追究してみせた。ここに参加する人たち自身が、マンネリ、停滞を許さないのだ。
こうした価値の追究 、牧口初代会長の著わした「価値論」に発している。池田によれば,この価値論は日蓮正宗の生命論へ入る窓口というが、平たくいえばこうだ。

充実した人生
 幸福な生活とは、価値を十分に獲得し、発揮することのできる生活をいう。充実した人生 価値の内容は美醜、利害、善悪に分け、美、利、善は正価値、醜、害、悪を反価値とする。美とは、部分的な生命に関する感覚的、一時的価値で、目、耳、口、心などの六感で感じる美しい、おいしい、いい音楽、いい匂など。利は一生に関するもので、月給をもらうこと、商売でもうけること、災難からのがれること、健康になることなどが含まれる。いわゆる損得、利害がこれだ。善の価値は、社会的価値である。美、利は個人が価値を判定するが、善は社会が主体となって評価す 。一家族に利と美を与えること、一会社、一国、世界全体に美と利を与えることを内容とする。そして価値としては、美より利、利より善がより重要である。同じ善でも、一団体より一国に利を与える方が、価値が大きいし、一国より世界に与える利の価値はさらに大きくなる。
これを具体化すると、
一、好ききらいにとらわれて 利害を忘れるのは愚である。(良薬口に苦しの例)
二、目前の小利害に迷って大きい利害を忘れてはならない 。
三、一身一家の利益に目がくらんで、国家社会の公益を害するのは悪である。
四、小善に安んじて大善に背けば大悪となり、小悪でも、大悪に反対すれば大善となる。
五、同じ小悪でも、社会的地位のあがるにしたがって大悪となる。
 この価値判定基準にしたがって、創価学会が目指すものは、善のなかの大善、具体的にはさきに述べた個人の幸福と、社会の繁栄を一致させる福祉社会の建設(王仏冥合)、世界平和の実現が究極の目標になる。

池田の言葉。
一生涯、価値創造の人生。
一生涯 、建設と開拓の人生。
一生涯 、王仏冥合に邁進できる人生。
これほど充実した喜びの人生があろうか( 大白蓮華 巻頭言)