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婚活かあさん

「あんたたちに老後の面倒は見させん」

私が高校1年生の頃、両親が離婚した。
その数ヶ月後、一念発起した母が婚活すると宣言した。

当時は平成真っ只中。まだインターネットは、10代のホームページやブログ、2ちゃんねるの時代。

父が出て行った、古い木造建築の5LDK。そこに、母方の祖父母、母、姉、犬2匹と暮らしていた。
母は当時、パートとして働いていたが、年老いた両親とまだ学生だった娘2人を育てる経済力があるわけではない。

「お母さん、婚活するわ。」

世の中に「婚活」という言葉が出始めた頃だった。正直まだ思春期を抜け出しきってないので、自分の親が恋愛を始めるというのは少し気持ち悪かった。

若い頃の母は、今でいう街角スナップのような新聞のコーナーに載ったこともあり、小柄で可愛らしい感じだったので、その気になれば結婚できると思っていたらしい。自信だけは人一倍ある。

結婚相談所に登録した母の「婚活」が始まった。

しかし早速、相談員さんに衝撃の事実を伝えられる。

「あなたが結婚できる確率は、0.3%ですね」

年老いた両親がおり娘2人、非正規雇用で子どもを産むほど若くもない母の再婚は、婚活的には相当厳しいらしかった。地元の福岡県内では相手を探すのは難しいので、全国に範囲を広げて運命の相手を探すこととなった。

母は一度だけ婚活パーティーに参加した。
そこには、結婚したいという同じ目的を持った、全く異なる職業や性格の人たちが集まっていた。

母は、当時30代後半の美人な女性と親しくなった。美人な彼女でさえ、なかなか結婚相手が見つからないそうで、婚活というものはなかなか厳しいものようだった。

ある男性が「趣味はバスツアーです」と話していたので詳しく聞いてみると「団地をバスで回っています」と話していたそうで、人の趣味というのは多様性に溢れている。

と、最初はここまで私が書いていたけど、母から補足がある。
「私が婚活パーティーに行ったのは1回だけど、そこで3人に交際を申し込まれて、うち1人には子どもを産んでほしいと言われたよ」
モテた自慢はしっかりしたいようだ。

母は結局、福岡県内で「いいお相手」を探すことが出来ず、名古屋の人とお見合いし、付き合うことになった。

彼は母と同じバツイチで、大手企業の会社員だった。大層母に惚れ込んでおり、手紙や書類を速達で送ってきた。毎日何時間も電話していて、私はちょっと呆れていた。

ある日、その彼が福岡の自宅に挨拶に来ることになった。同居している祖母(母の実母)は、彼を見るなり、
「私は、ハゲは好かん」
彼は髪の毛が心許なかった。

そして母と彼は約2ヶ月の遠距離恋愛の末、めでたく結婚することになった。
確率0.3%を勝ち取ったのだった。

そこからの母はとても幸せそうだった。
夫婦で海外や国内をあちこち旅行に行っていた。
「スポーツマンなところとか、ちょっとだけ、学生時代の彼氏に似てるんだよ」と嬉しそうに話してくれた。

母の再婚相手は私を養子として迎え入れてくれ、私たちは家族となった。

↓ドラマでも話題の一冊

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