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EVERYDAY大原美術館2023 vol.16「桃太郎なんて大キライ!!」

AIR(アーティスト・イン・レジデンス)という言葉、聞いたことある?
作家に来てもらって、滞在しながら作品制作をするプログラムのこと。

大原美術館も「ARKO(アーティスト・イン・レジデンス・倉敷・大原)」
というプログラムを2005(平成17)年からスタートして、初めてその会期中に作品を見ることができた。(本人にも会えた)

せっかくだから

あなたが、よそからやってきた人だとしよう。
倉敷に3カ月間滞在して、何を強烈に感じ取るか。
考えてみてほしい。

作家の立場からしたら、せっかく倉敷で制作するなら、
倉敷の空気、倉敷のホットな部分を自分が吸収し、
自分の変化を見てみたいと思うのではないだろうか。

今回の作家・谷原菜摘子さんは何を題材に、何を描いたのだろう。

谷原菜摘子作「新竹取物語」

チラシ

谷原さんは、桃太郎ではなく「温羅(うら)」を見た。
岡山県民でも「桃太郎」を揶揄する人もいるが、まずはよく知ってほしい。
その上で、一緒に揶揄してほしい。

まず、「温羅」を知らない人のために、こちらの絵本を。

難しくない。簡単なストーリーだ。
犬や猿、キジを連れて鬼退治に行く話ではない。
私は好きだ。

あなたは誰?

岡山に生まれた私たちはずっと、桃太郎の子孫だと思っていた。
いやいや、そんなに高貴な血筋?と誤解をされそうだが、
桃太郎側の人間だと思っていた。
つまり、心優しくて、悪を倒し、平和をもたらす側の人間だと。

温羅の話を読めば、わかる。

私は反対側にいる

読めば、地球は反転する。
吸血鬼を取り巻くコウモリのように。

私はいつも鬼退治をする桃太郎の後ろ、桃太郎側にいた。
そのほうが安全だった。その方が楽ちんだった。
その方が良いと思って生きてきた。

しかし、私は違った。
残念ながら、我々は気付いていない。
我々はあっち側の人間ではない。こっち側の人間だ。

鬼の血が流れる温羅なのだ。

JR岡山駅前の桃太郎像

岡山にはたくさん桃太郎がいる。
空港は「桃太郎空港」、JR吉備線は「桃太郎線」と呼ばれる。

桃太郎像は、桃太郎側の人間が作ったものではない。
我々は桃太郎が好きで好きでたまらない!
わけではない。

だからどこか、もういいやん、桃太郎は。
と飽き飽きしている。

谷原さんの復讐心

チラシに出てくる王子の顔は、グロテスクで憎悪がすごい。
その表情が凄すぎて、漫画の如くデフォルメされた姿に見える。
また一方で、人が人を殺める瞬間の顔はこんな顔をしているのかもしれない。まさに妖怪。人は妖怪になるのかもしれないという、見たことない世界に足を踏み入れたような怖さがある。

キラキラした死の美しさ

光の反射率が0だと言われるベルベットの黒に描かれた絵。
光があれば闇があり、闇は光と共にある。
闇に落とす光は、ビーズなどをあしらい、キラキラしている。
そのキラキラした光は、闇を一層暗くする。

一方で、キラキラした世界への狂気を感じ始める。
闇との対照ではなく、キラキラした狂気に漆黒は沈黙を始める。
桃太郎のようなキラキラした存在に、じっと静かに動きを止める温羅の姿のように。

ひがみ・そねみ・ねたみ・つらみ

もっとも醜くて、もっとも避けたい、4つの感情。
しかしながら、これこそが人間たらしめていると言っても過言ではない。
誰かと比べ、誰かと競い、誰かを羨むことで自分を表現する。
悲しい動物だ。

岩のような

物語の始まりにも、終わりにも「岩」が登場する。
ただそこにあるもの存在。
何かをじっと守り、何か封じ込めてきた。
いつか地球上には、岩がどんどん積み重なる。
波が岩を何年もかけて溶かしていく。
長い長い年月をかけて。
そうして、また岩も救われる。

谷原さんの作品

9月24日まで見ることができる。
普段は、勝手に作品を見て、勝手に解釈をしているが、
今回は作者からお話を聞かせていただいた。
幸運にも質問させていただくこともできた。

これまでとは違う鑑賞体験ができたことにAIRのありがたさも感じている。

私も闇を

なんと!谷原さんと共にベルベットに装飾体験をさせていただくことになりました。
私の闇はどれほど深くなり得るのか。
おそらく楽しいが優先される体験となりそうです。





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