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ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』

一度読んでしまったら最後、読めば読むほど「ねじがぎりっと回転するように」物語が脳に食い込んでいく。『ねじの回転』というタイトルはこの作品の禍々しい魅力を表すと同時に、読者がこの物語の謎から抜け出せなくなるという構造的仕掛けをも表現しています。

私もこの作品の魅力にはまり込み、磁場に引き込まれて抜け出せなくなってしまいました。

こんな私の様子を見て作者のヘンリー・ジェイムズはさぞ喜んでいるに違いありません。

さて、これほどまでに私を魅了するこの作品の面白さは一体どこにあるのでしょうか。それを一言で表現することは難しいのですが、読者がどう見るかによって作品の表情や印象が変わってしまう立体性が挙げられます。

読者の虚実の揺らぎを起こす語りの構造、さらには当時の文化コードの巧みな埋め込みが加わり、作品の色はプリズムのように変化します。これによって読者の頭は揺さぶられ、解釈のスペクタクルの魔に憑りつかれてしまうのです。

簡単に言うと、この作品はゴシックホラー小説としても、現代的な心理小説としても、当時の社会風刺小説としても読むことができます。さらには耽美小説だと思えば耽美小説としても読めてしまうのです。どれだけ懐が深い作品なのでしょうか。

原題は"The Turn of the Screw"です。Amazonの無料版電子書籍もいくつか出ています。

現在入手しやすい翻訳は下記のとおりです。

『ねじの回転・デイジー・ミラー』 行方昭夫 訳、岩波文庫
『ねじの回転・心霊小説傑作選』 南条竹則・坂本あおい訳、創元推理文庫『ねじの回転』 土屋政雄 訳 光文社古典新訳文庫
『ねじの回転』 小川高義 訳 新潮社文庫

いずれも優れた翻訳ですが、それぞれ表現やトーンがだいぶ異なっています。翻訳者の解釈が多少なりとも翻訳言語に表れているのでしょう。

私の個人的な好みで言えば創元推理文庫ですが、原文を読み、複数の訳を読み比べると作品をより堪能できると思います。



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