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私が出会ったサンタクロースのお話

その日、外は雪がチラチラ降る
Xmas目前の日曜日でした。

”あんたのベイビー頭が寒そうね~”

アパートのフロアで声をかけてきた彼女は
教会から帰ってきたばかりなのか
かなり派手めの帽子をかぶり
パールのネックレスを胸元でゆらしていました。

見かけない人だなっと少し警戒気味な私の心配をよそに、
抱っこ紐のフードからはみ出た私の息子の頭に
ゆれたパールがあたらないようにと気をつかいながら
彼女はその太くて黒くて働き者らしき指で
息子の頭を柔らかくなでるのです。

”サンタがきたら知らせるからね
 それまで部屋でまっててね”

なんのことをいってるのか
その時の私にはその言葉の意味がよくわかりませんでした。

”あんたも寒そうね~
早く部屋にもどってあったかくするといいわ”

フロアのもみの木のツリーの横に無造作においてある
レンガ色のソファーに腰掛けながら
彼女はつけていたネックレスを首からはずし、
もこもこのダウンも脱ぎ、
その下に着ていた
ふかふかのセータまで脱ぎだしていました。

国の条例で
室内はTシャツでも過ごせるぐらいの
オートヒーティングに保ってあるので
冬でも常夏スタイルになる人種も珍しくないのです。

息子が少しくずりだしたので
おしりや背中をポンポンしながら
暑がりであろう彼女のセータを脱ぐその様を横目に
部屋にもどろうとすると・・

”ちょっと~誰かハサミもってきてよ~”

っと、薄着姿の彼女がいきなり声を荒げたのです。

アパートのフロアには
いつも近所の住人達が誰かしらたむろっている共有スペースがあり、
その日も
ラジカセのチャンネルをカチャカチャチューニングしたり、
テレビ番組の品評話をしていたり、
分厚い本を顔にのせ眠りこけていたりと、
各々の場所に椅子を持ち込み
勝手気ままな時間を過ごしている住人達の姿がありました。

その傍らで
ハサミ!ハサミ!と誰かを呼びつつウロウロする彼女が
どかどかと歩き回ると
ソファのあたりの砂埃がぶわっと舞い上がるのですが
まるでその砂誇りが金粉のように
天窓から差し込む太陽光にキラキラ反射して
それはそれはとても綺麗なのです。

なんだかその時、不思議なほどにその光景に心を奪われ
階段越しにしばらくぼやっと立ちつくしていました。
息子もぐずっていたのですが、
そのキラキラ埃の反射をみるやご機嫌よくにこやかに笑うのです。

あの光景は
神様からの”時のお知らせ”だったんではなかろうかと
今更ながらスピ感とやらが働くもんなのですが。

当初は、そんな妖精スピタイムのサインなど
気づいたりするような”感”もなければ
そもそも興味もなければ
知識ももちあわせていないわけで。

フロアで

住人a「あんた、もうその服着れなくなったのー?」

住人b「この間、買ったばかりじゃないのさ」

住人c「いい加減体重減らさないと銃のまとになるわよ~」

  WWWWWW…

みたいな。

ディスリというか。かけあいというか。
いかにもアメリカンといいますか。

あ~ここはほんとにアメリカなんだね~と
思い知らされるような
住人達のむやみにでかい複式呼吸ばりばりの声量と
テンポの速い会話のやりとりを
ただただ唖然と階段越しからみてるしか術もなく。

しかも、
いつのまにかハサミを手にした彼女が
さっきまで着ていたあのふかふかセーターを
ジョキジョキ切り刻んでいる光景をみて


あああ”~~
あああ~~~〇▽✖?#
ってな、妙な奇声を思わずだしてしまうのが
現地言語ボキャのない日本人なわけです。

そんないかにもアホっぽいリアクションが
彼女たちの沸点の感に障ったのか。
半ば半ギレのジェスチャー返しが飛んでくるのです。

しっしっ

そして雷のごとく怒鳴られるのです。

「あんたまだいたの!
 ベビーが風邪ひいたらどうすんの!
 神様に怒られるでしょ!
 早くもどんな!」

こわっ・・
はよ部屋かえろ・・

そんな彼女たちとのつかの間タイムを退散し
日中日夜育児に追われ
彼女の存在などすっかり忘れていた
Xmasの朝。
ドア下にカードが挟み込まれていました。

getting's it! 
Santa Claus is coming to ”201”

 「サンタきてるよ」

   ???

フロアに降りていってみると
もみの木の下にたくさんラッピングした箱がおいてあるのです。

うっわ~まさにアメリカのXmas風景。

興奮しながら
積みあがった箱を覗き込んでみると
息子宛の箱があるのです。

  !!!!!!

ハッピーホリデー!オープン!

黒マジックで書かれた箱。

開けてみると・・・なんと!

ふっかふかの毛糸のベビー帽子に
たくさんのお菓子がつめこんでありました。

  !!!!!!

まぎれもなく。
あの時彼女が切り刻んでいた
,ふかふかのセーターの糸でリメイクしたXmasプレゼントだったのです。

”サンタがきたら知らせるわ”

あの言葉の意味が
ここでつながったのです。

しかも。

箱の底には5ドル札がはさんであり

”マミー、アップルサイダー飲みなさい。あったまるわよ”

と書かれた付箋がペタっと無造作にはってありました。

 Santa Claus is coming to ”201”(当初の私の住んでいた部屋番号)

子供だけでなく私にまで・・・
なんてなんてあったかい・・

鼻の奥がツンとして嬉しくてせつなくなりました。

とにかくお礼を言わなくちゃと
日本製の小麦でパンを急いで焼き
あの日、アパートでくっちゃべってた住人に
彼女の部屋はどこかと聞いて回ると
皆がこう云うのです。

 
彼女は昨日死んだよ。


いやいやいやいや。またなにいってんの。


あれから月日がたち。
息子をつれて帰ってきたこの日本で
私は毎年、TheChrismas songというタイトル曲を歌います。

彼女との短くもあったかく、
一期一会だったあの一瞬の時間を
私は毎年歌うこのクリスマスソングの背景に描きながら歌っています。

ふかふかの帽子

2006年のXmasイブの夕方。
南部出身の彼女は
ギャングの抗争の流れ弾にあたって
命を落としました。

プレゼントのお礼もハグもできないまま
一期一会の思い出になった彼女は
私と息子にとってのサンタクロース。

彼女からもらった”あったかい”を
今年も沢山の人に歌で届けます。

Santa's On her way
Don't discriminate against strangers from other countries.
Be considered.
Between poverty and ingenuity, there is compassionate love.
Finding joy is the key to a free and fulfilling life.
Thank you always.
At that time, at that time.

私にとってのサンタはね
見知らぬ異国人にも分け隔てなく
心を配るんだよ
貧困と工夫の狭間には
思いやりある愛があってね
楽しさを見出すこそ
自由で心豊かな暮らしなんだよって
教えてくれるんだよ
感謝するんだよ。その時その時をってね

Brooklyn アパート前

精霊になったサンタから届いたベビー帽子は
息子が当初大事にしてたくまのぬいぐるみに被せて
リビングのピアノの横に座っています。

今から17年前。
NYブルックリンという街の片隅で
私たち親子が出会ったサンタクロースのお話です。



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