絵日記_編集済み_

あたたかい鳥の生肉に、心の底からの「いただきます」を −拝啓、西条より。移住コラムその3

おきてがみ編集部の長尾愛里です。昨年9月から愛媛県西条市に移住しました。現在は「Next commons lab 西条」という一般社団法人に所属し、フードディレクターとして食に関する仕事に携わっています。

移住の経緯やこれまで感じてきたことは、移住コラム1回目2回目でまとめています。良ければ合わせてご一読ください。

愛媛県西条市に移住してから、早くも半年が過ぎました。あっという間の半年でした。移住して後悔したと思うことは、一瞬もない半年でした。自分が希望すれば何でもできる環境にあり、それを支えてくれる豊かな自然や面白くて熱い人たちに囲まれて、ありがたいなと日々思います。そして、移住したら必ずやりたいことがいくつかあったのですが、その一つが「生き物を捌(さば)く」ということです。

※ここからは生き物を捌く話が続きます。ショッキングな描写や写真は避けていますが、苦手な方は読まないことをお勧めします。

ずっと経験したかった、捌くという経験

ずっと、生き物(特に、捌いた後に食肉として食べられる動物)を捌く体験がしたかった私。なぜかというと、「食」の仕事に関わっている以上、食材たちの生まれる瞬間は、経験しておかねばならない現場だと思っていたからです。

食の世界に関わり始めてから、農地で野菜や果物が育つ現場や、海から魚が引き上げられ、調理場に向かうまでの現場は見てきました。けれど、肉への加工現場は全くの未経験。いつか自分で捌いてみたいと思っていたところ、西条市内にある「ちろりん農園」の西川さんが烏骨鶏を捌くというので、体験させていただくことになりました。

(西条の美しい山々を眺められる小高いところに、西川さんのお家があります)

鳥の肉の温かさ

初めての鳥捌き当日。敷地内に入ってすぐのところに、今日捌かれる烏骨鶏がいました。親鳥のため、生まれて2〜3年経つと捌いて食べているそうです。まずは、西川さんに烏骨鶏を捌くまでの手順を教えてもらいました。そして、実際に自分で捌き始めます。心の中で「いただきます」と言いながら、烏骨鶏を屠殺するまで、ほんの数分。胸肉・ささみ・もも肉を順番にナイフで切り出していきます。

自分で鳥の生肉を切り出して、驚いたのが、肉がとても温かいことでした。その温かさは、さっきまで生きていた鳥の体温です。当たり前では?と思われるかもしれませが、見た目はスーパーに並んでいる肉の切り身と変わりません。スーパーに並ぶ鶏肉は、鮮度維持のため冷たくなっています。この感覚に慣れすぎている私は、手の中にある肉の生温かさに衝撃を受けました。これが、とれたてのお肉の感触と温度でした。

捌いた日から数日経ちますが、この温かさと、屠殺した烏骨鶏の安らかに眠る顔は、何度も反芻しています。きっと、一生忘れない感覚と景色になることと思います。

(黒い烏骨鶏を捌いたので、肉も黒みがかっています)

捌いたささみはすぐに刺身にして醤油でいただき、胸肉はシンプルに焼き、もも肉は骨ごと煮込んでスープを作りました。特に、ささみの刺身は絶品でした。西川さんが「大トロという人が多いよ」と仰っていましたが、まさにその通りでした。

自分で捌いたというのもありますが、どれも味は格別。おいしさを噛み締めながら食べるとはこういうことか、と思いました。「いただきます」と「ごちそうさま」に、これほどの重みを感じた日はありません。これらの肉は今、私の身体を作ってくれています。死の上に生が成り立っていると、身体をもって体験した1日。ごちそうさまでした。

(まさに大トロのような味のささみの刺身)

煮干しで行う解剖実験

先日、一般社団法人「食べる通信リーグ」代表理事で、株式会社ポケットマルシェ 代表取締役社長の高橋博之さんの講演を聞きに行った際、こう仰っていました。「今の小学生たちの解剖実験はカエルではなく、煮干しで行うそうです」と。きっと、保護者の方々からの意見や要望があったからこうなったのでしょう。ですが、もともとの海での姿を失った、生きていない煮干しで、命の成り立ちが分かるのかどうかは疑問です。

だからといって、鳥を捌いた方がいい、とまではいきませんが、その動物が生きている姿のままから、口に入れるまでの瞬間まで全て自分で行う経験は、それからの食体験の視点を広げてくれると、私は思います。命のリレーを学ぶ、素晴らしい機会を提供してくださった「ちろりん農園」西川夫妻に、大きな感謝を。

そして、恒例の絵手紙もあります。良かったらご覧ください◎


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