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紅葉 Japan Autumn leaves

世界一紅葉の美しい国ー

さわやかな秋晴れの10月初旬、チミケップ湖へ出かけました。
この湖の名前は、アイヌ語の「チミ・ケ・プ(cimi-ke-p)」に由来すると考えられ、これは「分ける・削る・もの」という意味で、上流の峡谷の姿、すなわち「山水が崖を破って流下する所」を現したものと考えられています。
美幌町を抜け、津別町をさらに阿寒へ向かう途中から、陸別方面に行き、すぐ右手の道路に入ります。ここの地名を本岐と呼びます。昭和後半までも開拓農家が次々撤退した寒い地帯です。
山裾の牧草地の中を走ります。酪農のための牧草ロールが白色にラッピングされて、点々と転がっています。
道路は、やがて砂利の未舗装となります。まるで林道のようです。
路肩は弱いかも知れません。ゆっくりと慎重に運転してゆくと、明るく視界が開けます。

そこが、チミケップ湖です。
北海道オホーツク地方の奥座敷の一つとも呼ばれ、世界自然遺産・知床同様の原生林に湖は包まれています。
山肌は、まさに錦秋という言葉がぴったりです。
赤や黄色、オレンジ色があり、常緑樹などの緑色も混ざって多彩で美しいです。
湖を左に見ながら進むと、まもなくチミケップホテルに着きます。
小さいながらも高級な本格的リゾートホテル。ここは宿泊せずとも、喫茶できるのが何とも素敵です。(いまもあるかしら?)
ここから散策路があります。およそ40分ほどで登れる展望台があります。
クマがいそうな匂いのする森深い感覚がします。クマがいるかも知れないという恐怖は、いまの日本では、とても贅沢なことなのかも知れません。それは人間が忘れている生物としての緊張感を呼び起こしてくれるからです。
森林浴ウォークへの欲求の気持ちが上回ります。湖畔の森の散策路とは、なんともロケーションが素晴らしいではありませんか。

そもそも、不思議な現象、紅葉の仕組みとは何でしょうか。
植物には緑色の葉緑素、そう、光合成をする大切なもの。
そして黄色のカロチノイド、赤と青と、それが合わさった紫色のアントシアン、黄色のフラボノイドの4つの色素が含まれています。
このうち紅葉に影響するのは、黄色のカロチノイドと、赤のアントシアンです。

夏からだんだん秋に向かい、日射しが弱まってくると、緑色の葉緑素が減り、黄色のカロチノイドが目立つようになります。

一方、葉が赤くなるのは、気温が下がってくると、葉に栄養分が届きにくくなり、デンプンがたまってきます。それが分解されて、赤いアントシアンに変化するためです。
これは、リンゴなど果物が赤くなるのと、同じ原理です。

美しい紅葉になるための条件は、その年その年での気象条件にはよりますが、夏が暑くて日照が多いことと適度な降水があり、初秋には台風などの強風がないこと、秋になっての寒暖の差が大きいことなどが要因となるようです。

さらに、最低気温が8℃以下になってから見頃になるまでの間に、雨が多いと、色づきが悪く、逆に日光を十分に浴びると、きれいに色づくと云われています。
なんとも条件が複合的です、一体、何をもって今年は紅葉の当たり年だの、ハズレ年だのという人たちの多いことでしょう。それほど毎年の紅葉を楽しみにしている目利きの熟練の人たちがいると云うことなのかも知れません。

森を散策していると、空気が透き通っています。風がそよそよ。小鳥たちの歌が聞こえます。
秋の景色は、透明感があって、自然をより美しく変身させます。
魔法がかけられたみたいです。
景色にとっては、ほんの薄化粧かも知れません。まるで絵の世界のようです。
カーテンの柄にしてはどうでしょうか。部屋が落ち着かなくなりますかね。
今流行のプロジェクションマッピングでも良いかも知れません。いえ、動きには向いていないかも知れません。どうでしょうか。

足下にどんぐりを見つけました。
「どんぐり図鑑」なるものがあるほど、どんぐりと言うのは奥深い世界です。
古代縄文や弥生には食糧ともなっていたほどですから、現代の子どもたちと調理などを試してみるのも楽しいかも知れません。

ひとつ見つけると、ふたつ、みっつと、どんぐり眼(まなこ)になり、どんどんと手のひら一杯になります。
どんぐりは樹木、そう、落葉広葉樹の種でもありますから、拾って持ち帰り、土に浅く埋め、水をこまめに与えていると、やがて根が出てから、芽が出ます。
芽が先ではないのです。これは意外な盲点です。すっかり根のことは忘れていた子どもの頃を思い出します。

森林インストラクターの教材によりますと、日本は世界に誇りうる紅葉が美しい国であり、それは奇跡とも云われています。
欧米での紅葉と言えば、単色が多いです。それに比べて日本は、赤や黄色、オレンジ色があり、常緑樹などの緑色も混ざって多彩で美しい紅葉が見られます。
紅葉する木は、欧米では約13種類あるそうですが、日本にはなんと約26種類もあると云います。
なんと恵まれたことでしょうか。

さまざまな色合いを彩どる錦秋になるには、悠久のロマンのストーリーも加わります。

それは氷河期時代まで遡ります。
日本は氷河に完全には覆われなかったおかげで、紅葉する落葉広葉樹が残されました。

そして、気候がまさに良いのです。
ヒマラヤからの偏西風などのおかげで、適度な降水と気温などが保たれます。
昔から人々は里山や神社などに紅葉する樹木を植えて、愛でてもきました。
絶妙な条件がそろって、今に、目の前に紅葉を楽しめているわけですから、自然の奇跡や不思議さに感じずにはいられません。
いえ、奇跡ではなく、必然の選択の結果が、いまの自然の姿なのかも知れません。
日本は、世界に誇りうる紅葉が美しいと云う、ひとつの物語があります。

さあ、散策路の帰路につきます。あと30分も歩けば駐車場です。
チミケップ湖とも、もうすぐお別れです。
ほどよい運動と、帰路を辿る達成感に似た心の余裕から、つい口ずさみたくなる心地になります。

そんなときには、ぜひ、「水戸黄門」のメロディ♪に、「どんぐりころころ」の歌詞を合わせて歌ってみて下さい。
山歩きを下山するときなどでも構いません。
歌い終えると、くすっと笑うように、韻(いん)がぴったりなことに驚くことでしょう。

(参考資料:全国森林インストラクター養成講習改訂3版)

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