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恵庭岳

日程:2002年8月18日
メンバー:Iさん、Iさんご友人、ぼく

 いつも釣りをしている支笏湖からその鋭意な姿を湖面に逆さまに映していて、ちょっとひそかに行ってみたかった恵庭岳(えにわだけ)1,320mに行く機会に恵まれました。
エ・エン・イワ(頭が尖っている頂の意味)通り、まだ噴火口を持つ円錐形火山で、その爆裂火口は東側にポロピナイ沢として湖岸にのびている山です。
山の西面は、かつて1972年の冬季オリンピックの滑降コースにも使用された地ですが、今は植生が回復、復元されています。

 さて、朝早く起きて、フトンなどを洗濯して、朝晴れのベランダに干してから、待ち合わせたIさんたちと札幌を出発しました。
 今回の同行者は、6月に一緒に空沼岳へ登ったお2人さんなので、ずいぶんと平均年齢の若い山行です。
国道453号線沿いにあるポロピナイ登山口から、ようようと3人で出発したのは、9時25分。
砂防ダムの横を通り、薄暗いトドマツの林を辿っていくと、急登が現れるも、登山道はジグザグに優しく続いていきます。
 10以上のパーティが先行していて賑やかです。
ぼくたちは「黒岳」と胸にプリントされた赤いTシャツを着たご家族連れや若い大学生パーティの方たちと抜きつ抜かれつ、足下にある名前の知らないいろんなキノコ、ツバメオモトの群青色のビロード球の実に包まれながら、歓談して歩を進めておりました。
「あなたの夢は何ですか?と訊かれたら、どう答えるかなあ?」
「一週間以内に叶えたいこと、できることって何だろうね」
そんなたわいもない、だけれど子どもの頃の時間や可能性に比べたらどこかで失ってしまったものの欠片を探すような、そんな会話をしておりました。

 再び、胸に「黒岳」の人が追いついてきます。
 樹林帯は新しいのか、ササがなく、林床は明るい感じです。
これはタケシマランかなあ?、これはギンリョウソウかなあ?といろいろと教えてくださいます。
6合目を過ぎるとあちこちにロープが張られ、その急登が楽しいものになり、また同時に落石に注意となります。
 そしてポンと飛び出たところが「見晴台」と呼ばれる地点。
雲に包まれながらも、支笏湖岸の柔らかな曲線や湖面、爆裂火口などが一気に一望できる映画館の客席のような、安山岩が露出した所です。
ここから約30分ほど先にある第2見晴台地点から頂上までは、崩落の危険のため登山禁止になっているとの情報だったので、行動はここまでとすることで一同納得(賛同?)し、ランチタイム。
女の子は、やっぱり食べ物に対する感覚が違いますね。
フランスから持ち帰ったというブルーチーズとかというものを初めて口にしましたし、今流行しているという「カスピ海ヨーグルト」なる存在も初めて知りました…

ゆっくりと眺望を楽しみ、黒岳Tシャツの人と会話をしてから、12時に下山開始。
ロープの補助をいただきながら、せっせと急登に足を落としていきます。
ようやく緩斜面の樹林帯になった頃から、またあれこれと会話。
なんでも2人は職場で知り合ったようで、まるで恋人のように仲が良いです。

Iさんが、立ち止まり、陽射し差し込む林を見つめ、幹に触れて云います。
「自然の色って、きれい」
誰が言うわけでもなく3人は足をとめ、無口となり、じっくりとその樹林の空間を遠近と見渡し、静かな時間が流れます。
そして時間と意識を感じたとき、再び麓へ向けて歩を進めます。
鳥にでも食べられたのだろう、腹部を失ったエゾゼミが、透明な羽と背中の美しい文様を見せて、パタパタと生きていました。
拾い上げて、そっと樹の元へ。
日本人の情緒や季節を感じる心や言葉の繊細さ、ヒグマの生態等について話し合いながら、そして明るい午後の陽光を浴びた砂防ダムのコンクリー
トに迎えられました。

 いとう温泉へ行き、湖岸にある露天風呂で、湖から渡ってくる風を感じながら、贅沢に体を湯で癒していきます。
入浴時間に差があるので(笑)、ぼくは入浴後、車からタックルを取りだして一人で風を感じながら、波間にルアー釣りを楽しんでみました。
 2人がさわやかな素顔で温泉からでてきたとき、一緒に見上げた湖の空には、筆で描かれた絹のような秋色の雲が高く彩られていたのでした。
 そして、ぼくの思考回路や感覚にないことを次に2人は云います。
「ソフトクリームが食べたいよう」

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