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山椒魚は悲しんだ

2.27 月

 おでこを育てている。
 私は今、キッチンで豆苗を育てるように、おでこを育てている。おでこを育てるために評判のメイク落としを買って、若い子に勧められた洗顔を使い、洗顔後はタカミスキンピールて緩やかにピーリングを行う。化粧水乳液の他に美容液、美容クリームを刷り込んでいる。

 自分のおでこが好きじゃない、それも年々好きじゃなくなっていくなぁと思っていたんだ、必要なのはきめ細かさと柔らかさで私にはそれが足りない。
 患者さんの検温をおでこでピッとする事が多いので、他人のおでこをよく見る。
 おでこには年齢が出る、年齢どころか生活習慣も出ている。(気がする)
 年齢はいい、みんな歳をとる、シワシワになってもいい。ちりめんみたいな皺が広がる、柔らかそうなおばあちゃんのおでこに憧れている。きめ細かい皺が目標。

 おでこ、一点を育てていると思っていると、自己肯定感も上がる。今日のおでこいいんじゃない?おでこ育ってきたんじゃない?おでこを褒めて伸ばす、日々だ。

 頬のシミも目の下のクマも鼻の毛穴も、気にしない、君たちは所詮おでこの付随品だ。…でも、君たちも育ってくれていいんだよ。という気持ちで、今日もおでこを育てている。

2.28 火

 山椒魚は悲しんだ。

 昔からこの書き出しが好きだ。時々悲しい事があると心の中で唱えてしまう。「メロスは激怒した」はそうでもないのになぜこのフレーズがここまで好きなのか、不思議だけれど。

 最近スタッフが恋をしているらしい。
 30歳、結婚したいとはじめたマッチングアプリで良い出会いがあったみたい。「よかったじゃん。」という。「付き合えたらいいね」と応援する。そう言葉を発している心のどこかで、上手くいって結婚したらこの子もまた、辞めるのかなと心が冷える。
 たくさんのスタッフが結婚・出産で辞めて行った。仕方ないことだけれど。

 冗談にする。
 「そうやって、みんな私をこの洞穴みたいな職場に残して消えていくんだ、私の事は山椒魚と呼んでくれ。」その場にいたスタッフ全員にキョトンとされた。
 私だけここから逃れられない悲観と、気を抜くと「ちょっとその人やめた方がいいんじゃ無い?」とか恋の足を引っ張ってしまいそうな、嫌な人間になりそうな自分・・秀逸な例えだと思ったんだけどな。

 その後、どうやら「山椒魚」を知らないスタッフにかいつまんで物語の内容を話したら、最後閉じ込められた蛙が動けなくなった辺りで「ええ〜!!」と件の彼女がすごいリアクションをしていた。
(削除前の山椒魚しかしらないのです。)
 井伏鱒二さすがだな。物語は色褪せない。

 「ああ寒いほど独りぼっちだ!」
の部分も好き。けれどもいつか夫もいなくなり本当に1人になった時に、心の中で唱えそうで怖いなと思うのだ。
私は山椒魚、スタッフの恋を心から応援できない山椒魚だ。


久々に山椒魚を読み返した。私は自分の性格があまり良くないと知っているので、井伏鱒二が描く山椒魚が正しく「人間」であるならば、少し救われるなと思う。


#山椒魚
#井伏鱒二

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