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心にボカシを。

仕事で企業向け研修のビデオにボカシを入れる。
工場の映像。
撮影段階では、どう処理するかは決められてはいなくて、撮った映像観て考えましょうとなっていたらしい。

「で、人の顔と、資材はボカシ入れといて」
とのこと。
言われりゃやる。仕事だもの。

ということで、映像を確認しつつ、作業員の顔にボカシを入れていく。
作業員のおじさん。五十代中盤ぐらいか。
小太り、作業着、ヘルメット。カメラで撮られているからか、凛々しい顔で作業している。たまにチラチラ。

ボカシを入れる。

四人ぐらいの作業、二人は若い。あとの二人はベテラン。
作業中、ふと、止まり、何か考えているようなベテラン。

ボカシを入れる。

若いうちの一人、もう一人に少し俺を見てろ的な感じで、指示。
顔が凛々しい。

ボカシを入れる。

ふと、ボカシ作業をしながら思う。

カメラで撮られるから、カッコつけてるんだろうなぁ。残るものだと思ったし、いつもよりテキパキと作業とかしてるんだろうなぁ。と。

こんなに頑張って、カッコいい顔しているのに、ボカシ入れているのが申し訳なく思えてくる。
奥さんとかに自慢とかしたりしたのかなぁ。
「いやさ、俺っちの作業風景がビデオで流されるんだって、でさ、撮影なんかされてよ」
なんて言って。
「やっぱ、顔で選ばれたんかな」とか、言って。密かに「スカウト来ちまうかもな」なんて盛り上がって、みんなでその日の夜乾杯とかしてたり。

それが、完成見たら自分たちの顔には常にボカシ。
追いかけて来るボカシ。見てはいけないもののようにボカシ。

「……」
申し訳ないな。
一瞬だけ、それぞれのベスト表情だけ、ちらっとボカシズラそうかしら……。

いや、これも仕事だ。
と、作業員さんへの余計な同情に、封印。
それぞれの凛々しい顔を胸に刻み、
「僕だけは見てますよ」と、
いつもより、丁寧に濃い目のボカシを入れた。



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