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自由の国、シンガポール

私は以前、配偶者の仕事の関係で4年ほどシンガポールに住んでいたことがある。それまでシンガポールには旅行でも行ったことがなかった。
チャンギ空港から乗り込んたタクシーから外を眺めると、真夏の太陽の日差しと濃いピンクの花をつけた植物が見え、ああ、楽しい毎日になりそうだなと思った事をよく覚えている。

シンガポールは、多民族国家である。中華系、マレー系、インド系など様々な文化の人々が入り混じり、お互いに文化・常識・言語・服装などが違う事を自然に認め合っている。
ゆえに、「他人にどう思われるかを気にしない」雰囲気が強いように思う。ある日、友人の家に招かれたので手土産を買うためにシンガポールの高島屋に行った。デパ地下で手頃なものがないか物色していると、向こうのほうから一人の女性が歩いてきた。いや、女性など山ほど歩いているので、それだけでは目立つことは勿論ないのだが、上半身をケープのような物で覆っている。ほとんどの人達がノースリーブや半袖なので、体がすっぽりと見えなくなっているのは珍しい。しかもよく見るとそれだけではない。なんだか腰のあたりで大きく円を描いていて、円錐型になっている。私はこの形状に見覚えがあった。
「授乳クッションを腰につけて、授乳ケープで隠して授乳しながらデパ地下を歩いている」
女性とすれ違う時、私はつい横目でじっと見てしまった。間違いない。私も長男を出産してそう経っていなかったので、自分も周りのママ友もよく同じ姿になっていた。それでも周りの人は誰もその女性に注意を向けないし、当の本人も涼しい顔で商品を見ながら歩いている。
日本だったらきっと、多くの人から二度見され、もしかしたら写真を撮られ、SNSに投稿されて炎上するかもしれない。
でもここでは誰も気にも留めない。なんと気楽なことか。勿論安全性については考慮しなければならない重要事項だが、SNSに晒すと言う行為は赤ちゃんの安全を思っての事ではないだろう。ただ誰かを非難し、自分の正当性について多数から同調してもらいたいだけだ。赤ちゃんのことが本当に気になるなら、直接その女性に確認して忠告するべきである。

話は逸れたが、そういった自由さが私はとても好きだった。私の夫も、とても綺麗なショッピングモールを、ユニクロの着古したエアリズムと10年以上着ているカーキ色のゴミ袋のような半ズボンで歩いていた。隣を歩く私も特段それを気にしていなかった。ゴミ袋みたいなズボンを随分気に入って履いてんな、くらいにしか思っていなかった。
しかし日本に帰ってきたら途端に二人ともおしゃれに気をつけるようになった。高齢で結婚・出産しているので、小綺麗にしておかないとみすぼらしい夫婦になってしまう。
何がいいとかではなく、TPOって大事だよね。


#シンガポール #海外生活 #エッセイ

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