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ディズニーランドのペアチケット

「フィアンセが指輪を用意されているそうなので、あとでつけてあげられるようにしてください」

「フィアンセ?」
と、とっさにその言葉が頭のなかで像を結ばず宙に浮く。

純白のウエディングドレスにパールのあしらわれたベールをかぶり、その人はつめたくなっていた。

「ドレスはみえるようにしたいので、一旦脱がせて仏衣へ着せ替えで」
「お数珠を替えたいそうなので、のちほどお声掛けしてください」

そんな申し送りを女性の担当さまから受けながら含み綿で表情を整える。
ウエディングドレスはさすがに背中のチャックがしめられなかったようで、レースのノースリーブ部分から徐々に下へ下へと生地をおくっていく。

その後ご遺族さま方にお立ち会い頂きながら着せ替えを進め、旅支度の時点でお数珠のご案内をすると、「指輪も、」とのこと。

前に進み出た新郎さまが故人さまの前でひざまずくのを目にして「わたしはなんでここにいるんだろうな。」とおもった。

その後、普段通りにお化粧まで終え納棺をして顔周りのベールを整えている時、急に「そうか、この方まだ23歳なんだ。わたしよりも年下なんだ。」という事実がよぎり、おもわず手が止まった。

そしてみなさまのお手添えを頂きながらドレスをお身体の上にかけて、副葬品を納めていただき最後の確認をすると、新郎さまが財布の中からちいさな封筒をとりだした。

「ディズニーのペアチケット、明日全部おわったら行けるからな」
と胸元に納めるところを目にしたら、それまでなんとかたもっていたはずの感情がゆらいですこしだけ泣きそうになってしまった。
そしてその時一瞬でも「そうか、もうもったいないとかおもわないんだな」なんて考えた自分がものすごく俗物におもえて情けなくなった。

どんな気持ちでいるのか、どんなことをおもうのか、もう想像のしようもないくらいのできごとでなにをどうおさめればいいのかわからなくなってしまったけど、そんな現場がありました。

「本当につたえたいおもいは今いわなかったら二度とたえることができないかもしれない」
というのはまぎれもない真実でもあるんだろうとおもいつつもわたしはまだだれにも話せずにいて、せめてこうして書き記しておこうとおもったりする日もあるんだろうな、と数日経った今はおもいます。

なにが正解で今後どうなっていくかなんてわからないからなにもかもいますぐだなんてやっぱりまだおもえないけど、きれいごとだとしてもだれもの悔いがすくなくなるように、幸せであれるようにと願っています。

また、お目にかかれますように。

おくり化粧師 Kao Tan

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