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最近の大気汚染データ5選「基準値以下でもうつリスク上昇、FPMが肺がんを起こすメカニズム解明、汚染物質濃度上昇で誘惑に負けやすくなるetc. 」

今回は、最近の大気汚染関係のデータをまとめておきまーす。

大気汚染のお話はこのマガジンやブログでもたまにしてますけど、WHOによれば毎年420万人もの人が大気汚染が原因で死亡しているとされていたりします。国家単位でも、個人単位でも何もしなければ今後の状況は益々悪化していくことは確実ですんで、たとえザックリであっても科学的な知識をアップデートしておくといいんじゃないかと思う次第であります。

基準値以下でもオゾンでうつリスク上昇

オゾンを含め多くの大気汚染物質が喘息等呼吸器系の障害をもたらすことはよく知られていることですが、これは気道や肺に炎症が起こることが原因。しかし大気汚染物質は呼吸器系だけでなく全身の細胞でも炎症を引き起こすことが確認されておりまして、さらに動物実験では大気汚染物質が神経伝達物質の活性に影響を与え、脳の特定の部位における炎症性たんぱく質の発現を促進する、なんてことも報告されているんですよ。

そして全身性の炎症はメンタルの問題とも関連する!ってことも分かっておりまして、となれば「大気汚染への曝露がメンタルの異常を引き起こしてもおかしくないよね?」と考えるのが自然でしょう。

そんなわけで最近の研究(R)では、「住んでる地域のオゾン濃度と青少年の抑うつ症状とどんな関連があるの?」って問題を調べてくれておりました。

これは、カリフォルニア州全体の様々な地域におけるオゾン曝露量を推定したカリフォルニア環境保護庁のデータと、9~13歳の子供213人を4年間追跡した縦断的データという2つのデータソースを組み合わせた研究で、各子供たちの家の周りの推定オゾン量とメンタルの状態の変化との関係を分析しております。

その結果をざっくりまとめておくと、以下のようになります。

  • 平均的なオゾン濃度が高い地域に住む子供たちは、4年間で抑うつ症状の有意な増加を示したが、オゾン濃度が低い地域の子供たちでは同様の傾向は見られなかった

  • しかし「オゾン濃度が高い地域」に分類されていた地域においてもオゾン濃度はその多くが環境基準を下回っていた

だったそう。つまり、基準値以下のオゾン濃度であっても、日常的にオゾンに曝され続けると、4年という単位で見た時のうつの発症リスクが上がってしまうんだ、と。「大気汚染は基準値以下でもいろいろ弊害があるぞ!」ってのは最近よく報告されてますけど、オゾンとうつという関係でもやはり基準値以下だからといっても安心はできないわけですね。

とはいえ、オゾン濃度が高い地域では他の大気汚染物質濃度も高い可能性は十分あるし、結局オゾンはどのくらいの濃度までなら許容できるか?って判断は難しいところ。また、10歳前後の子供たちは大人に比べて外で過ごす時間も多いし、そもそも抑うつを発症しやすい時期でもあるんで他の人口に適用できるかもよくわかりません。

なので、生物学的プロセスを含め引き続き今後の研究もチェックしておきたいところですが、真実がわかるまで何もしないというわけにもいきませんので、とりあえず良好なメンタルを保つためにも、

  • 排ガスの少ない地域を通るようにする

  • 外出時はマスクをつける

  • 空気の質が悪い日は(基準値をクリアしていても)屋外で過ごす時間を減らす

  • エアコンにフィルターを付ける

といった工夫をしておくのがいいんじゃないでしょうかー。


PMに長期間曝されていると関節リウマチを含む自己免疫疾患のリスクが上がる

お次の研究(R)も「基準値以下でも」シリーズで、「安全と考えられている範囲であってもPM2.5やPM10に曝され続けると自己免疫疾患のリスクが上がるぞ!」って内容になっております。「自己免疫疾患」ってのは、アレルギー反応と同じメカニズムで自分自身の体を攻撃してしまう病気のことですね。

これはイタリアのヴェローナ大学などの研究で、合計81,363人を対象に、2013年~2020年における推定PM曝露量と自己免疫疾患の発症リスクとの関係を探っております。

その結果は、

  • PM10への曝露と自己免疫疾患のリスクは正の相関しており(P = 0.014)、PM10濃度が10μg/m3増加するごとに、自己免疫疾患のリスクは7%増加した。30μg/m3を超えるPM10への曝露は、自己免疫疾患の12%高いリスクと関連し、20μg/m3を超えるPM2.5の曝露は、疾患の13%高いリスクと関連していた

  • 特に、高レベルのPM10への曝露は、関節リウマチに対するリスクの増加を示した(aOR = 1.408)。一方、PM2.5への曝露は、関節リウマチ(aOR = 1.559)、結合組織病(aOR = 1.147) 、炎症性腸疾患(aOR = 1.206)に対するリスク上昇に関連していたが、その他の自己免疫疾患には関連がなかった

って感じだったらしい。日本の現在のPM2.5の基準値は年平均で15μg/m3ですが、これ以下であってもPMに曝されていると自己免疫疾患のリスクが高まっていってる可能性があるみたい。

何年間さらされ続けたらアウト?みたいな基準は勿論ないわけですが、こういうデータを見てるとさっさと空気がきれいな地域に移住したくなりますねぇ。


200万件の小児喘息はNO2がトリガーとなっている可能性

「世界中の小児喘息約200万件が大気中の二酸化窒素に起因しているのでは?」という研究(R)が出ておりました。二酸化窒素は自動車や工場、工業地帯から排出される汚染物質ですね。

これは、世界の13,000件以上の都市における二酸化窒素の地上濃度と2000年~2019年までに子供たちが発症した喘息の新規症例数を分析した研究で、NO2が喘息発症にどのくらいの割合で寄与しているのか、最も影響を受けている地域はどこなのか?といったところまで調べてくれております。その結果はといいますと、

  • 2019年には、世界全体でNO2に関連する新規小児喘息症例数は約185万件で、そのうち3分の2は都市部であると推定された

  • 同じ研究チームの先行研究では、NO2は小児喘息の13~50%に関連するとされていたが、今回の研究では、2000年の20%から2019年には16%にまで低下したと推定された

  • これは、ヨーロッパと米国などの高所得国が厳しい規制を行ったことが影響していると考えられる

だったそうで、ここ20年くらいでNO2が原因と考えられる子供の喘息症例数は減ってきてはいるものの、いまなお毎年200万人近い子供たちが新たに喘息を患っているみたい。これはなかなか大変な状況ですな。

ちなみに、高所得国では状況が改善しつつある一方、南アジアやサハラ以南のアフリカ、中東ではNO2の汚染が逆に深刻化していたみたい。先行研究によると、これらの地域ではNO2が喘息発症に及ぼす影響は他地域に比べて高いと見積もられていたりするんで、積極的に技術支援をするなどして世界全体で喘息に苦しむ子供を減らしていきたいもんですな。

いずれにせよ、日本でもNO2が喘息を引き起こすリスクはまだゼロには程遠いし、発症年齢はほとんどが小学校入学前くらいまでなんで、幼いお子さんがいる方は日ごろからNO2濃度なんかもチェックしておくといいかもしれません。


微小粒子状物質が肺がんを引き起こすメカニズムが解明された?

大気汚染物質に含まれる微小粒子状物質はグループ1の発がん物質と認定されており、健康に対する大きな脅威であることは言うまでもない話。しかし、微小粒子状物質がいかにして発がんするのかというメカニズムははっきりわかっていなかったわけです。

そんなところで直近の研究(R)では、「体内に入り込んだ微小粒子状物質が肺腫瘍の発生を促進する全く新しいメカニズムを見つけたぞ!」って話になってて興奮しました。

これは中国のNJUなどの研究で、中国の7地点から収集した微小粒子状物質をマウスの肺に曝露し、腫瘍細胞が肺組織に定着までの過程を調べております。その結果、どんなことが確認されたかといいますと、

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