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京王永山駅のラーメン屋で後輩が言ってくれたこと

社会人になってから、一度だけボランティアサークルに入っていたことがある。ただ仕事でパワハラを受けた時期と重なってしまったり、それに伴って転職したり、なんかバタバタしてしまって、数回参加しただけで辞めてしまった。

なのでそこでの人間関係はほぼ出来なかったけれど、1人だけ、原山くんという大学生の男の子とは、連絡を取り合う仲になった。
原山くんは日本映画が好きで、愛嬌があって、ただ少し斜に構えた感じもあって、初対面の日からすごく気が合った。人見知りの自分にとっては、だいぶ珍しい距離の縮まり方をした。

僕は社会人になってから可愛がった後輩がいるかと問われると、直属の後輩や部下がいない時期が長いので、仕事とは違う場所で出会った原山くんを思い出す。
「焼肉食いたいっす、先輩」と、先輩呼びしてくる原山くんに、何度か焼肉を奢った。
コロナきっかけで距離が離れて、合わなくなってしまったけれど、それまではちょくちょく連絡を取り合っていた。

疎遠になってしまった原山くんをなぜ思い出したかと言えば、今読んでいる「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」でこんな場面が出てきたからだ。

「自分のカンを信じたらいい。あなたのカン、けっこういけると思う」
「ときどき、社長さんのおっしゃること、信じてもいいのかなって思うともあって」
 ジミは収納棚からコーヒーカップを取り出しながら笑った。
「人生なんてそんなもんでしょ。信じようと思う人の言葉を信じたらいい」

ようこそ、ヒュナム洞書店へ / ファン・ボルム

僕はこの場面を読んだ瞬間、原山くんの顔が浮かんで、この文章を書き始めた。

ボランティアサークルの帰り道、京王永山駅のラーメン屋に、原山くんと2人で立ち寄った。
並んでラーメンを啜っていると、原山くんは自信満々な顔をして、

「先輩、これから先の人生、絶対うまくいきますよ。俺わかるんすよ、話しただけでその人がうまくいくか」

お前何を根拠に言ってんだよと笑いながら聞くと、原山くんは「わかるんすよ」としか言わなかったから、信ぴょう性はないに等しい。
ただ、前述したように不安定な生活を送っていた僕の頭の中にその言葉は刻まれて、京王相模原線に乗り込んでからもしばらく反芻した。
そして、今もなんとなく思い出すことがある。

原山くんはおそらく何も考えずに言ったのだろうけど、僕はその言葉をこれからも信じたいと思うし、たまに拠り所にするんじゃないかと思う。
付き合いは短かったけれど、原山くんはめちゃくちゃいいヤツだったからだ。
原山くんみたいな人間を信頼して、僕はここまで生きてきた。

これからもいいヤツと出会ったり、その後二度と会わなくなったりして。
会わなくなったとしても、いいヤツが適当に言った自分にとって都合の良い言葉を、しっかりと間に受けて。
そんなことを繰り返していけば、ひょっとすると僕の人生は、うまくいくんじゃないか。

fever / Laura day romance

<太・プロフィール> Twitterアカウント:@futoshi_oli
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗などを経て、会社員を続ける。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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