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恩田陸「鈍色幻視行」「夜果つるところ」感想~そして誰も死なないサスペンス~

乗り物でくり広げられるミステリーといえば、アガサクリスティ「オリエント急行殺人事件」が最初に頭に浮かぶ。

そして日本だと...西村京太郎のトラベルミステリーかな。
やはり乗り物ミステリーといえば鉄道🚝のイメージが強いよね。

船とか飛行機はないのかな...。
あるじゃーん!
さすがアガサクリスティ。

船🚢(ナイルに死す)も、飛行機🛫(雲をつかむ死)もあるよ。

本書の場合、クルーズ船で二週間。
謎と秘密を乗せて、今、長い航海が始まる。

二週間もの間、海の上の密室なのだ。

サスペンスものだと、人が一人、また一人と亡くなり、最後は探偵役が鮮やかに謎を解明するのがフツーだが(←たぶん)そこは!恩田陸。

誰も亡くならないし、謎もぼんやりとしか明かされないのに、面白い♡

同じクルーズ船に乗って、会話を傍聞きしてるような不思議な一冊だった。

🚢🚢
とある作家、飯合梓による『夜果つるところ』を映像化しようとするも、完成前に関係者が死亡。
その後、三たび映像化を試みるも一度も完成したことないために、”呪われた作品”といわれている。

呪われた作品に興味を持った作家が新たに作品を書いてみたいと思い、関係者集まるクルーズ船に乗船し謎を解明しようと話を聞く。

関係者死亡の中には、呪われた作品について書こうとする作家の夫の元妻も含まれている。

夫の亡くなった元妻は脚本家で、完成せずに自殺。

本当に自殺だったのか?
それとも呪われたのか?

関係者に話を聞くと、『夜果つるところ』の原作者である作家の飯合梓も謎の人物。

飯合梓に会った人はほとんだいない。
特徴といえば..。
ラベンダー色の帽子をかぶった女。ぽっちゃりとしたモグラみたいな女と語るものもいれば、本当に女だったのかと語るものもいた。

元妻は自殺じゃないんでしょ?
飯合梓は、いったい何者よーー!
ワクワク♡


船旅に集まった関係者は、映画監督に女優、漫画家に作家。プロデューサーだって、編集者だって、みんな『作り事』で生活している人たち。

すなわち『虚構』に携わっている人間ばかり。

曲者揃いの人たちの会話劇で現れる新事実。
誰の言っていることが本当なのーーー!
で...自殺なの?他殺なの?飯合梓は何者なの?

・事実というのは見方や受け取り方180度異なってしまうし、切り取り方でも全く内容が変わってしまう。(本文より)

わかる、わかる!
自分の抱いているイメージを大切にしてしまうもんね。


ようは、個々が持つアイデンティティの話を、サスペンス仕立てにして心理戦でみせる恩田陸は、やはり凄い!

凄いのはそれだけでなく、作中に登場する『夜果つるところ』原作本も書いちゃうのだ。

そちらも読んだYO!

三人の母親を持つ子供の物語。
産みの母。
育ての母。
名義上の母。

血筋の問題。親子の問題。ジェンダー問題。性的指向問題。
等々が描かれている。

太宰治がモデル?と思わせるだめんず男も登場するよ。

まずは「鈍色幻視行」を読んで、「夜果つるところ」を読むことをおすすめ。

・新しい出来事や大切なことは、過去や記憶に改竄を加える。ひとびとの過去は、書き替えられた無数の記憶で成り立っているのだから、わたしを含めてすべてのひとびとの出来事を時系列順に並べることはナンセンスだ。(「夜果つるところ」本文より)

この言葉に頷けるはずだから。


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