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約1時間半の出来事

時計は午後3時を過ぎていた。僕は少し苛立っていた。20台ほど停められる駐車場はいっぱいで空く気配がない。次から次へ車が入ってくる。ここはあまり動かずピンポイントで空く場所を絞った方がよさそうだ。視線を店先に集中させる。

若い女の子が2人出てきた。チャンスだ。こちらへ向かってくる。
2人は絶好のポジションである右斜め前方の初心者マークが付いた軽自動車に乗り込んだ。

早く出てくれ。早々にシートベルトを装着したがなかなか出ていかない。
次の行き先をナビっているのか。気が利かない娘達だ。
僕の他にも駐車場で右往左往している人がいるのに。
気持ちを抑えながら軽自動車の運転席に視線を向けていると別の4人組が出てきた。彼らはその軽自動車の隣の軽自動車へ乗り込んだ。
どちらでもいい、早く出ていってくれないか。

4人組の軽自動車が先に出ていった。透かさず車を停める。
車止めに付くか付かないかのタイミングで2人の娘達の車が動き出した。

待ちは6番目だった。有名店であるがここへ来るのは初めてだ。
ひっきりなしに人が入ってくる。

20分程待ち、ようやく席に案内される。
スカーフを頭に巻き、シャケたピンクのシャツを着たとても威勢の良い男性だ。胸のバッジには店長と書かれている。時折ギャグを織り交ぜながらお客さん達を和ませている。これぞ神対応。今日の天使だ。

窓際の席から中庭が見える。もみじの木の下に苔が鬱蒼と生い茂る。
こんな庭だったらなと思いながら眺めているとそれは現れた。

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クリーム白玉ぜんざいだ。アイスはバニラか抹茶をセレクトできる。真っ白なキメ細かいふわふわの氷。甘さ控えめの蜜をかけながらいただく。口に入れるとその瞬間水分に変わり喉の向こうに消えていく。今日の風は少し冷たい。早く下に辿り着きたくなる。彼らは氷の下に潜んでいる。

下へ進んでいくと暗い黄みの赤色の小豆と真っ白ではない白の白玉の姿が雪解けの路面のように見えた。

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それを早く口の中へ入れ確かめたい。

小豆はほっくり炊かれ粒もしっかり。甘過ぎず、密を少しかけてもよいくらい。もち米の白玉は硬めで弾力がある。好きな食感だ。塩昆布を加えるとさらに甘さが増し旨味が深まる。残しておいた抹茶アイスも一緒にいただく。解けた氷に浮かぶ小豆をお椀ごと飲み干した。

時計は午後4時半になろうとしていた。別腹を先にいただき、今日の晩ごはんは何にしようかと考えながら店を後にした。

※2021年5月3日 午後3時頃から午後4時半の出来事

場所:大蔵餅 本店 愛知県常滑市鯉江本町2-2-1


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