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音を楽しむだけが音楽ではない。


好きなものへの愛情や熱量がキャパを超えることが時々あります。


わたしにとって睡眠食事の次に欠かせないものの1つが音楽です。

その中でも特別に異彩を放ってわたしの細胞に取り込まれているバンドがある。
大切すぎてどうしようもなくなって、扱うのが少し怖いくらい。


ウォークマンから聴こえてくる音が体に浸透して支配されていく。決して大袈裟ではなく、その音が2つ目の世界を創り出し、そこでわたしの命が生かされている瞬間は間違いなくある。

そのくらいの重さなのです。


だから、
いつも1人で聴いていた。
ずっと1人で聴いてきた。


この気持ちは、誰かに共有できるような簡単なものじゃないんだって1人でそっと心の中に留めていました。


初めてのワンマンライブ。
ワクワクよりも緊張や不安の方がはるかに大きかった。

目の前にわたしのもう1つの世界が広がるんだって思うと、少しだけ怖かった。


映画やドラマの主題歌に決まって、最近しょっちゅうメディアにも呼ばれるようになった彼らは、3年前とは比べものにならないくらい大きなバンドへと成長していた。


大勢の人が集まるホールを見渡して、

なんだか喉がぎゅっと締まる思いがした。


わたしの一部と言っても過言ではないバンドのライブ。きっと周りの子たちが引いちゃうくらい大泣きするんだろうなってそう思っていたはずなのに、


終わってみたら涙の一粒も出なかった。

あれだけ触れたいと思っていた曲達が、身体の中に入ってこない。
目の前で生まれた音たちは、わたしを色付ける前に、虚しくも泡になって消えていくようだった。


間違いなく、圧巻の、最高のライブだったのだ。

楽しかった。
けれど、音の粒を傍観するような、そんな聞き方しかできなかった。

決してそんなつもりはなかったけど、結果的にそう感じてしまったのだ。


歌詞もメロディーも入ってこない。
飽きるほど聞いた曲たちなのに、セットリストがまるで思い出せない。

今まで色んなアーティストのライブに行ったけど、帰り道にそんなことを思うのは初めてだった。


でもこの経験が、わたしの中での“特別”を確立していくきっかけになる。



普段のライブは、周りの人と一緒に手を挙げて音に身を預けることで満足していた。
音楽という文字通り、音を楽んでいた。


だけどこのバンドに関しては、楽しいとか心地いいとかポジティブな感情だけでは収まりきらない複雑な心を次々と露わにさせてくる。

純粋に音を楽しむ周りの人たちと同じ輪の中に入れないような気持ちになった。


限りなくエンターテイメントに近いライブが、わたしには作り物のように感じてしまって、寂しく思う瞬間が何度かあったのだ。


ウォークマンで聴く彼らの音楽は、いつもわたしを裏側から支え、常にわたしの中に潜んでいた。日常と共にあった。

手を伸ばしても伸ばしても、遠かった。
この日の景色は、思ったよりも非日常すぎたのだ。


こんなことを言うと、ライブに行ったことを後悔していると思われてしまいそうだけど、決してそういうことではない。
わたしはわたしの複雑な感情一つ一つに名前をつけて、自分だけの色を塗りながら大切にしていきたいと思っている。


その過程に欠かせない、貴重な存在がこのバンド。今回のライブは特に行って良かった。簡単に説明がつかないような自分の感情を、とめどなく生み出す力がこの音楽たちには宿っているんだと信じている。


聴いていると、苦しくなったり悲しくなったりすることもある。その理由を探っているような時間はモヤモヤするし言葉にならないし、きっとある種のストレスであるに違いないけど、その感情と向き合う時間がわたしの毎日を、人生を豊かに彩っていく。




あの日あの時あのライブで、わたしが涙を流さなかったことには、きっと大きな大きな意味がある。



photo:@hao_895

#日常 #エッセイ #音楽 #バンド #ライブ

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