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映画『影裏』 恋ごころ輝くほどに影を増す

映画『影裏』感想。見たあと、心理描写が緻密!!と感動してメモしたものをまとめました。全編勝手な解釈です。私は腐女子なので、BLの眼鏡をかけて見ている部分が多くあるんじゃないかと思います。悪しからず。(サムネはパンフレットより)

「影裏」で「えいり」と読む。主演は綾野剛、松田龍平。監督は『るろうに剣心』などの大友啓史。原作は、2017年に芥川賞を受賞した沼田真佑の同名小説。

あらすじ

製薬会社に勤める今野秋一(綾野剛)は、転勤により関東から岩手県盛岡市へと移り住む。ある雨の日の社内、今野は独特なタバコの香りを漂わせる男と出会う。同い年の同僚・日浅典博(松田龍平)だった。

日浅は禁煙の張り紙を無視してタバコを吸い、パートのおばちゃんに男一人混じってもうまくやっている。口を開けば突拍子もない事をつらつらしゃべる。上司との会話もぎこちなく、陰鬱な今野とは対象的だ。しかしこの二人には、どこか通底する暗さがある。

雷鳴轟く大雨の夜、一升瓶を抱えた日浅が今野の家を訪れたのを境に、二人の友情は深まっていく。町に出ては酒を飲み交わし、川に行っては釣りをして、二人きりの青春は過ぎてゆく。そうして季節が半周したころ、日浅は突然、今野の前から姿を消してしまうーー。

メタファーいろいろ(※以降ネタバレあり)

大友監督が原作に惚れ込み、並ならぬ意気込みで映画化したという本作は、今野と日浅の心理描写がとにかく細部まで作り込まれている。劇中、象徴的に使われているものがいくつかあるなと思ったのでメモする。

1、今野の尻
セクシャリティの象徴。物語が進むと、今野は日浅に恋していることがわかる。
前半、とにかく今野(綾野剛)のパンツ一丁の尻が、これでもかというほど長く、何度も映し出される。冒頭では、朝ベッドでうつ伏せに眠る今野の身体を、足先からふくらはぎ、太もも、尻と、なまめかしいカメラワークで収めていく。着替えのシーンも多く、背後からの全裸のカットもある。ここまで執拗に今野の身体を撮っているのは、彼のセクシャリティを観客に印象づけるためだろう。
そして何故か、今野は白いボクサーパンツしか履かない。私服もほとんど白かベージュしか持っていない。ケータイも白。

2、タバコ
日浅(松田龍平)の象徴。出会ったとき、今野は日浅の吸う独特なタバコのニオイを強く印象に残している。次に会ったときには、日浅は吸いさしのタバコを今野に押し付けて去っていくが、禁煙中の今野はそれ吸わず、コーヒーの缶に落としている。しかし、日浅といるうちに結局は吸うようになっていく。今野が日浅が寄り添うことの隠喩。

3、くだもの
劇中出てくるくだものはふたつ。ひとつめは今野の実家から送られてきた桃。日浅に土産に持たせようとするが、彼は「男はそんなもの食わない。うちには女手がない」(日浅は父親と二人暮らし)と言って断る。軽く今野自身の否定。
ふたつめは、別の日に日浅が道すがらもいできたというザクロ。「ザクロは人肉の味だ」とうそぶき、半分を今野に手渡す。食べ方がわからない今野の手からザクロを取り、かぶりついてから今野の手に戻す。日浅が今野に寄り添ったことの隠喩ともとれるが、どちらかというと、密かな恋心を抱く相手への、一方的な期待混じりのドギマギ感を出すのに一役買っている。(※原作には桃もザクロも出てこない)

4、川
今野と日浅の思い出。友情の象徴。幼少期以来釣りの経験はないという今野を、川釣りに誘う日浅。最初の釣りでは、はじめから川に足を浸している日浅と、岸辺にいる今野が対照的。釣りを教わるなかで、今野は徐々に川に足を踏み入れていく。回を重ねるごとに川は深くなり、最終的には、今野のほうから腰まで浸かる深い川に日浅を誘っている。

5、蛇
二人で酒盛りをして潰れた夜、日浅が目を覚ますと、今野の胸の上に蛇がいた。捕まえて窓から放った日浅に、今野は無理やりキスをする。わかりやすく性欲の象徴。(※ちなみにこのシーンは原作にない)

6、火
恋の象徴。いたるところに火が出てくる。ひとつめは、日浅からもらったがもみ消したタバコの火。
ふたつめは、日浅が初めて今野の家に来たとき、話題にした山火事。「からっからに乾いたところに強い風が吹くと一気に火がつく」。からからに渇いていたのは今野の心か。
みっつめ、日浅と夜の河原でキャンプしたときの「ガラスみたい」な焚き火。日浅は火のうまいおこし方として「押し倒すだけじゃダメ、じっくり、前戯がうまくなきゃ」というようなことを言うが、前後の会話もあって今野は気分を悪くする。そして本作の最も重要なセリフ「人を見る時は一番影の濃いとこ見んだよ」へとつながっていく。(※このセリフも原作にはない)この夜、ガラスが砕けるように二人の友情は途絶え、今野は二度と日浅に会えない。

7、ポスト
今野の人間関係の象徴。これがきっかけで嫌な思いもするが、同時に最後の救いもポストを通して訪れる。

8、ジャスミンの鉢植え
関東にいたころ、知人から譲り受けた。これは今野自身か、過去の自分、捨てられない都会的なものの象徴か。

9、電光影裏斬春風
日浅の実家の居間に飾ってある文字。「電光影裏(でんこうえいり)に春風を斬る」と読み下す。電光(雷)が一瞬の影(光のこと)のうちに春風を切り裂く様子から、斬ったように思えても実際には斬れていない、魂は不滅である、みたいな意味があるらしい。終盤全体を示唆する語。タイトルもここからとられている。

画面の陰影

「影裏」というタイトルからということもあるのか、光と影の配分が場面によって効果的に調整されている。今野の心情とリンクしている。
撮影は芦澤明子、照明は永田英則。両名とも黒沢清監督作品で知られる方ということで、説明なしのあの不気味さ、不穏さ漂う映像に超納得。
また、今野の部屋に飾られている絵も白黒のものが多い。オーブリー・ビアズリーという画家のものらしい。サロメの絵、見たことある気がする。

まとめ

メモったこと以外にもめちゃくちゃいろいろあるんだけど、ひとまずこれにて。一回しか見てないから記憶違いもたくさんあると思う。こうやって映像にしていくんだなぁ、すごいなぁ(小並感)。

感想を言ってなかったけど、すごくよかったです!!!!

すごくよかったので、話しはじめるとキリなく気持ち悪いオタクの萌語りになる。みんな、とりあえず見てくれ……。

現在、以下の劇場で見ることができます。


『映画刀剣乱舞-黎明-』3月31日公開!