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恋のゆくえ

そのシルエットを、匂いを、わたしが忘れるはずがなかった。
午後22時、×××通り。目の前を通ったのは、まぎれもなく、あなただった。

5年前とは髪型も違う。当然、纏うものだってまるきり変わっていたのに、わたしの両眼はあなたの姿かたちを射止めて離さない。そこに、探し続けたあなたがいる。あいたくて、おそろしくて、それでも焦がれずにいられなかった、かつての恋人がいたのだ。

あなたは、ちいさなかばんをさげていた。ああ、と思う。多分あれは、お弁当。風の噂に聞いた、料理上手な伴侶のシルエットが道に立つ。ランチを持たせてもらっているのね。生活感のない美人に家庭の影をみたら、心臓が冷えた。

すこし特徴のある足どり。たまに携帯をのぞいたり、あたりを見回したりして、そのせわしなさが懐かしい。ちいさな頭蓋骨が、交差点の人波にぽかんと浮かんで見えた。

踊るような軽快さで角を曲がり、あなたはマンションのエントランスに消えていった。5年も探し回ったあなたは、なんてこと、わたしのマンションから徒歩5分、同じ通り沿いに住んでいたのね。

坂道に残像を見ながら、神様のいたずらを恨んだ。午後23時、わたしはひとり。

#失恋 #再会 #運命 #小説

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