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島根とロシアの関係(2000年~現在まで)その6:ITエンジニアの橋渡し


今回は、島根とロシアとの関係における最近の動きを一つ、紹介します。ロシアを含む東欧のITエンジニアが島根で働く機会をつくる仕組みが立ち上がり、多くの若者が島根にやってきています。

この動きについて、きっかけや経緯、主要な登場人物や具体的な取組内容を取り上げ、今の状況を報告したいと思います。

なお、ここでは、東欧のITエンジニアという表現を使っています。この東欧という言葉には、旧ソ連・旧東側諸国(たとえば、ウクライナもロシアも含む)が入っていると理解します。

これまでの自分の5つの記事は、基本、ロシアの中でも極東のウラジオストクを対象とした島根県との繋がりについて書いていましたので、今回の記事のみ対象が大きく広がっています。

この意味では、よりダイナミックでグローバルな展開が今、島根では起きています。


前夜(島根県IT企業とロシア人エンジニアとの出会い)

後ほど出てくる牧野さんが中心となり、歴史的な出来事の影響を真正面から受けつつ、いろいろな別々の事柄が重なって、今回の流れになっています。

今回は、自分の視点で、牧野さんたちと島根との出会い、なぜ、島根でこの動きが起きているか、を中心に書きます。

今、IT業界は、AIやDXのサービスを中心に好調となっています。そのため、国内ではIT人材の獲得競争が激化し、人材確保が常に課題となっています。

4年前、島根県庁の中で、企業の海外展開を支援する部署は、この状況におけるIT企業への支援策として、海外のIT企業、特に高いポテンシャルを有するIT企業との協業について調査することにしました。

その対象として、ロシアを選び、後述する牧野さんに調査を依頼し、以下の調査がまとまりました。

ロシアのIT産業については、例えば、グーグルの創設者セルゲイ・ブリンがロシア出身であるなど、高度なIT人材を輩出しており、その背景として基礎数学分野の高等教育のレベルが高いことが特徴です。

高い技術力の人材をあまり高くないコストで雇えるのが良いところです。

調査では、このようにスキルの高いロシアIT人材を生かす方策として付加価値の高いビジネス領域での活用を提案が提案されました。

たとえば、データ分析、画像解析、AR・VR技術を活用したサービス創出、ソフトウエア開発などです。

そして、その内容の実証テストと検証を行うため、県内のIT企業に声かけし、両国の企業によるテレビ会議を経て、ビジネスベースでのテスト的なプロジェクトが実行されました。

結果として、ロシアのIT技術者の能力は期待に違わず高く、一方、実際の導入と継続にはいくつかの課題があることもわかりました。

ここまでが、自分が直接語れる前夜です。

ここで、あらためて牧野さんを紹介します。

この話の主役の牧野さんは、大学の後輩で、ロシア語とロシア文化に精通し、ロシアで起業し、社員を抱え、ロシアやウクライナでのビジネス経験を有する人です。自分が楽天で働いていたときに、偶然、知り合いになりました。

また、島根県の出雲市出身で、モンスターラボというITの会社を起こし、社長を務める鮄川さんが、ロシアやウクライナでのビジネスを広げる際に、現地で協力関係にあったのが牧野さんでした。

この今から数年前という時期は、イーグリッドの小村さん、また、当時は県庁だった杉原さんという、現在の取組の主要メンバーと、牧野さんが、知り合った時期でもあります。

以上、ウクライナ侵攻前の状況です。

ウクライナ侵攻と現地の若者たちの判断

2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってしまいました。

戦争が起きたとき、現地のITエンジニアの若者は何を考えたのか?
とにかく、海外に出ることです。欧米との仕事がしにくくなること、戦争に何らかの形で巻き込まれるおそれがあること、の2点がその理由でした。

若者たちの大移動

国境が閉じるおそれもあり、事態は一刻を争う中、彼らの判断は早く、牧野さんは社員を日本に避難させることにしました。
日本側では、鮄川さんが牧野さんに出雲への移住を提案し、ロシア人を含んで、生活基盤をつくるお手伝いを提案し、牧野さんたちはそれを受けることにしました。
こうして、牧野さんとロシア人社員たちの、ドラマのような移動と出国、日本への入国という大移動が行われました。

この物語はCOTEN RADIOで聴けます。ボリスさんも登場しています!


出雲に落ち着き、業務開始

牧野さんたちは、とりあえず出雲のアパートに住み、そこで業務を開始しました。

出雲での外国人も住めるアパート手配や、諸々の生活物資の安価な確保などについては、鮄川さんと知り合いの出雲のIT企業関係者や市役所の方が協力されたそうです。

東欧のITエンジニアの中にはウクライナにゆかりのある人も多いため、一方ではウクライナ支援を行いつつ、最初の業務として、東欧のIT技術者が日本企業で働くためのマッチングを行う業務を開始しました。

この東欧のIT技術者を日本企業に紹介するサービスは相当の需要があることがわかり、より本格的な活動に移行することになりました。牧野さんは、出雲市、地元IT企業と一緒に新会社を立ち上げました。スタートアップ企業の創出と海外のIT技術者の活躍による出雲の発展を目指した会社です。

現在の取組と今後の展望

その後、牧野さんたちの業務には、出雲市駅前に設置されたコワーキングスペースの運営業務が加わりました。出雲に進出する企業にとって最初のオフィススペースとなるとともに、地元企業との交流やセミナーなどの場となっています。

東欧のIT技術者を日本企業にマッチングさせる取組は「ハローヤポニア」という名前で展開されており、先般、ちょうど第3期の取組として東欧のITエンジニアたちが来日し、日本企業とのプログラムが行われました。

今後も、このような取組の継続に加え、さらなる新たな取組が期待されます。

この出雲を拠点とするのITの取り組みについては、多くのメディアに取り上げられていますので、最近の主だったものを紹介します。


連載「島根とロシア」

1 中古車貿易

2 市民文化交流①(江津ロシア祭り)

3 市民文化交流②(西ノ島ロシア水兵墓地)

4 市民文化交流③(ロシア理解市民講座)

5 島根県の特産品「牡丹」の輸出



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