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堅牢な施設のロゴにはそれに伴う堅牢な形と装飾、そしてロジックが必要であるという話

こんにちは。ワンファイブのグラフィックデザイナー近藤です。

今回は独立後にご依頼いただいた、北海道・江別市にある煉瓦造りの商業施設「ËBRI(エブリ)」のロゴデザイン開発に関するお話。

北海道江別市は札幌市に隣接し人口規模も道内第2位の都市。そんな江別市内の野幌地区は、明治時代から煉瓦製造を中心とする窯業の街で、現在も煉瓦の一大産地。市内には多くの煉瓦造りの建物を多く見ることが出来ます。

本プロジェクトの対象となったこの建物も元は「株式会社ヒダ」という窯業会社の工場跡。昭和26年(1951年)に建造され、素焼管やセラミックブロックなどを生産する工場として使用されていたそうですが、平成10年(1998年)に廃業。その後、市が土地と建物を取得し保存事業を開始。北海道遺産経産省の近代産業遺産、さらには国の登録有形文化財にも認定されたとのこと。

このような歴史ある堅牢な建造物を単なる商業施設としてだけではなく、新たな文化やライフスタイルを創造し、国内外の交流や江別の新商品開発、地元市民があつまる拠点として利用できるような施設としてのリノベーションを市と地元の企画設計・施工会社が計画されていたのですが、そのスタートアップのブランディング・プロデュースをトランジットジェネラルオフィスさんが担当されており、ロゴデザインを中心としたアプリケーション開発に関するご相談をいただきました。

このような性格を持つ商業施設には果たしてどのようなロゴを生み出せば良いのだろうか。今まで会社やブランド、店舗などのロゴは数多く担当してきたのですが、商業施設全体のロゴデザインは経験が少ないため、その方向性でかなり悩みました。

オリエンテーション時に施設名としていただいた「EBRI(エブリ)」という名称は江別のアルファベット表記である「EBETSU」と煉瓦を意味する「BRICK」からなる造語。語感はとても良い印象だったのですが、ロゴを作成する上で問題が…

デザイナーの方々なら共感していただけると思いますが、単語の最後が「I、i」で終わる場合、そのスペーシングがかなり取りづらく、やっかいなんですよね…

また最初の打ち合わせでは「シンプルなロゴ」でという話だったものの、打ち合わせを重ねるに連れ、先方のディレクターやトランジットのプロデューサーたちから「ショッピングモール的」「ファッションブランド的」「カフェ的」果ては煉瓦や建物のシルエットをモチーフとした「装飾的」な案も見てみたい、と方向性がどんどん見えなくなり、数多くのプランを作成させていただいたものの「これ!」というデザインにたどり着かず、しかもオープンの日がどんどん迫る中、かなりタイトなスケジュールとなり緊迫した状況に陥りました。


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◎オリエンテーション後、方向性を見つけるためのロゴのスケッチ。シンプルな中でも「煉瓦」的な堅牢さをどう盛り込むか検討していた。


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◎様々な要望が出てきたのでロゴの形状もシンプルから離れ、具体的な煉瓦モチーフを入れたり、堅牢さから離れた柔らかいイメージを持つ案も作成。


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そのような状況下、もう一度プロジェクトを振り返り、整理した中、辿り着いたコンセプトは「どシンプル」に(笑)。

煉瓦」は人々の身近にある「」を焼き固めて出来上がるという極めてシンプルな過程で作られるもの。そのため煉瓦は世界各地で最も古くから使われてきた建築材料のひとつであり、火災にも強く腐らず、時代を経るごとにエイジングが進み、良い味が出てくる。そんな「煉瓦」の長所をモチーフとすると、ロゴのベースとなる書体もシンプルであり、しかもそれなりに時代を経ており、さらに世界中で愛されてきた書体を選ぶべき…となると、自然に「ヘルベチカ」を選ぶことが、この堅牢な建造物のロゴとして整合性が高いのではないかと判断。

ただ、それだけではロゴとしては何か足りない、何かないかと試行錯誤して思いついたのは、フランス語の「CITROËN」や「NOËL」など「E」の上に付く「トレマ」、ドイツ語だと「ウムラウト」と呼ばれる2点の記号。この記号を「EBRI」の頭文字「E」に付けること。そのことにより、ロゴの形状として積み重なった煉瓦をイメージさせることが出来るのではないかと考えました。


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◎「どシンプル」とコンセプトを固めつつ、比較対象としてファットなローマン体案や装飾的なロゴ案も提案。


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◎そこから最後に残った2案。壁面へのペインティングのシミュレーションも重ね、「ヘルベチカ」ベースのロゴに決定。


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しかしそこにロジックが無ければ、単に意味のない飾りとなってしまうのではという懸念が…

そこで「トレマ」と「ウムラウト」に関して調べると、まず「Ë」は「エ」と発音できること。さらに「ウムラウト」に関しては2点を使わず、小さい「E, e」を母音の上に付けることもかつてあったことをタイプディレクターの小林章さんのブログで知り、「E」が2つ重なっている意味があることもこのロゴ案に含ませることが出来ました。

またディティールは煉瓦のように文字の角を45度落とすなどし、さらに綴りからくるスペーシングの難しさは、逆に文字間を広げることで解消。建物へのロゴをペイントする際にも、施工する環境に合わせてさらに広げることを許容する柔軟性も持たせました。


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◎決定したロゴタイプ



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◎角のディティールは45度カット


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結果、このロゴで決済が取れ、無事にオープンまでのスケジュールに間に合わせることが出来ました。

その後、スケジュールや予算など様々な理由もあり、ロゴとそのマニュアル以外の制作物には携わってはいないのですが、現地のスタッフの方々がマニュアルを遵守していただき現在も大切にロゴを扱っていただいているようで、デザインさせていただいた身としては本当に嬉しい限りです。

コロナ禍で中々遠出が出来ない状況ですが、北海道へ行く機会がございましたらぜひ「ËBRI」にお立ち寄りください。

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