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可燃物 米澤穂信 感想

読書スタイルを問わないところがまずいい。例えば苦痛でしかない交通機関での移動時間が、この作品のお陰で暇つぶし以上の充実した読書体験に変貌する。没入感、読後感、共にエンタメミステリとしての最適解だ。

事件概要が簡潔に示される出だしは週刊誌の犯罪ルポ記事のようで、登場人物の名前も珍しく、これが括弧付きの(仮名)感を醸し出していて妙にリアルだ。題材となる事件もシンプルなようでいて意外と複雑で、いつの間にか謎が深まっていく。実録文体で描写される「事件」がまずは主役となる。

もう一方は言うまでもなく「葛警部」であるのだが、こちらの人物造形もユニークだ。容姿や性格に関する描写はなく、感情の描写にも乏しいのだが、その頭脳による思考と部下への指示が物語の強力な推進力になっている。

名探偵の頭脳と指揮官の統率力を兼ね備える、面白いキャラクターだと思う。本書に掲載された5作品はバラエティに富み、それぞれの事件に対応して見事な手腕を見せてくれた。葛警部の活躍をもっと読みたい。続編、お願いします。

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