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自分の中で眠っていた創作意欲が目を覚ましつつあるのでマイペースに続けていきたい。創作の…

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自分の中で眠っていた創作意欲が目を覚ましつつあるのでマイペースに続けていきたい。創作の場を離れてから、10年以上かけて心が代謝したものをどんな手段で排泄するか迷い中。インテリア、わんにゃん、本屋、漫画、イラスト、オカルト、歴史、雨、パンとコーヒーが好きなHSP。

マガジン

  • 【創作連載小説】(k)not

    創作小説。久しぶりに更新しました。長編ですが一話2000〜3000文字なので、サクッと読んでいただいて、続きが気になった方は次の話も読んでいただけたら嬉しいです。公開してからもちょいちょい直しを入れたりしているので、更新時間順ではなく、マガジン掲載順に読み進めていただくことをお勧めします。世露死苦!

最近の記事

第三十五話

 遠くで開く花火の音を聞きながら、広がる宙に散らばる星を見ていた。背中のブルーシート越しに固いコンクリートの感触が冷たく、頭は冴えている。仰向けに寝そべってしまえば、昼間見た屋上の高いフェンスは視界に入らず、雲の無い夜空は自分のぐるりを取り巻き、深い暗闇の底にいる様な感覚に陥る。きっとあの闇の向こうに世界はある。  有馬は、自分だけが起きていることに気付いた。  和二郎らが日頃の疲労が蓄積してすぐに爆睡し始めたことは知れていた。正一郎に至っては尻の上の帯が腰に優しくいつもよ

    • 第三十四話

      「て、これが水曜日の話。」  街夜魑之と沖崎医師とのWEB会議での出来事を打ち明けた正一郎は、自分でも信じられないと言うように大きな両の掌で顔を覆った。 「なかなか、ホラーだね。」  晴三郎は、何と言って良いか迷った挙句選んだ言葉がこれだった。正一郎は顔を覆ったまま頷く。 「信じられないな・・・それじゃあ、今そのマチヤって人が遠隔同衾術とやらで爽と同調して、夢の中で聖名を探してるってこと?」  理解の早い襟人が怪訝そうに言うと、 「自分でもどうかしてるって思うよ。

      • 憂し満〜忌還

         深淵のほとりに佇んでいた彼女に一報を告げたのは一羽の鴉だった。三本の脚を持つ鴉に導かれ深淵から奈落へ潜ると、光る緑地に鳥籠の様な硝子のテラスが在るだけの、まるで作られた中庭の様な世界が広がった。  そこから先の記憶が無い。  誰が為に在る世界なのか不明だが、奈落にこんな静かで穏やかな場所があるとは。この世界を生んだ神がいるとすれば、余程大切な何かを隠しておきたいのであろうことが窺えた。  目覚めた魑之は、そこが堕ちてきた奈落の底であることを認識した。ひとつ欠伸をして全

        • 聖名③

           気付くと自分の部屋のベッドに横たわっていた。  何だか頭がぼーっとして気だるい感じがする。見慣れた天井を見上げたままそのままゴロゴロしているうち、寝起きだと言うことに気付く。枕元のスマホを見ると朝の9時過ぎだった。少し寝過ごしたと思い、寝巻きのまま部屋を出て僕は鼻を鳴らした。何だか焦げ臭いような、煙たいような。階段を降りる脚の違和感の正体、脹脛と太腿の軽い筋肉痛に既視感を感じる。 8月最後の日曜日。この日行われる地元のお祭りに、大好きな先輩にが誘ってくれたことが

        第三十五話

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        • 【創作連載小説】(k)not
          44本

        記事

          聖名②

           初めて袖を通す浴衣は母が縫ってくれた。    浴衣と同じ薄紅梅の生地で作った細いリボンで、少しウェーブのかかった柔らかい猫っ毛を結ぶ。日焼けを嫌って、日傘と敏感肌用の日焼け止めで守っている白い頸に、後毛が揺れている。いつもは下げている前髪も捻ってピンで止め、形の良い額が愛らしく、弧を描く美しい眉と伏せた瞼にすれ違う人は皆見惚れた。薔薇色の頬に落ちるふわふわの睫毛と薄い唇から覗く白い貝の様な小さな歯。  ゆめふわな美少女の僕は、気付くと自分の部屋のベッドに横たわっていた。

          聖名②

          深淵

           魑之は麻酔本を広げた。   禁書と一言で言っても様々ある。多くはその内容が人に対し有害であると認定されたが故の書物の禁錮であるが、麻酔本は所謂魔導書の類でないので、その発禁の理由が釈然としない。  使用するにあたり魔術とは異なり面倒な詠唱等は必要なく、寝つきの悪い時などその頁を繰ればたちまち睡魔に襲われ眠りに落ちる。またその眠りは深く、医療用吸引麻酔等と同じくレム睡眠を抑制する。しかし入眠から一気にノンレム睡眠に急降下するため、しばしば一種の記憶障害の様な症状に陥る。こ

          彼は誰

           黄昏時に鳴いた八咫の鴉が夕闇を連れて来た。辺りは一層暗くなり、濃密な憂いに満ちた夜帷は忽ち彼に纏わり付き、混ざり込んでくる。悲しみや恐怖という感情は既に奪われ、チカチカと明滅する魂が、千切られた魂の切れ端と契ろうとする。自分以外のモノを拒絶する為の手は握り締めて動かない。  今まで何度も味わってきた気持ちとは何だったのだろう。  そう思わざるを得ない絶望。今際の際の喪失感。  その刹那、確かにそれは彼を彼として照らした。  突然、夜帷から切り離されて個となった彼は、

          聖名①

           初めて袖を通す浴衣は母が縫ってくれた。    浴衣と同じ薄紅梅の生地で作った細いリボンで、少しウェーブのかかった柔らかい猫っ毛を結ぶ。日焼けを嫌って、日傘と敏感肌用の日焼け止めで守っている白い頸に、後毛が揺れている。いつもは下げている前髪も捻ってピンで止め、形の良い額が愛らしく、弧を描く美しい眉と伏せた瞼にすれ違う人は皆見惚れた。薔薇色の頬に落ちるふわふわの睫毛と薄い唇から覗く白い貝の様な小さな歯。  ゆめふわな美少女の僕は、気付くと自分の部屋のベッドに横たわっていた。

          聖名①

          第三十三話

           鉄鼠の浴衣に黄金の帯を締めた強面のボスを先頭に、続く二人の利発そうな青年らは、それぞれ紫紺色と浅葱色の浴衣に身を包み談笑している。渋茶色の浴衣を飄々と着流している男性は、大変疲れている様子で、無精髭と目下に濃いクマを作っており、背には子供を背負っていた。子供は眠っている様で、萌葱色の浴衣の袖から伸びた白く細い両腕が男性の肩からだらりと垂れていた。集団の中で一番背が高く体格の良い青年が、濃藍色の浴衣の袖から覗く陽に焼けた逞しい腕を組んで、のっしのっしと殿を行く。  そんな何

          第三十三話

          第三十二話

           午後の講義がオンラインに変更になったので、自室で受講していた襟人は、突然の轟音にPCが落ちて、一人溜息を吐いた。     全くこの辺りは雷が落ち過ぎる。家族が多人数だからか、ブレーカーが落ちることもしばしばある。ゲームを趣味とする理紀や瞬が、プレイ中に何度もこの世の終わりの様な悲鳴を上げているのを知っている。後日、録画した講義を再受講すればいいかと早々に諦めた襟人は、慣れた足取りで部屋を出て、壁に手を這わせながら階下へ降りていった。  つま先の感覚が一階の床を感じたその時

          第三十二話

          第二十八話

           一年前まで屋上が解放されていたのはどうやら本当らしい。中学校の屋上で共物質を見つけた有馬は、夏休み中も練習のため登校していた吹奏楽部員に話を聞くことが出来た。生徒たちは皆同様に、最初驚いて固まるが、割と礼儀正しく応えてくれた。夏休みと言えど様々な理由で登校してくる生徒はいるものだ。登校する人や団体は事前に申請をして、どの教室を使用するのか届け出ておかなければならない。そして学校側も申請を受けて教室使用の管理をする当直の教師を用意しておかなければならなかった。  吹奏楽部員

          第二十八話

          誰そ彼

           そっとテーブルの下から這い出してみた。  いつの間にか雨は止んで雷雲は去り、テラスは陽に照らされている。だんだんと陽が傾き、森の方の空が茜色に染まってきた。誰そ彼時だ。自分が何に怯えてテーブルの下に逃げ込んだのかさえ思い出せず、ただ斜陽が刺す方を見つめた。  誰かがやって来る。遠くの森から小さな影が近付いて来る。硝子に顔を近付けると鼓動が胸に蘇って来る。忘れていた息苦しさが心地良い。  真っ直ぐこちらに向かう、頼りなくゆらゆらと揺れるその影は、時々止まって少し休むとま

          第三十一話

           遠くの雷鳴がまだ明るい空に轟く。ドラムロールの様に低くじりじりと近付いて来た音に、晴三郎はカーテンの隙間から外の様子を確認した。庭の植物たちに被せたシートが捲れていないか、片付け忘れた植木鉢は無かったか、ガレージのシャッターは閉めたか云々。墨を水に溶いたような雨雲が、明るかった空に滲んであっという間に光に幕を引いてしまった。  風に揺れた広葉樹の葉にパタパタっと雨粒が落ちたかと思うと、途端に硝子を叩く大粒の雨に変わる。 「降ってきた?」  雨戸を閉めて暗くなったリビン

          第三十一話

          第三十話

           木曜の夜。 運転見合わせになる前にと頑張ったものの、駅の前のタクシーの行列に加わると順番を待っているうちにずぶ濡れになるのが目に見えていたので、傘を挿すのを諦め、猛ダッシュで自宅まで走って帰ったアラフィフは後悔していた。明日の始業のため会社近くのビジホに泊まった若手社員のように、無理して帰らずとも良かったのではないか、と。  しかしそれは風呂上がりのビールで帳消しになるはずだ。和二郎は仄暗いキッチンのドアをそっと開けると冷蔵庫から冷えたビールを取り出し、そのまま

          第三十話

          第二十九話

           水曜日の夜。  熱帯生まれのパリピな彼女が、アゲアゲで上がりまくった挙句、積んで乱れた低気圧になって来日すると言う。ここ何日も真夏日が続いたせいか曇り空にホッとする。昼間の内に、晴三郎は庭の植物たちをシートで覆い、吹き飛ばされそうなガーデニングのあれやこれやをガレージに納めた。 結局昨夜、正一郎と派手に喧嘩をしたものの、瞬の同衾発言で有耶無耶になってしまった。それについては有馬からそれなりの説明があったので、一応の収束を見た。兎に角、今後の聖名の治療については、

          第二十九話

          第二十一話

          火曜日。 照り付ける太陽のせいでカラカラに乾いたグラウンドの西側に影が伸びる。深夜の景色とはまるで違う暢気な校庭に、有馬は一人立っていた。煉瓦で組んだ花壇に歩を進めると、生温い風が砂埃を巻き上げる。両掌で陽射しを遮って校舎の屋上を見上げた。  (誰も居ねー・・・夏休み、当たり前か。) 有馬は何か違和感を感じて首を傾げた。傍の向日葵も重そうな頭を傾けている。夏休みの間も活動をしている吹奏楽部の音が風に乗って響いてくる。そのまま暫し有馬は耳を傾けてい

          第二十一話