つみのかじつは夢をみせる【編集版⑤】

 昨日本を読んでいて、気が付いたら夜中の3時を過ぎていた。夢中になって読んでいたら時間がどれだけ経っていても案外気にならないのである。慌てて寝た。

 今日掲載するのは「月に負け犬」に関する話。今回と次回はなんか辛い。書いてても辛かったけれど書くために振り返るのも辛かった気がする。それだけ今流行りの感染症はたとえ感染しなくても精神的にやられたりしてしまうんだなとか、ストレス抱えちゃうのよくないなとか改めて思った。

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何も怖くないけれど~「月に負け犬」~

 今年一番共感した曲ランキングを作るとしたらどの曲を入れるかなあ、なんて考えながらアルバムやシングルの収録曲を振り返っていて、「確実にこれは入るだろう」という楽曲が一曲ある。『勝訴ストリップ』に収録されている「月に負け犬」、これだけは何が何でも外せない。
 人と会うことが難しくなって、もう何度も発令されていてどんな効果があるのかわからない宣言や措置が繰り返されて、今年の春先、自分でも気が付かないうちに心は疲れていた。普段から、これは長子の性みたいなものもあるのだろうが、自分が「ああ、これはもう本当に限界だな、無理だな。」と思うまで、多少辛かったり苦しかったりすることはそれが過ぎ去るまで隠し通す。よく「すぐ顔に出るよね」とか言われるのだけれどそんなの一部分で、顔に出ている何十倍もその感情は蓄積されている。それでも時間に身をまかせてみたり、文章にできそうな内容のものは日記にしてみたりするのだが、今回ばかりは時間に身を任せる暇も文章で表現することもできなくて、完全な八方塞がりだってことに気が付いた時には、溜め息の回数も多くなっていたし、何もしたくない、何も見たくない聞きたくない、誰も私に近寄らないでほしい、と思う日が増えていった。
 そんな毎日が続いていて久しぶりにちゃんと音楽を聴こうと思って再生したのがこの「月に負け犬」だった。
〈好きな人や物が多すぎて 見放されてしまいそうだ 虚勢を張る気は無いのだけれど取分け怖いこと等ない〉
という歌い出しの歌詞があまりにもその時の自分に当てはまりすぎていて、真っ暗な部屋の中で自然と涙が出た。その時初めて「私は今ボロッボロなんだろうな」と自覚して、先に書いた感情になった理由が分かった。孤独を感じて、今にも壊れそうで、それでも無理やり笑顔を顔に貼り付けるような毎日。当然ながら人生的にはまだまだ経験も少なくて未熟だから、これから先大学を卒業して一人の自立した大人として社会に出て行ったらもっとこういうことがふえるのだろうけれど、それを上手に受け流すスキルも生憎持ち合わせてはいないし、心無い一言を真正面から受けて傷つくことだって多い。なのに「何も怖くない、大丈夫。」とかそういう根拠のない自信みたいなものが自分の心の中を九割占拠していることが多いのだ。
 しかしそれは、ある日突然崩れ落ちる。今までどうにかこうにか蓋をしてきた色々な感情が溢れ出て止まらなくなる。この楽曲はそういう人のために在るのだと思う。
〈此の河は絶えず流れゆき 一つでも浮かべてはならない 花などが在るだろうか 無い筈だ 僕を認めてよ 明日 くたばるかも知れない だから今すぐ振り絞る 只 伝わるものならば 僕に後悔はない〉
 そうしてようやく叫び吐き出した心の声は広い空にあっという間に吸い込まれて行ってしまう。空も季節も何も言ってはくれない。
〈何時も身体を冷やし続けて無言の季節に立ち竦む〉
 空っぽなのだ。もう散々傷ついて、貼り付けた笑顔と周囲への同調しかしていない言葉。そこから逃れたいと思っても、人間そう簡単に変われるわけもなくまた結局同じ道を歩き続けるのである。
〈上手いこと橋を渡れども 行く先の似た様な途を 未だ走り続けている 其れだけの 僕を許してよ〉
 結局そっちに行くんだ、とか思わないでほしい。それをする私を、それ以外選べなかった私をどうか許してほしい。そう思うことは我が儘なのかもしれないけれど、それでも〈数字ばかりの世に埋まる〉この世界で生きていくためには必要な選択なのではないか、と思う。そしてまたサビへと繋がっていく。
 この楽曲のサビは心の声を振り絞っているかのように、叫ぶような声で歌われる。まるでこの楽曲を必要としている孤独な人の叫び声なのではないだろうか、と思う。【負け犬】という言葉をタイトルに選んだのは、「この曲も「結局、虚勢を張ってんだか張ってねえんだかわかんねえんだよ!」ってレコード会社の人に怒鳴られて、何も言い返せなかったから「負け犬」なんですね。」とフリーペーパー「電脳RAT」のアルバム全曲解説に書いている。当時のレコード会社の人は、多分「何も怖くない」とかこの楽曲に描かれている感情がわからなかったのだろう。テレビ朝日制作の「関ジャム 完全燃SHOW!」の2019年11月18日放送回で、「殿方は黙ってて!わかんないだろうからっていう感じで。」とインタビュー内で答えていたのを何となく思い出した。そうやって時には盾を突きながらもデビューから二十三年、リスナーや世の女性たちに寄り添ってくれている彼女は凄いな、とこのコロナ禍になってからそう感じることが以前よりも圧倒的に多くなった。そんな彼女の楽曲に私はまた今日も知らぬ間に救われているのである。

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 中3の私へ。椎名林檎に惚れてくれてありがとう。

知識をつけたり心を豊かにするために使います。家族に美味しいもの買って帰省するためにも使います。