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【照葉の小説】ショートショート集

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照葉のショートショート集 : 各種企画への応募作品を含むショートショートを集めたもの (ショートショートnote、掌編、ショートショートなど、4000文字以下の小説集) http… もっと読む
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小説のマガジンへの入り口

 現在、創作した小説は以下の四つのマガジンに分散して整理しています。  今後、それぞれのマガジンの役割は以下になります。 照葉の小説の断片マガジン もともとは、ここに全ての小説を集めていました。これからは、完結していない小説だったり、連載小説の時の分割した話を格納するマガジンとして運用します。つまり、小説のパーツの集まりのためのマガジンみたいな場所になります。 【照葉の小説】短編以上の小説集マガジン 独自のルールを適用して短編以上(4000字以上)の小説を格納するマガジ

【SS】 リセット #シロクマ文芸部

 風薫る瞬間に僕の特殊能力が目覚める。若葉が芽吹いたその感覚を僕の全身は敏感に感じ取る。眠っていた能力は開花し、僕は過去一年間の自分の人生をリセットできるようになる。つまり、やり直しができるのだ。  僕の能力は中学一年になった時に突然開花した。しかし、それには制限もついていた。やり直せる期間は過去直近の一年間のみで、高校を卒業するまでしか使えない。今、僕は高校三年生、そう、やり直しができる最後の年だ。過去一年間は非常に順調だった。志望していた大学にも合格したし、大きな問題は

【SS】満天の星 #毎週ショートショートnote

裏お題:真夜中万華鏡/タイトル:満天の星| 「ねぇ、今日も見られるかな」 「どうかな。でも、一緒に見たいよね」 「うん、じゃあ、夜の十二時に例の場所で会いましょう」 「わかった。気づかれないようにね」  高校生のカップルが夜のデートを約束しているようだ。どうやら、待ち合わせの場所は、街外れの小高い丘の一本杉。両親に内緒で抜け出してデートするようだ。雲のないいい天気の日には決まってデートしていた。  ここは、南の島で空気がとても綺麗な場所。夜空は満天の星で埋め尽くされてい

【SS】タイムワープ #毎週ショートショートnote

お題:放課後ランプ/タイトル:タイムワープ|  とある高校での不思議な話を紹介しよう。皆さんは「ランプ」という言葉を知っているだろうか。光を放ち周りを明るく照らす道具のことではない。高速道路などで高低差のある道路を結びつける役割の道路のことをランプと呼ぶのである。立体交差するような場所の道路がそうである。さて、そのランプと高校がどんな関係があるのだろうか。  退屈でつまらない授業が終了すると学校は一斉に「放課後」と呼ばれる時間帯に突入する。そこからが生徒たちの真の楽しみが

【SS】 人類の未来 #シロクマ文芸部

 子供の日が今年もやって来る。去年までは人類にとっては最も辛い日だった。子供の日は世界中でまちまちなので、国によって日は違うが、一様に辛い日であったことには違いない。今は西暦二〇九九年、辛い日となった原因は二十年以上前に遡る。  当時の世界は国同士が何かにつけて対立をし、溝を深くしている時代だった。日本もその渦に巻き込まれていたのである。もとより、世界を先導する大きな信用も力もない日本は大国の決定に従うだけの存在になっていた。そんな時、かろうじて均衡を保っていた国同士がちょ

【SS】気になるシミ対策 #毎週ショートショートnote

お題:トラネキサム酸笑顔/タイトル:気になるシミ対策| 歳を重ねた母と娘が鏡を前に暗い顔をしている。どうやら、歳を重ねるごとに増えるシミで笑顔が次第に消えてしまったようだ。母は六十七歳、娘は四十五歳。娘も三十歳を超えた頃までは母親のシミを見てバカにしていたものだが、ここにきて自分にもシミが増えてきたことを気にし始めたようだった。そこにちょうど顔を出した孫の桂花。何かを片手に話の間に割って入っていった。 「ねぇ、ママもおばあちゃんもシミを気にしてるんでしょ。これ、試してみた

【SS】 消えた春の夢 #シロクマ文芸部

 春の夢を失ってしまった。良人の春の夢は儚く消え去ってしまったのだ。とても心地よく感じていたはずなのに、それすらも思い出せないでいる。それからというもの良人は夢というものを見ることがなくなった。いや、もしかすると見ているのかも知れない。何となく目が覚める前に全てが消え去る感覚に襲われているようだ。誰かが夢の中に入り込んできている気もしているのだが、夢は綺麗さっぱり消え去ってしまうので自分ではわからない気持ち悪さが残っていた。  良人は、モヤモヤした気持ちの毎日を過ごしてはい

【SS】山奥の春 #毎週ショートショートnote

お題:雪解けアルペジオ/タイトル:山奥の春|  厳しい冬も過ぎ去り暖かい日差しが心地いい。ここは山奥の清流が湧き出ているところだ。人が訪れることはほとんどない。春の日差しを感じ取った森の動物たちがやってきて喉の渇きを潤している。人工物もなければ人工音もない。澄み切った空気の中で、自然のリズムだけが奏でられている。自然が作り出した音楽がそこにはあった。  安心しきった動物たちは、自然の音楽に身を委ねている。冬のなごりを残す雪を避けながら、大地から芽吹き始めている新しい命を喰

【SS】春という文字 #毎週ショートショートnote

お題:春ギター/タイトル:春という文字| 「春」という文字を伸ばしてみるとギターの形になるという。 言われてみればそうかもしれないと思った。3本の「横棒」はギターのネックで弦を抑えるためのフレットのようにも見える。ギターのネックの上に行儀よく並んで指で押さえた時に弦をピンと張り綺麗な音を出す役目を持っているアレだ。そうすると「日」という文字がボディでサウンドホール部分を指すのだろう。日の丸をイメージすると想像しやすい。なんとなく全体像がイメージできた気がする。 残るは、両

【SS】 桜色の龍 #シロクマ文芸部

 花吹雪は美しく風情があるが、目の前で繰り広げられている光景はそうではない。美しく淡い桜の花びらが、一枚二枚と風に舞い始めたかと思っていたら、竜巻のように周りの花びらを吸収し、大きな渦を作り上げた。ほんの数秒で見る見るうちに花びらが吸い寄せられ、まるで大きな生き物のようになっている。もはや、花吹雪の域ではない。そのまま成長すればまるで天に昇る桜色の龍になりそうである。  じっと息を潜めて見ていると反対側では、なんと大量の小石が引力を無視したかのように地面から浮かび上がってい

【SS】雨と邪気 #毎週ショートショートnote

お題:オバケレインコート/タイトル:雨と邪気| 今年ももうすぐ鬱陶しい梅雨の季節がやってくる。この季節になると、海辺の村では不思議な雨対策をする人たちが増えてくる。 村には、梅雨の季節になると海の神様が怒り狂って邪気を持ってくるという言い伝えがあり、お祓いの意味を込めた雨対策なのだそうだ。 雨の日でも仕事はしなければならないので傘をさすわけにはいかない。そこで雨の日用のカッパが必需品になる。一様に物置にしまったカッパやレインコートを引っ張り出して、邪気を払うための魔除け

【SS】焙煎マイスター #毎週ショートショートnote

お題:深煎り入学式 & モカ入り卒業式/タイトル:焙煎マイスター|  今日は珈琲豆焙煎技術専門学校の深煎り入学式の日だ。新入生は、浅煎り課程、中煎り課程を卒業してきた猛者たちだ。皆自信を持って胸を張り入学式に臨んでいる。卒業できる人数は三割にも満たない難関課程だ。しかし、この課程を無事卒業すれば、焙煎マイスターの称号が与えられ、将来が約束される。全員が真剣そのものだ。  温湿度と秒単位で変化する珈琲豆の状態を見極め、極上の状態の深煎り状態を安定して作り出せなければ卒業はで

【SS】少子化対応 #毎週ショートショートnote

お題:深煎り入学式/タイトル:少子化対応|  入念に時間をかけて検討された入学式が開催されるようになってから、どれくらいの月日が経つのだろうか。我々が幼い頃は、両親が異常にバタバタして入学の準備をしていた記憶がある。私はまるで他人事のように入学式の準備に追われる母親を見ていたので、母親からは毎日のように怒られていた。 「そのお洋服は入学式用だから触っちゃダメ」 「その靴を履いて遊びに行ってはダメよ。汚れてる方を履いていきなさい」 「ランドセルで遊んじゃダメ。おもちゃ入れじ

【SS】 歴史検証 #シロクマ文芸部

 変わる時空の色は、まるでグラデーションのようだ。これまで何度となく時空間を往来したが、毎回異なる色に遭遇するのは不思議な感覚だった。どうやら、色の要素に時間も関係しているのではないだろうかと、一色青(イッシキセイ)は時空船の中で一人物思いに耽っていた。時空船とは時空間を移動できるタイムマシンであると同時に、異空間への移動の機能も備わっている船だ。  セイの仕事は「歴史の検証」である。文献に書かれている歴史が正しいかどうか、その時代まで遡って実際に確認してくることが役割だっ