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【SS】 リセット #シロクマ文芸部

 風薫る瞬間に僕の特殊能力が目覚める。若葉が芽吹いたその感覚を僕の全身は敏感に感じ取る。眠っていた能力は開花し、僕は過去一年間の自分の人生をリセットできるようになる。つまり、やり直しができるのだ。

 僕の能力は中学一年になった時に突然開花した。しかし、それには制限もついていた。やり直せる期間は過去直近の一年間のみで、高校を卒業するまでしか使えない。今、僕は高校三年生、そう、やり直しができる最後の年だ。過去一年間は非常に順調だった。志望していた大学にも合格したし、大きな問題は起こらなかった。たった一つのことを除いては。

 僕には高校二年の冬から付き合い始めた桜子という彼女がいる。付き合い始めて分かったのだが、人一倍独占欲が強く、僕の全てのことを知りたがる女の子だった。告白するまではそんなことは全く知らなかった。それに僕の行動を何となく見透かされているようで時々恐怖を感じていた。だから、彼女との関係をリセットしたい。なかった事にしたいんだ。そのためだけに、最後の能力を使うことに決めた。桜子と付き合わなかった一年にする。そしてそれは未来にも続けたい。そう決心して告白する一日前に戻り、何事もなく過ごしてしまうつもりだった。

 告白の一日前、桜子が目の前に現れた。とても可愛いその笑顔にまたのめり込んでしまいそうになるのを我慢して、素知らぬ顔ですれ違おうとした瞬間。下腹に激痛を感じた。視線を落とすと桜子の右手には果物ナイフが握られていた。そしてその刃先は僕の下腹に刺さっていた。

「ぐはっ。な、何をするんだ、桜子、うっ、い、痛い」
「ねぇ、私のことスルーしようとしたでしょ。許さないわよ、そんなこと。隆史は私と永遠に結ばれる運命なの。隆史は自分の人生を一年だけリセットできる力を持ってるんでしょう。私知ってるのよ。急いで、明日に行って私に告白しなさい。そうすれば今日のこのことはなかった事になるわ」
「そ、そんな」
「嫌なら、隆史の人生は終わるわよ」
「わ、分かった」

 僕は下腹を抑えながら、一旦リセットするのを中止して元の時間に戻り、急いで桜子に告白した日に戻った。不思議とナイフで刺された傷はなくなっている。

「桜子。ぼ、僕と付き合って欲しい」
「隆史、嬉しい。そう言ってくれるのを待っていたわ。五回目でやっと告白してくれたのね。これからはずっと一緒だね。ふふ」
「えっ、五回目ってどういうこと」

 桜子は笑っただけで僕の問いには答えなかった。こうして僕の最後の能力は消えてしまった。どういうわけか大学も桜子と同じになり、学部まで一緒になっていた。大学生活に慣れ始めた頃、桜子が僕に話してくれた。

「私ね、隆史と同じ能力を持ってるの。あっ、でも隆史はもう無くなっちゃったんだよね、特殊能力。でもね〜、私は消えないんだ。死ぬまで使えるんだって。大学を卒業したら私たち結婚だね。これからもずーっと隆史と一緒にいられるなんて私幸せだわ。隆史も幸せでしょ」

 僕は真相を知り、自分の人生を放棄せざるを得なくなったことを悟った。


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