見出し画像

#07 - 長い提案活動の結果の逆転負け


 これは、とても悔しい記憶です。私だけではなく、お客様担当者にとっても悔しい記憶でした。我々SEは、お客さまの会社内で予算取りのための稟議書を手伝うことはよくありました。そんな案件のとっても悔しい経験です。

 ある製造業のお客様の担当をすることになりました。実は、その会社の部長さんは以前の部門に在籍されていたときに私がプロジェクトで支援したことがある方でした。その時の縁もあり、またお仕事の支援をするチャンスが来ました。もともとは我々の直接のお客様ではなく、今回よければ見直ししようということから巡ってきたチャンスだったのです。結構、営業さんが頑張ってチャンスを作ってくれたようです。

 ならば、SEである我々がお客様の支援を通して決して営業がいい話だけをしたんじゃないということをわかってもらって契約にまで漕ぎ着けなければなりません。もちろん、気合は120%入りまくりです。

 当時のメジャーだった大型コンピュータを提案し、その中で稼働するアプリケーションを効率よく稼働させるための仕組みやミドルウェアの構成、メリットやデメリットを日々お客様の担当者とディスカッションし整理後文書化していきました。最終目標は、現在のお客様業務をリニューアルし、保守費用の削減につながる効率化も追求する必要がありました。保守に関わっているお客様の人員にも限度がありなんとか効率化をすることが迫られていたのです。我々は、当時利用できるITを駆使してシステムとしてサポートできる範囲を広げる努力をしました。

 時には、「あなたはしつこい。そんなとこまで確認しなくていいじゃないか」という言葉をお客様から浴びながらも、ある意味めげずに、「でも、確認しておけば安心ですから」と返しながら進めました。

 きっと「これまでのことを知らないSEがうるさいな」と思っているんだろうなと考えながらも日々整理に勤しんでいました。そのせいもあり、徐々に我々の本気度も伝わり、お客様との関係も良好となり、新しい業務システムの概要が固まりました。そして、システムに投入する費用や効果を整理して、稟議書として完成したのです。お客様は、これで社長に説明できる資料ができたと喜んでいました。その頃には、お客さまともプライベートな話をするまでにお互いの信頼関係が醸成されていたと思います。

 検討した内容としては、利用するマシンの構成やアプリケーションの構成、そしてアプリケーションが利用するデータベースの基本的な考え方や可用性を考慮した全体設計を含み、費用対効果(大体3年程度で費用回収期間が始まるように)の整理、我々SEが開発に参画する時の料金、期間なども含んでいました。通常なら、持ち帰って提案書を作成しお客様に提示するのが普通ですが、この時は、お客様とともに計画ベースの設計を実施しながら、我々からの提案書を営業とともに書き上げ、お客様の上層部に提案、そして、その結果を踏まえてお客様内の稟議書作成もお手伝いし、お客様リーダーからお客様の社長説明へとつながったわけです。もちろん、会社として支援しているので、我々の社内ではこの内容でお客様に提示していいかという、提案レビューは受審していましたので特に問題はなくスムーズに進みました。もちろん、この後想定される契約やシステム開発の際は、再度社内レビューを受けることになる予定です。

 社長説明の場に我々は同席できませんでしたので、お客様からの知らせをドキドキしながら待っていたのを今でも覚えています。

 一度は社長のスケジュールの都合上延期されましたが、程なく説明会は実施され、「なかなかいい内容になっているね。基本的にはこの案で進めていこう」と言葉をもらったというのを営業経由で伝え聞いた日は営業とともに祝杯をあげました。この後は、実現に向けて設計を詳細化していかないといけないなと気を引き締めていました。

 ところが、数日経った日、営業から一本の電話が入りました。「現在お客様と契約している会社が急遽社長コールをし逆転負けしました」という内容でした。耳を疑ったのは、そもそも競合になっていない案件という認識もあったことと、社長からも実行指示が出たという認識でしたので、「どうして」と思ったわけです。営業によれば、現在契約している会社は長い付き合いもあり、お客様との信頼関係もできているとのことでしたので、我々の提案を現在契約している会社にも相談したようでした。当然、その会社は設計などに関与していませんでしたので新しい提案を作るというのは時間的に間に合うはずはなかったのですが、とんでもない営業戦略で我々は撤退を余儀なくされてしまったのです。営業から電話が入った日は、営業とともに夜が開けるまで飲み明かし、翌日は二日酔いで仕事にならなかった記憶があります。

 なぜそんなことが可能になったのだろうと思っていたところ、その会社は、「現在、書き上げられた計画に基づき同じ考えを踏襲してお客様のシステムを再構築します。料金は、提示されている価格の1/3程度で請負います」という内容で社長コールを強行し、見事に契約に漕ぎ着けたのでした。一週間もかけない営業で大型案件を取得したのです。素晴らしく効率のいい営業戦略でしたが、当時の担当SEとして私は納得がいくはずもなくかなりくすぶっていました。これがビジネスの世界か、いや何かが間違っている。そう思ったものです。

 営業もそれに気づいたのかお客様担当者に連絡話しり「残念会」をやりませんかと言ってくれたのですが、お客様からは、「とんでもありません。合わせる顔がないので、残念会はやめましょう。いつか正式にお付き合いができた時においしいお酒を呑みましょう」という返事をいただきました。この言葉で、私のくすぶっていたものも消え去り、前進することができました。

 不安もありました。この後苦労することになるのは、お客様担当者に他なりません。我々も基本計画レベルは伝えてありましたが、具体的にどんな機能を連携してシステムとして作り上げて行くのかは次のステップとしていたので、お客様も知見がありません。それを横から入ってきた会社が読み解き構築することが本当にできるのだろうかという不安でした。

 その後数ヶ月が経過した後、聞いた話ですが、やはり再構築は失敗したそうです。心の中でちょっと喜ぶ自分がいましたが、お客様はもっと大変だなと思い声にはしませんでした。悲しいけれど勉強になった案件でした。果たして、あの時、どうするべきだったのか。その後、このお客様の支援を再度実施する機会はなく、現在に至ってしまいました。

 当時は、お客様担当者の持っている現状業務に対するスキルを出してもらい、新しいITに対するスキルを我々が提供し、最も安全に進めるためのシステム案を作ることに全集中していたわけです。もし、タイムスリップしてあの時に戻れたらきっと同じことをするように思います。我々に足りなかったこと。それは、我々の上層部を巻き込んだチームオペレーションではなかったのかと思っています。我々SEの本分、営業の本分は担当者レベルとして十分に実施したと思っていましたが、会社の代表としての振る舞いには欠けていたように反省しています。お客様から見れば、現場にいる我々が会社の代表なわけです。であれば、お客様の上層部、特に社長のフォローをすることも考えなければならなかったなと思います。本当にお客様のことを考えてシステム提案をするのなら、お客様の会社ごとサポートする体制が必要だったなと思います。特に、新しいお客様でしたから。

 個人的にはいい教訓として捉えてはいますが、当時のお客様担当者のその後の苦労を考えると申し訳ない気分が蘇ります。我々がもう少ししつこくフォローできていれば変わっていたかもしれません。


他のSE経験記事は以下のマガジンに入っています。よければ覗いてみてください。


よろしければサポートをお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。