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#01│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」

【あらすじ】

「鬼を見たら逃げろ。絶対に戦うな」
”剣豪”と呼ばれた男はそう言った。
 
 舞台は古代の日本。
人が鬼に支配された世界だ。
 
そんな中、桃太郎が生まれる。
桃太郎は城下町で、数々の悪人をこらしめ「天下無双」と言われるようになる。
  
実は、桃太郎の正体は”現代から転生した”水島アキラだ。
武道の師範で喧嘩好きだったアキラは、体術や剣術を存分に使い、戦いを満喫していた。
 
村の人を救うため、桃太郎は鬼ヶ島へ向かう。
だが圧倒的な力量差で返り討ちに遭い――!?
 
 戦いにしか興味がなかったアキラは、人と出会うことで成長する。
強さとは何か――
平和とは何か――

これは、一人の武人が試練を乗り越え、平和をもたらさんとする物語である。

犬が握りつぶされた。
鬼たちの笑い声が響き渡る。


絵本で読んだ鬼・・・・・・・と全然違うじゃねぇか・・・・・・)


でかい。
身の丈は人間の倍もある。
それに、上半身が異常に発達していた。
胴回りは大木のように太く、両腕は地面に届くほど長い。


(体格差がありすぎる・・・・・・!)


何より不気味なのが、頭だけ牛・・・・であることだ。
牛頭ごず、というヤツか・・・・・・?


そんな鬼5匹に囲まれている。

刀を身体の正面で構え、目の前の鬼に対峙した。
奥歯はカチカチと鳴り、小便が漏れる。
犬以外に仲間はいない。猿も雉も道中で出会うことはなかった。


正面の鬼が、弓を引くように右手を振りかぶった。予備動作が大きい。

「右に跳んでかわす――!」
そう思っても、身体は凍り付いたように動かなかった・・・・・・。
 


◇◇◇◇◇◇




目を開けると、見慣れた天井が見えた。どうやら、布団で寝ていたらしい。

「気がついたようじゃな」
「わっ!オバアサン!?」


驚いて布団から半身を起こす。
隣で、オバアサンが正座していた。
顔が異常なほど皺だらけなので、ひそかに“ゴブリン”と呼んでいた。しかし、背筋はいつもピンと伸びており声にもハリがある。


「さっきまで鬼と戦っていたはず・・・・・・」
「お主は鬼と戦い、負けたのじゃ。そして、復活した。希火団子きびだんごの力でな」


そうだ、鬼ヶ島に行く前、希火団子をオバアサンに食わせてもらっていた。まさか、こんな力があったとは。


「復活できるなんて、先に教えてくれてもよかったのに」
「教えたら、安心してしまうじゃろう?それでは本気の勝負にならない」


一理ある。


「桃太郎さ~ん!」


ふすまがスーッと開き、隣の部屋から白い犬が駆け寄ってきた。


「おぉ~楽丸がくまるも復活できたか!」


楽丸、というのはこの家で飼っているこの犬の名前だ。
この世界では、動物が人語を話す。当初は、不気味で仕方なかった。しかも、楽丸はなぜか関西弁だった。まぁ、すぐに慣れたが。 


「鬼はすげぇ強かった。何もできなかったよ」


オバアサンは、ゆっくりとうなずく。


「奴らは強い。それに9999匹いるらしいしな」


そんなに・・・・・・!?


「難敵であるのは百も承知じゃ。それでも、これから戦いと復活を繰り返して鬼に勝たねばならん」
「簡単に言ってくれるなぁ・・・・・・」


楽丸も抱かれたまま抗議する。


「せやせや!こっちは人間一人とかわいいワンちゃん一匹やで?」


すると、オバアサンの目がみるみるうちに吊り上がった。


「あほぅが!前にも言ったじゃろ!あいつらは、若い女を奪っていく!」


オバアサンがどなる。


「一年に一回、生贄の女を送るんじゃぞ?助けたいとは思わんのか!それに・・・・・・

それに?
言いかけて、オバアサンの歯切れが悪くなる。


「いや、何でもない。たしかに鬼は強いな。だからこそ、勝ちたいと思わんか?」


はっとした。


「お主は、希火団子の力で何度でも復活できる。経験・修行を積み、倒せばいいんじゃないか?」


オバアサンは、続けた。


「鬼を倒せば、一つだけ願いが叶う打出の小槌うちでのこづちも手に入るらしいがの」


それって、たしか一寸法師のじゃなかったけ・・・・・・?


「まっ、お主が負けたままのウンコ野郎でいいなら、無理強いはしんがのぅ」


お、おもしれーこと言うじゃねぇか。たしかに、負けっぱなしってのはシャクだ。
いいぜ、やってやろうじゃないの。鬼どもをぶっ倒してやる!

ついでに打出の小槌も手に入れるぞ。
この世界に飽きたら元の世界に帰る!

 
ただ、現状は多勢に無勢だ。本気で鬼を倒しに行くなら、仲間の力も不可欠だろう。


「なぁ、オバアサン。このへんに、猿や雉っていないのか?」
「雉は知らん。猿ならおるよ」
「居場所を教えてくれ。行って、仲間になってもらう」


オバアサンは「構わんよ」と言ったあと、ため息をついた。


「ただ、あいつらが素直に仲間になってくれるとは思えんがね」


(つづく)

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