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”おにわさん”中の人が独断で選ぶ、2020年初鑑賞で素晴らしかった日本庭園名選

庭園情報サイト『おにわさん』は掲載庭園が約1,500箇所、そしてInstagramフォロワー:2.5万人/SNS合計フォロワーは3万人を突破しました

2021年も既に8月に入っちゃいましたが……昨年、自分が初めて訪れてヤバい!と思った庭園、略して“ヤバT(庭)”を記したいと思います。
↓2019年版の独断で選んだ庭園名選はこちら。

1年前の記事では「インスタフォロワーが1万人突破」と書いていた。
そこから2.5倍になったからと言って自分個人や立場に変化が生じてるわけではないのですが、投稿を見ながら『ここ、行きたい!』と思ってくれている方が増えているならばそれが嬉しいことで。

現在は国内外含め月間約40-50万人のユニークユーザーの方が『おにわさん』のウェブ・SNSを通じて”庭園”の情報を見てくださっています。

おにわさん独断で選ぶ、2020年初鑑賞で素晴らしかった日本庭園

先に紹介した、“いいね数”による『おにわさんInstagramから見る、日本庭園ランキング2020』

に含まれない中でも、個人的に『ここはすごいー!』と思った庭園が沢山あります。そんな庭園を10箇所を目安にピックアップ(結果14箇所になりました)。
「初鑑賞」という条件の下なので必然的に庭園としてマニアックな多いです。

けど、今回は“建築作品としては有名どころ”が多いかもしれない。この一年の自分の趣味の中では“近代和風建築が強い”。

これまで(2019年頃まで)はたとえば庭園本に載っていたり、文化財指定されている『●●氏庭園』『●●寺庭園』のような場所を中心に足を運んでいた。

2020年はコロナ禍もあって、近場で“呼称には庭園と入らないけど、庭園がある場所”に多く足を運んだ。
それプラス前年に『並河靖之七宝美術館』を見たあたりから“和風建築と庭園の組合せ”が自分の中で大きくなった。いわゆる”庭屋一如”というやつでしょうか。

というわけで紹介していきます。

① 八勝館庭園(愛知県名古屋市・国指定重要文化財)

――これぞ庭屋一如。建築家 #堀口捨己 の手掛けた昭和の日本を代表する和風建築には、日本庭園の存在も欠かせない。

昨年の同記事では「見た順」に並べたけど、2020年は「ここが一番良かった」というのが2つある。
まずは昭和の和風建築の傑作・八勝館!2020年夏に訪れた後に国指定重要文化財にもなりました。

庭園として取り上げられていることはあまりない印象ですが、素晴らしい和建築にはやはり庭園空間は欠かせない。名作庭家 #飯田十基 に師事した #福住豊 さん作庭の庭園。現役の作庭家です。

この8月にも特別公開がありますよ。高いけど一見の価値がある、ここを見ずに昭和の庭園は語れない――ぐらいの場所だと思う。

② 北村美術館“四君子苑(京都市上京区・国登録有形文化財)

―― #吉田五十八 #北村捨次郎 #佐野越守 の手掛けた、数寄屋建築×モダニズム建築×庭園×借景×美術品の総合芸術。

ツートップのもう一つも、知る人ぞ知る京都の名建築。例年、春と10月頃に特別公開。
吉田五十八と北村捨次郎による建築も素晴らしいですが、佐野越守の庭園も素晴らしい!!語られることが少ない作庭家でも素晴らしい方が居る。そこをもっとディグっていきたい。

以下は見た時期順に並んでます。

③妙福寺庭園(福岡県福岡市・福岡市指定名勝)

――一年間で8時間だけ拝観のチャンスがある“雪の庭”。江戸時代初期以前に作庭された庭園。福岡市指定名勝。

2020年上半期のほぼ唯一の遠征は福岡県でした。お目当ての試合が中止になっても旅をキャンセルしなかったのは見るチャンスが少ないこの庭を見る為だった…。類稀なる、という言葉はこの庭園にピッタリ。

④南禅寺 菊水庭園(京都市左京区)

――南禅寺参道の人気旅館・レストランに残る、小川治兵衛…ではなく“鈍穴流”花文が明治時代に作庭した回遊式庭園。

後述しますが、2020年に自分に起きた変化は“少し良いレストランや宿泊施設の庭園も見に行くようになった”こと。そうなると京都には素晴らしい日本庭園を持つお店がたくさんある。

その中から選ぶのは難しいのですが、やはり南禅寺界隈別荘群の庭園はすごい…と感じさせられたのが菊水の庭園。作庭が滋賀の伝統的作庭集団“鈍穴流”花文である(表向きには小川治兵衛と書かれてるけど)、というのも◎!

⑤志賀直哉旧居(奈良県奈良市・国登録有形文化財)

――文豪 #志賀直哉 が自ら設計、京都の数寄屋大工 #下島松之助 が手掛けた素敵近代和風建築。異なる3つの庭園も!

京都・南禅寺界隈の別荘とはまた違う奈良・高畑の別荘群、数少ない公開施設がこちら。
庭園というより建築強めだけど、書斎からの春日山と庭園の眺めや中庭の露地など、 #庭屋一如 の一例ではないでしょうか。

⑥賓日館庭園(三重県伊勢市・国指定重要文化財)

――圧巻!120畳の大広間から眺める国名勝“二見浦”の借景と回遊式庭園。国指定重要文化財の近代和風建築。

ここも庭園よりも建築強めですが。 #国指定名勝 二見浦の景色を眼前にのぞむ大座敷と、そこから見下ろす、巨大な燈籠などの贅が尽くされた庭園。
これ程の庭園でも“市指定名勝”とかにもなっていないのだから庭園の評価は難しい…。

⑦西尾家住宅(LE UN 神戸迎賓館)(兵庫県神戸市・国指定重要文化財)

――名建築で昼食したくなった貴方に。設楽貞雄設計の近代建築も感動的だけど日本庭園の紅葉の奥には懸造の姿…!

ここも建築の印象が強い場所になりますが(洋館が国指定重要文化財)、洋館の奥にある庭園も神戸市指定名勝の文化財庭園。そしてその庭園奥にある縣造りの和館の姿が素晴らしい~。

関西に住み始めて2年。京都ももちろん満喫しているけど、 近代の有力者の邸宅 #阪神間モダニズム  の建物・庭園のスケール感はほんとうに素晴らしい。

それが案外雑誌やなんかで辿り着けなかったのは、結局有力雑誌の編集部が東京が拠点だからなんだろうな~と。
京都本しか売れない⇒京都本出る⇒京都のことは広まる⇒だからまた京都本は出るけど。

⑧平家庭園(石川県志賀町・石川県指定名勝)

―― #棟方志功 も好んだ“平家の落人”の屋敷に残る庭園は、作庭者に修学院離宮の庭師 #広瀬万次郎 の名も。石川県指定名勝。

2020年秋に6年半ぶりに訪れた能登半島。『時国氏庭園』『上時国氏庭園』という二つの国指定名勝を再訪したかったのに加え、すごく気に入ったのがここ。
広い庭園ではない(鑑賞式庭園)だけど、お屋敷の雰囲気と庭園のマッチングが素晴らしい。

で、ここで名前が出てきた庭師・広瀬万次郎
2019年に訪れた新潟の豪農の庭園『椿寿荘庭園』の作庭者でもあるこの人、新潟(の郊外)と石川(の郊外)で、歴史上は有名ではない同一の庭師の名が登場するのってすごく面白い!し、この広瀬万次郎は京都の宮廷庭園『修学院離宮』の出入り庭師だったという情報をこの地で得られたのも行脚冥利に尽きる。

でも案外京都の史料には名前が残っていなかったりするんだろうなあ~。京都にとっては大勢の中の一人、だけど地方にとっては都の一流の人。

⑨丹巌洞(福井県福井市・国登録有形文化財)

―― #松平春嶽 や #橋本左内 も訪れた福井藩医別荘を起源とする料亭の、一面苔むした緑が美しい庭園。国登録有形文化財。

京都の菊水や名古屋の八勝館を訪れて感じて「めちゃめちゃ素晴らしいじゃん」と思い知った“料亭旅館の庭園”。ブラタモリでも取り上げられたことがある場所だそうなので知っている人は知っているであろう料亭、2020年の「最も訪れたかった場所」を挙げるならばこの丹巌洞も含まれます。幽玄!

⑩神宮寺庭園(兵庫県あわじ市・兵庫県指定名勝)

――“国生み神話の島”淡路島の離島・沼島の #梶原景時 の菩提寺に残る独創的な石組の枯山水庭園。兵庫県指定名勝。

2020年のこの“名選”の中には #重森三玲 #中根金作 #小川治兵衛 …といったよく知られる“名作庭家”のものは無かったりする(行ってはいる)。

それは自分の興味がどんどん“知らないジャンル”に注がれていくからで、今は“重森三玲以上の石庭”を知りたいという欲求が強い。
この庭園はそれに相応しい、独創性あふれた石庭!

…ただ、初期の重森三玲は作庭家ではなく日本中の庭園を測量した研究家だった。こういう僻地の独創的な庭園にもきっと出会っていて、そこから独特の作風が生まれていったんじゃないかな~とも思う。それが↓にも言える。

⑪菅田庵(島根県松江市・国指定名勝)

――後の京都の名作庭家にも影響を与えた?大名茶人 #松平不昧 公自らが設計・作庭した茶室と庭園。国指定名勝。

“重森三玲の独特の露地”と思っていた作風にクリソツなのがこの国指定名勝の庭園。
長年の修復から2020年に公開がはじまったばかり、ここは“庭園目当て”でいったら物足りなさを感じるかもしれないけど、 #茶室 #数寄屋建築 への興味が高まる中で訪れたのがタイミング的にも良かった。

お茶をやっている人には“松平不昧”の名前は有名なのだと思う(松平不昧の名のつく美術展も時々やっているし)。一方で、あまり庭園本の中で見ることは少ないような気もする。

京都・大徳寺の『孤篷庵』が絶賛こそされ、小堀遠州マニアだった松平不昧が再興したから現在に残っているということは“松平不昧に寄り添った側の”レビューを読まないと語られていなかったり。

松平不昧がもっと評価されてもいいのではないか、と感じたのが2020年秋の島根遠征で――選びたい庭園は一ヵ所におさまらない!

⑫出雲文化伝承館(旧江角邸)庭園(島根県出雲市・出雲市指定文化財)

――3つの異なる庭園が体感できる出雲の庭園文化の象徴的施設。島根を代表する豪農の明治時代の屋敷と出雲流庭園。

⑬独楽庵庭園“三関三露”(島根県出雲市)中村昌生設計

――大名茶人・松平不昧が江戸に築いた大名茶苑“大崎園”でこよなく愛した千利休ゆかりの茶室と自ら考案した露地庭。

12〜13と同施設内にある2つの庭園。 #出雲大社 へ旅行に訪れた人向けの休憩施設的な立ち位置の無料の観光施設なんだけど、そんな観光施設にこのクオリティのお屋敷・庭園・茶室が凝縮されてるのってマジですごい!

“出雲流庭園”についてはまた別途記事を書きたいなあと思ってます(と、訪れた11月に思ってもう8月なんですけどね…!)。

⑭旧松本家住宅(福岡県北九州市・国指定重要文化財)

――近代日本の代表的建築家・辰野金吾の洋館と共に残る、数寄屋風書院造りの炭鉱王の邸宅。国指定重要文化財。

そして最後に12月に訪れて感動した場所。これも庭園じゃなく建築強めだけど、いずれも国指定重要文化財の洋館・和館のそれぞれに日本庭園があります。

阪神間モダニズムに感動した流れと、九州で近代の炭鉱王の庭園に感動するのは気持ち的には近くて、庭園ファン・庭園業界(?)の中では決して知名度は高くないであろう『旧蔵内氏庭園』(5年ぶりに訪れた)を“名庭園10選”に追加したのもそれ。ほんとすごいから。

振り返り:2020年の個人的な好みと行動の変化

今回の名選は、冒頭に書いた通り『近代和風建築(の庭園)が強い』。旅館、料亭、個人邸…ここでは選外にしましたが、京都の『ゲストハウス鯉屋』や神戸・舞子の『旧木下家住宅』がすごく印象的だった場所です。

そして行動の変化。先にも書いたけど“庭園のある宿泊施設やレストラン・料亭を利用するようになったこと”です。
2020年、そして今現在は各地にある“庭園のある宿泊施設、レストラン、料亭”の存亡の危機だった。実際に東京でも大阪でも京都でも、閉業や売却が相次いでいる…。

今では『おにわさん』を情報源として見てくれている方も多い、半ばプロみたいな目線で見てくれている人も居るかもしれないけど、自分は専門家ではなく“庭園ファン”。ファンとして好きなものにちゃんとお金を落としてこそ。

だから商業施設に対して「取材で無料で見せてください」というのは一切なく、全て自費で利用して見たもの(*その上で、使用されていない部屋を許可の上見させていただいたりはしています)。
自分の場合は、庭園で得たお金が別の趣味に注ぎ込まれている、とかではない(庭園以外の趣味を断ってるとかではなく、地方の庭園を巡りに出かけるきっかけが第一の趣味:サッカーやライブなのは変わっていないけど。笑)。

「こんな庭園があるのなら、京都へ行く時のランチは少し奮発しよう」みたいな人が一人でも増えたら嬉しい。(だから自分の友人や知人が京都の『THE SODOH』や神戸の『LE UN』を訪れたよ、と言ってくれたのは嬉しかったり。知るというきっかけって大事だよね)

『おにわさん』は「京都以外にも、日本各地に素敵な庭園がある」それを知ってもらうためのツールになりたい

↑これは何度も書いている(?)ことだけど改めて綴る。

庭園というものに対し、やはり中には「京都だから」高い評価をつける人、「京都じゃないから」低い評価をしてしまう人って居ると思っている。

(それぐらい「京都」のパワーはすごい。それは歴史で培われてきているものなので、別に京都側が悪いわけではない。実際、京都の景観を守る取り組みは別格)

でもそこに抗っていきたい。庭園は色んな見方があると思うけど(芸術性・歴史性・植物主体などなど)、アート性のあるものとして見ている以上はやっぱ「京都であるかどうかで良し悪しの判断をされるコンテンツ/プロダクトであってほしくない」と思います。

だから、一見“渋い日本庭園というテーマ”をInstagramを主体に発信し始めたのは、“情報”よりも“ビジュアル”を主体で伝えられたら、『京都か、そうじゃないか』という評価軸と別のところで“良さ”を伝えられると思ったから。

とか言って、やはり京都の庭園はビジュアルでも強いのだけど(笑)

お陰さまで、まもなく2万7000人フォロワー、月間で約40万ユーザーにリーチする『おにわさん』のInstagramでは、京都ではない、あまり知られていない庭園でもランキング上位に達することは珍しくなくなっている。 (でもこれは自分の審美眼が正しいというより、“みんなが良いと思うものが知られていない”ということを可視化できているんじゃないか、という)

色々思っていることは尽きない。noteの更新頻度低いけど、もう少し更新していきたいな。以上です!

[おにわさんーお庭をゆるく愛でる庭園情報メディア]( https://oniwa.garden/ )の中の人が、庭園について思うことなどを綴ります。 サイトでは日本全国約1400の庭園と2万枚以上の庭園写真を掲載!