月を両手で捕まえて動けずにいる ¥100

自作の自由律俳句を表題に短編を書く。
三作目。約2500字。

「月を両手で捕まえて動けずにいる」


世界の色彩が変わってしまって、もう二度と元に戻らない。

二十歳の冬、自分の存在価値の全てだったのものを失い、絶望したあげくに自分を殺しそこなった。そこから私の世界は、視界に常に薄い膜が張っているような、ぼんやりと色褪せたものに変容してしまった。

自分を殺し直す気力もなくした私は、人生をきちんと諦めることに決めた。日雇いの派遣の仕事で最低限の生活費を確保し、仕事以外の時間のほとんどを読書に費やした。単純作業の合間に物語を挟み、体感時間の流れを捻じ曲げて耐え難い日常をやり過ごす。現実世界の感情は物語の中で変換し閉じ込める。これが今の私の生活の全てだ。

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