見出し画像

人生で初めてストリップ劇場に行ったら、全ての女性器を好きになれた話

突然ですが皆さんは女性器が好きですか?
私はあまり好きではなかった。
ついこの前、四国最後のストリップ劇場で他人のナマの女性器に直面するまでは。


11月17日

道後クリエイティブステイ」に参加するため道後温泉に到着。

道後と言えば四国最後のストリップ劇場がある。その名も「ニュー道後ミュージック」。


最初その名前を聞いた時はミュージックバーか何かかと思ったが、昼はうどん屋、夜はストリップ劇場という珍妙な営業形態をしているらしい。
私はストリップを見たことがない。なんとなくジメジメしていて後ろ暗いイメージがあったし、男性の性欲ムンムンの空間に女が座ってるなんて、いかにも居心地が悪そう、と思っていた。けど、ここは温泉街でアートの街。なんだか面白そう。ということで迷わず行ってみることに。

20時40分の回に入る。17時半より1日4ステージ営業、女性客もけっこう来るという。一回券で4000円。高いのか安いのか、まだわからない。

開演前の客席は暗かった。中央には花道があり、円形のステージを囲むように客がポツポツと座っている。全部で6人。少なっ。皆ちょっとよそよそしく、顔を背けている。
微妙な空気の中、私は気になる人物を見つけた。
入り口付近、ステージからもっとも遠い席では地味な服を着たおじさんが”荷造りテープ”を割いていた。引っ越しで使うあの”荷造りテープ”である。他のお客さんのように、これから始まるステージに期待を寄せている風でもなく、淡々と作業に没頭している。
あれ、一体なんだろ?おじさんは店のスタッフなんだろうか?

突如、館内放送が始まった。

「おどり子さんの服や肌には絶対に触れないでください、また、興奮なさっても、お隣のお客様のお手や足、お尻などには絶対に触れませぬようお願いいたします」

……なるほど、こうやって注意をしてくれるから、女性客も一人で来られるんだな。

急に館内が暗くなり、ステージ上のミラーボールがものすごい輝度で光を放ち始めた。一人目のお姉さんが颯爽と舞台に立つ。

おお、ついに始まる!

お姉さんはNYのブロードウェイ風のロングドレスをしっかり着込んでいる。私はストリップのお姉さんって、最初からセクシーなカッコで出てくるものとばかり思っていたから面食らった。

こんなにたくさん服を着込んでいるのに、一体いつ脱ぐんだろう?

お姉さんは明るい音楽とともに、ミュージカルっぽい華やかなダンスを始めた。その動きのキレッキレぶりに驚かされる。ストリップの踊りって、おまけ程度なのかと勝手に思い込んでいたが、お姉さんのダンスは手拍子したくなるほどレベルが高い。引き気味に見ていた男性客も少しずつ手拍子を始めている。
一曲目はダンスに終始し、一枚も脱がずに終わった。

続いてすぐ2曲目に入る。

お姉さんは少しずつ、すこーしずつ、薄皮を剥ぐように衣装を脱いでゆく。気の持たせ方が絶妙だ。このまま、この曲も最後まで脱がないのかなと思うぐらいの速度だ。ゆっくりと舞台が回転を始めた。気持ちのボルテージはどんどん高まってゆく。とうとう胸と隠部だけを残してほぼ全裸になったが、まだまだ焦らされる。

本当にこんな綺麗なお姉さんが、胸やあそこを見せてくれるんだろうか。っていうか、見ていいの?まじで?え?本当に?こんな綺麗なお姉さんが?お金払ったら本当に見せてくれるの???
「お金を払えば女の人の裸が見られる」は男性にとっては日常かもしれないが、女の私にとっては非日常だ。銭湯では当たり前のようにごろごろ転がっている女体だが、「人に見せる客体」として目の前に差し出されるのは初めてだ。しかも、お姉さん自身がエロさよりも美しさの方を強調するような計算され尽くしたムーブをしているせいで、なんだか全く現実味がない。



さて、いよいよ上半身のベールが剥がされてゆく。

あ!

胸が見えた!!


お姉さんは引き締まった体をしていて、胸も小ぶりだったがとても綺麗だった。ストリップって、本当に裸、見せてもらえるんだ…とUMAを発見したような気持ちに。

その後もお姉さんの焦らしは続く。
チラチラと首にかけたロングスカーフをはためかせ、完全に体を見せないようにしながら優雅に踊るお姉さん。会場の(6人しかいないが)熱気がどんどん高まってゆくのがわかる。周りの男性陣をチラ見するも、暗くて表情がよく見えない。みんなどんな顔して見てるんだろう。っていうか、ぶっちゃけ勃起してんの?したまま見てるの?してるとしたらどうやって我慢してるの????脳内は大混乱である。

ついにお姉さんが下半身を露わした。回転する舞台の上、足をゆっくりと開き、中心部を、こちらに向かってうやうやしく掲げるように見せつける。


見えた!


……

…………

…………………

見えた!!!!!!!!!


最初の感想は「まんこ、ちっさ!」だった。

お姉さんの女性器は一眼でわかるほどちっさかった。
縦に長いビラビラ型ではなく、中心にぎゅっと具が詰まった円型だ。最初に思い浮かんだのは機関車トーマスの顔。

トーマスの人面瘡まんこを客席に見せつけながら、お姉さんはなんてことないって感じで軽やかに踊り続ける。しかも、全ての客に、見える時間と角度が均等になるように工夫をとり、しっかりとポーズを維持しながら踊っていた。これはちょっと、並大抵の努力ではできないなと思った。ダンスを一度でも習ったことのある人間なら、あのポーズを維持するのにどれだけ筋力がいるのかがよくわかる。少しもプルプルすることなく、裸体が、性器が、一番美しく見える角度を維持している。

すごい。

全身をくまなく客に見せたところで、曲が終わった。お姉さんはありがとうございました〜、という明るい挨拶を残して舞台裏に去っていった。これで終わりかと思ったら、アナウンスののちミラーボールが再びさんざめき、お姉さんが舞台に再び上がってきた。どうやら写真撮影タイムのようだ。私には関係ないかな……と思っていたところ、お姉さんは突然「お姉さん、どこから来たの?」と私に向かって話しかけてきて、とてもびっくりした。どうやら全ての客と絡んでゆくスタイルらしい。やっとのことで「東京からです」と答えたが、初めて女の子と会話した男子中学生のように心臓がバクバクした。20歳で一人旅で、人生経験のために来ました、と言っている学生さんもいた。20歳で、お姉さんがまんこを至近距離で見せてくれるってものすごい人生経験だろうなと思う。35歳の私にとってもそうなのだから。
ポラロイド撮影は1枚1000円。隣のソファに座る男性客は、慣れた感じでお姉さんと2ショット写真を撮っていた。このおじさんは香川からの追っかけらしい。お姉さんが話を振るごとに、段々と会場の客のパーソナリティが見え、場が和んで来た。ストリップって、こんなに客席とステージの距離が近いのか……。

ポラ撮影が終わると再びステージが暗転し、次のお姉さんの出番だ。

最初のお姉さんはキャバレー風のセクシーな見た目だったが、次の子は黒髪ぱっつんボブに、ロリっぽいベビードールを着ている。動きも曲も、アイドル風萌え路線だ。ストリップって、セクシー系だけじゃないんだ!と感心していると、2曲目がすぐに始まった。


「♪初めてのルーブルは〜、大したことなかったわ〜♫」


ちょっと待て。

これは……

この曲は……


シン・エヴァじゃないか!


宇多田ヒカルの歌声とともに、途端に頭の中で走馬灯のように再生されるシン・エヴァの各シーン。アスカのドアップが、シンジくんの咆哮が、ミサトの仁王立ちが、目の前のお姉さんの裸体とクロスオーバーする。脳内に情報が渋滞して大混乱だ。お姉さんのパフォーマンスも、シン・エヴァをイメージしたような切ない感じ。
最初のお姉さんのステージでは曲・衣装・演出の全てが揃っていたのに対し、こちらのお姉さんはロリ系の衣装とシン・エヴァのしっとりした世界観があまり合っておらずややちぐはぐな印象を受けたが、しかし、見えるか見えないかの絶妙な角度で隠部をチラつかせながら踊る姿はやはり美しかった。
こちらのお姉さんのまんこは、びらびらが左だけ大きく突出したややアシンメトリーまんこだった。最初のお姉さんと比べるとややふっくらして主張が強い。アイドル風衣装とシン・エヴァ、そしてデコラティブなまんこ、まるでキュビズムと印象派と現代アートが合体していっぺんにやってきたみたいな不調和さだが、それが却ってこのお姉さんが単なる鑑賞物ではなく生身の人間であること、その凸凹の手触りをこちらに向かって突きつけてくる。

このお姉さんも、ステージ後にはポラロイド撮影とトークタイムがあり、いよいよトリのステージへ。

最後のお姉さんは、他の2人に比べるとやや年上だったが、流石の芸歴の長さ、演出も踊りもワンランク上だった。
和服で和傘を振り回し、曲調も和風と、完成された世界観に、レベルの高い身のこなし。曲調はしっとりしているが、どのステージよりもお客さんが盛り上がっているのが伝わってくる。
盛り上がりが最高潮に達する直前だった。
それまで入り口に一番近い席で荷造り用のテープを割いていた男の人が急に舞台脇に近づくと、さっとステージのお姉さんに向かって、手に握っていたテープの束を投げた。

まるで粉吹雪のように……。

あれって、このためだったんだ!!!!!!
演技を決して邪魔せず、それでいてお姉さんが一番美しく見え、ステージが盛り上がるよう計算された緻密な「投げ」はまさに熟練の技。彼がこれまでの人生においてこのために賭した膨大な時間の量を一瞬に凝縮したような見事な動きで、思わず目頭が熱くなった。後のトークで判明したが、この男の人はスタッフでもなんでもなく、このお姉さんのファンで、前日の京都のステージから追っかけてきたらしい。

色々な人生があるが、何か一つでも夢中になれるものがあるって素晴らしいな……としみじみ思った。

もう3人目になると、流石にまんこにも慣れてくる。こちらのお姉さんは縦長の、びらびらの短いまんこで、なんとなく味噌汁椀の底に残った「しじみ」を思わせる奥ゆかしさがあった。

なごやかなムードで1時間半の公演は終了し、私はふらふらと夢を見たような気分でニュー道後ミュージックを後にした。

風は冷たく、綺麗な満月が建物の向こうに浮かんでいた。

月を見見上げながら、私の脳裏にはさっきまでに見た数々の女性器が浮かんでいた。

小さいまんこ。デコラティブなまんこ。しじみのような風情のまんこ。

私は思った。

全てのまんこって、美しくない…?

お姉さんたちの陰部は、どれもとても美しく見えた。滑らかな白い太ももから、だんだん畝と色付きが深く、濃くなり、中央で頂点を迎える様が、とても美しかった。形状は関係なかった。ただまんこがそこにある、その事実だけでとても美しいと感じた。

私は今まで自分の、いや全ての女性器に対して良いイメージを持っていなかった。いや、むしろ好きじゃなかった。

これを読んでいる男性のために説明すると、女性器の形というのは多くの女性にとって非常にセンシティブなトピックなのである。
ティーンの頃から「ピンク色がいい」とか「びらびらが小さい方がいい」とか、メディアによって勝手な理想像を押し付けられ、しかしおおっぴらに語ることを許されないがために「私のって色がグロいかも」とか「びらびらが大きいかも」とか、あらゆる角度からコンプレックスを抱きやすい。思いあまって整形外科手術まで受ける女性までいる。

私自身、高校生の頃に購読していたティーン誌に読者からの「私のまんこって変でしょうか?」というお悩み相談が載っており、それに対し男性編集者が「まんこは焼きすぎたローストビーフの色でOKです!」とアドバイスをしているのを読んで「ローストビーフでいいんだ…!」とホッとし、しかしそれを以ってしても次の瞬間には「私の、ローストビーフっていうより腐った刺身の色なんだけど…?」と揺り戻され、一方で雑誌の末尾には「女性器をピンク色にするローション」の広告が載ってたりして、その矛盾に大変に混乱した。

思えば私は傷ついていたのだ。自分の体の一部が(さして見える場所でもないのに)「美しい」とか「美しくない」とかジャッジされる世間の風潮に。
女性であるにも関わらず、自身の性器から自身が引き離され、語ることすら許されず、まるで別の誰かのためのものであるかのように扱わなければいけないことに。

しかし、今日見た全てのまんこはどれも美しかった。
個性的で、主張があり、愉快だった。
どれもが一人一人のお姉さんに似合っていて、その人固有のものという感じがした。
性器に限らず、また老若男女限らず、自分に似合わない”からだ”というのは、存在しないのではないか?と思った。

私のまんこもそうであろう。多少の形の差異など大したことないし、自分の身体についている時点で、きっと私に似合っている。


話は逸れるが、「セックス・エデュケーション」というNETFLIXのドラマがある。
その中に、エイミーという登場人物が自分の女性器の形状が醜いのではないかと悩むエピソードがある。彼女はカウンセラーに相談したのちに「All vulvas are beautifl(すべての女性器は美しい)」というサイトに載っている女性器を見て「どれも美しい!」と啓発され、大陰唇ケーキを作って学校で販売し始める。


なかなか良い話で、私もこれを見て「そうだよね」と納得はしていたのだが、しかし頭でそう思うのと、間近に実物のまんこを見てそう感じるのとではリアリティと納得度が桁違いだった。

私の汚された女性観が、お姉さんたちの躍動する肉体を持ってもみくちゃにされ、洗い直され、お姉さんの産道から再びこの世に生み出されたような、生まれ変わりにも似た清々しい体験だった。

私は現在妊娠8ヶ月なのだが、将来娘が生まれ、もし自分の体にコンプレックスを感じていたら、きっとストリップに連れてきて「ごらん、どのまんこも美しいのよ!」と教えたいと思った。
(ちなみにステージを見ている間中、これまでにないほど激しい胎動を感じたので、娘もきっと興奮していたに違いない)

お姉さんたちのステージは、演出の差はあれどどれも明るく(性的ではあるけれども)卑屈ないやらしさや、後ろ暗いところのないエンターテイメントで、私はとても励まされ、まるで温泉に入った後のようなポカポカした気持ちになった。
まさに「道後クリエイティブステイ」である。道後の地には他にも大竹伸朗さんの壁画や、築100年以上の道後温泉本館の建築など、見どころはたくさんあったが、私にとってはニュー道後ミュージックがこの旅で得た一番のクリエイティブな出来事であり、アハ体験であり、ニアリーサードインパクトでありネオンジェネシスであった。
これこそが旅の醍醐味であり恩恵であろう。

ありがとう、道後温泉。
ありがとう、道後クリエイティブステイ。
ありがとう、ニュー道後ミュージック。


全ての女性器に、ありがとう。


(ちなみにこの記事はクリエイティブステイ事務局から頼まれたのでもなんでもなく、私が勝手に書いているのであってPR料などは一切もらっておりません。どうしてもニュー道後ミュージックの素晴らしさを伝えたくてしたためたものですので、行政や事務局への苦情はご遠慮ください。)

ありがとうございます。