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死んだお袋と最後に飯を食べた不味い店が潰れた

味覚は人それぞれですので、口に合わない店があったとしても、よほどのことがない限り、否定や批判はしないのですが・・・

この、お袋と最後に食事をした店だけは、特別な想いもあったので、ちょっと恨みを抱いていました。

膵臓癌で入院手術する前日、お袋を元気づけようと、うちの家族と一緒に、お袋が大好きな焼き肉を食べに行きました。

本当は美味しい焼肉屋があるので、そこに行こうと思ったんですが予約できないくらいの混雑ぶり。

そこで、私が子供の頃からお袋とよく食べに行っていた焼肉屋・・・は今はもう移転してしまって別な焼肉屋が最近オープンしてたんで、試しにそこに行ってみよう!ということになって行ってみたんですが、この店がひどかった・・・

冷凍肉なのは問題ないんですが、何度も解凍しては冷凍したような旨味の汁が抜けて、ちょっと冷凍庫臭さの残る肉に、匂いをごまかすためにやたら濃いタレや塩コショウで味付けした肉。

まあ、肉の品質が悪くても文句は言わないタチですが、そこに更に塩っぱすぎる醤油ダレや、辛いほどにかけられた胡椒。何を食べても家族全員が「不味い」と頷いて食べるレベル。

だけど、店は混んでるんですよ。

なぜかというと、この店がオープンする前にあった焼肉屋が、神か!?っていうくらい美味しくて、昔、お袋が大好きな上ミノをたらふく食べていた焼肉屋だったんですよね。
しかも、この周辺はシャッター街になってしまっていて、他に食べ物屋もなくなり、近所の人から見たら期待をせずにはいられない。

だから、不味くても混んでるんだろうなと思いました。

しかし、お袋と一緒に食べた食事が、まさかこの不味い焼肉屋が最後になろうとは・・・

お袋が死んでから、ずっと後悔してたんですよね。

もっと美味い焼肉屋に行って、大好きな上ミノ、腹一杯に食べさせてやりたかった・・・

だから、この焼肉屋に対しては、ちょっと逆恨みともいえる感情を抱いていて、「早く潰れろ」と、滅多に食べ物屋に対しては思わない感情に支配されていました。

その後・・・

この焼肉屋は潰れるどころか、店が混んで繁盛しているのを、うちの店は凄い!と勘違いしたようで、シャッター街から抜けて、もっと栄えている街に店を移転させました。

そして、今日、たまたまその焼肉屋の前を通りかかったら「テナント募集」の貼り紙が。

潰れろ、と思っていた店が潰れたんですから、嬉しい・・・と思ったんですが、悲しくなりました。

お袋と最後に一緒に食べた店が無くなったことのほうが、ツライんですよね。

恨んでも
憎んでも
消えてしまえば
ただの泡

寂しさや
悲しさが
残るだけ

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