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未熟で傲慢な自分と向き合えますか?…『サイゴン・クチュール』#映画感想文

ベトナム映画祭のラインナップに載っていて、ウォッチリストに入れておいた作品。あらすじから、タイムスリップものの王道かな?ということで、このところ重ため作品を続けて観ていたのでカラっとしたものが見たくて今回はこちらです。アマプラ会員は投稿時点では多分無料なはず。。。

1969年、サイゴン。老舗のアオザイ仕立て屋の娘ニュイは、おしゃれは大好きだけど、アオザイなんて古臭い、とアオザイと母親の仕事を毛嫌いする駆け出し洋装デザイナー。3年連続で「ミス・サイゴン賞」を取ってすっかり天狗になっている。アオザイを馬鹿にしている割に、母のアオザイ店の弟子を自分の用事で使う傲慢ぶり。母親は、後を継ぐならアオザイの仕立て方、基礎を学ぶよう求めるが、ニュイは聞く耳を持たず、逆に母親に食ってかかる。反抗がピークに達したある日、ニュイが母の仕立てたアオザイに袖を通して店の鏡に自分の姿を映すと、強い光が発して鏡のなかに吸い込まれてしまう。気がつくと、ニュイが放り出されたのは自分の家。でもそこは2017年のホーチミンだった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

で、タイムスリップした未来で「未来の自分」とご対面。オバサンになった自分はすっかり落ちぶれて酒びたり。一方、母親の弟子はアオザイ店を出して成功し、その娘ヘレンもデザイナーとして大成功しているじゃないのよ!オーララまあ大変!しかもあろうことか「未来の自分」が住んでいる家はヘレンの会社からお金を出してもらって維持しているという体たらく。このままにしておくものか、と一発逆転を狙うニュイは、ヘレンの顧客を奪ってチャンスを掴もうと彼女の会社で働き始めるが……。

あらすじ(自作)

ストーリーに関してはもう「安心してください!穿いてますよ!」と言いたくなるほどの王道ストーリー。始めは「とにかくお金と名声」欲しさで行動するニュイですが、母を知る人たちから聞いた母親の人生や思いに触れて考えが変わります。
冒頭のニュイの傲慢さ、わがままっぷりは、まあこれ映画作り話だから……というのはありますが、それでも若さゆえの万能感というか、自分も思い出すとなぜあんなに自己中だったのだろうと黒歴史に頭を抱える気分に……。しかし今は中二病という言葉もすっかり知られ、中学生が中二病にもなれやしないというか、それはそれで八方塞がりな時代という気もしますね。「30歳成人説」もありますし、まあ私自身今も精神年齢はあまり成長してないわけですが、人はつい自分が正しいと思うことについては貫き通しがちです。(と主語を大きくしてごまかしてみる……。)伝統や既存のシステムに敬意を払いながら、自分の道を行く。否定しないで新しくする。をやれたらいいんですけれども、正直、めちゃくちゃ難しい。それこそ日本なんて(以下略)
ま、少なくともほんの少し、ちょびっとは成長したと思いたいところです。

そしてこの映画の何がいいって、わがまま娘の成長物語サクセスストーリーであると同時に、未来の自分である「おばさんニュイ」もまた自分の過ちを認めて、再出発する物語でもあるんですよね。この二重の構造が面白い。よく考えたら、この二人は同一人物ですし!

60年代のファッションやメイク、アクセサリーはサイケでポップな色柄の洪水で、それはもう綺麗です。69年にはクレオパトラみたいなメイクだったニュイが2017年にはナチュラルめな今風?のメイクになっているのも、時代の変化を受け入れる速さがすごい。(メイクやファッションのことはよくわかってないので、ファッション用語とか間違えていてもご勘弁を……)

アオザイって小枝のような若い女性にしか着れないものかと思ったら、未来のおばさんニュイや老境になったお弟子さんが着ていたアオザイ、とっても素敵でした。ああいうのなら私でも着れるかも、なんて思ったりして……。(ちなみに舞台となるホーチミン、ベトナム南部ではアオザイの発音は「アオヤーイ」みたいですね。)
あとチョロイ日本人なので、「おしん」やドラえもんが出てくるだけで、ちょっとうれしくなります。「未来のニュイ」に、ちょっと大山のぶ代さんを思い出してじんわりしちゃいました。

心を入れ替えたニュイ、過去に戻ってから言動も変わったので、元の未来は変わってしまったのか、それともパラレルワールドになったのか。そういうこともあまり気にならない、王道ストーリーを楽しめる作品です。

そうそう、ファッションのデザインやコーデだけでなく、裁縫の場面も頻繁に出てくるので、『ソーイング・ビー』シリーズが好きな人にもいいかもしれません。


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