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『おらおらでひとりいぐも』監督:沖田修一×編集:佐藤崇×俳優:黒田大輔スペシャル鼎談【プロフェッショナルストーリーズ Vol.10】

映画『おらおらでひとりいぐも』を題材に、それぞれのプロフェッショナルたちを深堀する連載企画が展開中。

第10回のゲストは、沖田修一監督、編集:佐藤崇さん、俳優:黒田大輔さんの3人。沖田組の常連メンバーでもあるふたりとの爆笑トークを収録した映像から、書き起こしにてお届けします!

なお、アスミック・エースのYouTubeチャンネルでも、お三方の鼎談の模様を公開中! こちらとは一味違ったトークもありますので、合わせてお楽しみください。

(構成:SYO)

「どうやって映画化するの?」と困惑した

沖田:何を話そうか考えてきたんだけど、ふたりとの長い付き合いの中で『おらおらでひとりいぐも』で、特に変わったことって何かあったかな。

黒田:でも、シナリオを読んだときに、滅茶苦茶面白かったけど、いままでで一番「どうやって映画化すんの!?」とは思った。

佐藤:たしかに。イメージがわかなかったですよね。こんなに素材がない歯抜け状態で、編集しないといけなかったのは初めてかもしれない。

沖田:特にシーン1が大変で、桃子さん(田中裕子)の脳内イメージに近づけるために宇宙の図鑑を借りてきたんだけど、「宇宙の始まりはアルファベットのiの点部分だった」みたいに書いてあって……。だから、冒頭に小さな点を入れたんです。映画館で、「あれ、スクリーン間違っちゃったかな?」ってなるような始まりにしたかったんだよね(笑)。

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笑えるのに泣けるのが沖田作品の特徴

沖田:せっかくなので、黒田くんの出演シーンの話をしましょうか。あそこは、佐藤くんが「切りたくない」って言ったんですよ。

佐藤:シーンとしては結構長いから、縮めようかという話も出たんですが、僕が「いやだ」って言ったんです。編集するたびにあそこで泣いちゃって……。桃子さんがすごく笑顔で、あれがいいんですよ。「お願い」の一言が、沁みるんです。

沖田:結局、最初につないだやつから黒田くんのカットは1個も削ってないもんね。息子の代わりってことで考えたら、すごく切ないシーンなんだと思って、「そうか俺は切ないシーンを書いていたんだ」って後から気づいた。

佐藤:沖田さんの作品って結構そういうところがあって、笑えるシーンなのにちょっと切ないとか悲しい感情がわいてくるんですよね。

沖田:笑えるシーンで泣けるのは、俺の調子がいいときなんだよ(笑)。演じるほうとしてはどう?

黒田:演じる側としては、あんまり考えないようにしてる。一回意識に入っちゃうと説明になっちゃうから、あざとくなっちゃうんだよね。

あのシーンで覚えているのは、段取りのときかな? 一回桃子さんがすごく怖いときがあって、後から考えると、その場にいない息子に対する怒りが出ちゃってたんだなと思う。

沖田:あったね。あとから佐藤くんと編集してるときに、田中裕子さんがやろうとしていたことに気付いてドキッとした。

田中さんと黒田くんのシーンはすごく覚えていて、桃子さんの顔がほころぶシーンを観たときに「こんなに俳優のいい顔を撮れたの初めてじゃないの?」って思ったもん。

もちろん普通だったら間(ま)を詰めちゃうようなちょっと長いシーンではあるんだけど、映画館で観るテンポ、長さってあるよね。

黒田:この映画は、映画館で観てほしいなぁ……。はじめは母親に観てほしいなと思っていたんだけど、姪っ子とか姉にも観てほしい……全員に観てもらったら楽しい、ってだんだん思うようになってきたんだよね。

佐藤:疎遠になっちゃっている人に電話したくなるような映画ですよね。

沖田:いいこと言うなぁ(笑)。僕たちくらいの年齢の人にとっての母親を描いた映画だから、必然的に思い出す部分はあるよね。そういう年代の人が見たほうが共感できるのかな? 桃子さんと同じ75歳くらいの人が観たら、ポカンとしちゃうかな。

黒田:たしかに(笑)。でも、たとえそうだとしても、ただ「観てほしいな」と思ったんだよね。

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3人それぞれの、いま現在の仕事の取り組み方

沖田:40歳を超えて、仕事のモチベーションとか、取り組み方って変わってきた? 俺は全然わからなくて(笑)。

黒田:昔はなんにも考えずにやってたけど、いまは「自分はこの作品の中で、こういう役割なんだな」とわかっちゃうようにはなったね。ただ、演じるうえでは助けてくれることもあるけど邪魔にもなるとは思う。何にもわかんないままやってたほうが面白い演技をできる部分はあるだろうし、でももうあの頃には戻れないよね。

沖田:まさに、無知の知だね。

佐藤:すごくわかります。僕も昔は引き出しがなかったから、編集でも「いやだ切りたくない」の一点張りだったこともあるし。

沖田:あったね(笑)。でも、そうした若さゆえの冒険心は忘れないでいたいよね。

黒田:それこそ、『おらおらでひとりいぐも』の中のさとり先生は衝撃だったよ。シナリオを読んでいるときは、山崎努さんのような方をイメージしてたら、子どもになってた(笑)。

沖田:最初は、仙人を演じるのに違和感がない年齢層の方を探していたんだけど、子役のオーディションのときにハッと思いついてさとり先生のセリフを読んでもらったら、ものすごく面白くて。自覚がない子が悟ったようなセリフを言うからだろうね。

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黒田:沖田くんはどうなの? 映画監督として、周りへの接し方とか何か変わった?

沖田:俺も強い性格じゃないから気を遣っちゃって、そのせいでうまくいかなくなることがあったから、そうならないようにとは気を付けてるかな。体力も落ちてきたから(笑)、頭と体の使い方が変わってきた。

黒田:そっか、なるほどね。俺も集中力が落ちてきて、これはモチベーションの問題なんじゃないかとか悩んでたんだけど、単純に体力の問題なのかもしれない……(笑)。

無駄な部分にこそ、沖田作品の面白さがある?

黒田:『おらおらでひとりいぐも』の中で、桃子さんが病院からの帰り道に車を眺めるシーンがあって、何気ないシーンなのに「ずっと観ていたいな」と思ったんだよね。どこまでが意図的で、どこまでが自然なのかはわからないけど、そう感じた。

沖田:俺は俳優がやってることは基本使う、というのがあるかもしれない。

黒田:進行上無駄なシーンであっても、結果的に観た人がそこを面白いと思うこともあるもんね。

佐藤:沖田さんの作品は、そういう部分が多いですよね。物語の幹じゃなく、枝葉の部分が重要なことがあるから、編集する側としては結構難しいんですよ。

沖田:特にこの映画はそうかもしれないね。桃子さんの行動範囲は狭くて、病院や墓参りくらいしか外に出ないから、ストーリーの幹がつかみづらくはある。物語を作るだけだったら、テンポよく編集すればいいですもんね。

黒田:でもそれだけだったら、AIにもできちゃうかもしれない。

沖田:そうだね。必要のないところに、意味を見出してるのかもしれない。今更まじめな話になっちゃった(笑)。


監督・脚本:沖田修一
1977年、埼玉県生まれ。01年、日本大学芸術学部映画学科卒業。短編自主製作映画数本を経て、02年、『鍋と友達』で第7回水戸短編映像祭グランプリ受賞。06年、初の長編『このすばらしきせかい』発表。08年、「後楽園の母」をはじめとする数編のTVドラマで脚本や演出を手がける。09年、『南極料理人』で商業映画デビュー。同作は全国公開され、09年度新藤兼人賞・金賞、第29回藤本賞・新人賞、第1回日本シアタースタッフ映画祭・作品賞2位、監督賞などを受賞。12年公開の『キツツキと雨』はドバイ国際映画祭では日本映画として初めて三冠受賞を達成、13年2月公開の吉田修一原作『横道世之介』では、第56回ブルーリボン賞最優秀作品賞、第5回TAMA映画賞最優秀作品賞はじめ日本の映画賞を総ナメにし、パリのKINOTAYO映画祭でもソレイユ・ドール観客賞(=グランプリ)を受賞するなど、国内外で高い評価を得た。18年5月公開『モリのいる場所』でも第10回TAMA映画賞特別賞、第40回ヨコハマ映画賞脚本賞など日本の映画賞を多数受賞し、日本映画界の次代を担う作家として期待されている。公開待機作には上白石萌歌主演『子供はわかってあげない』(近日公開)がある。

編集:佐藤崇
1976年生まれ、千葉県出身。『キツツキと雨』(12/沖田修一監督)で、第8回ドバイ国際映画祭ムハ・アジアアフリカ長編部門最優秀編集賞を受賞。主な作品に『苦役列車』(12/山下敦弘監督)、『もらとりあむタマ子』(13/山下敦弘監督)、『紙の月』(14/吉田大八監
督)、『聖の青春』(16/森義隆監督)、『ギャングース』(18/入江悠監督)、『愛がなんだ』(19/今泉力哉監督)、『さよならくちびる』(19/塩田明彦監督)、『風の電話』(20/諏訪敦彦監督)など。『南極料理人』(09)以降、『横道世之介』(13)、『モリのいる場所』(18)、『子供はわかってあげない』(21)など多くの沖田作品を手掛ける。

出演:黒田大輔
1977年生まれ、千葉県出身。『恋人たち』(18/橋口亮輔監督)にて、第30回高崎映画祭 最優秀助演男優賞を受賞。近年の映画出演作に、『ジオラマボーイ・パノラマガール』(20年11月6日公開)、『喜劇 愛妻物語』(20/足立伸監督)、『架空OL日記』(20/住田崇監督)、『AI崩壊』(20/入江悠監督)、『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(19/箱田優子監督)、『凪待ち』(19/白石和彌監督)などがある。沖田修一監督映画作品への出演は、本作が通算7作品目となる。

映画『おらおらでひとりいぐも』トークルーム「おめさん、どなた?」
https://www.youtube.com/watch?v=aQaLBVwQ3Ww

映画『おらおらでひとりいぐも』11月6日(金)公開
https://youtu.be/X92VPwm2VZ0

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