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ユーグロッシン オムニドリフト インタビュー(後編)

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はじめに

フロリダのマルチメディアアーティストTristan Whitehillによる音楽プロジェクトEuglossineのアルバム「Omnidrift Endearment」のリリースに際してインタビューをしました。インタビュアーは野老快南(Ogawa & Tokoro/Oriental Tapes)で、名古屋とフロリダ間でビデオインタビューの形式で行われたものを、後日書き起こしたものです。

フロリダのエレクトロニック・ミュージックシーンの話、今回のアルバムの制作について、さらに音楽の域を超えたデジタルアート作品について、お話を伺いました!

前回に引き続き後半になります!前回の記事はこちら。


■音楽以外のプロジェクトについて

野老快南(以下野老) : 音楽アプリケーションやヴィジュアルプログラムなど、音楽の域を出たクリエイティブなプロジェクトがたくさんありますよね。あなたの音楽の側面しか知らないリスナーに向けてそれらのプロジェクトが何なのか説明できますか?

Tristan Whitehill(以下Tristan) : その話題を持ち出してくれて嬉しいです。何人かのメンターの助けもあり、プログラミングの勉強を続けていて、グラフィックス系のアプリケーションを作る事に多くの刺激を受けています。例えば、オーディオをトリガーになにかが動いたりとかです。最近はそれとは別にツールを作る事にも興味があります。そのツールを誰かが使うわけではなく、私にとってはそれ自体が一種のアート形式であるようにも思います。プログラミングの過程で音楽はかなり重要な意味があります。ビジュアル系のプログラミングをしている時に音楽聞いてると、音楽を鑑賞しつつアートをつくる事ができます。これに限らず様々なアートに関連した習作や技法を試す事が好きです。違う媒体で自分のアートに取り組むと、相関性が強い部分もあり様々な脳の側面を運動させる事を楽しめます。



オーディオプログラミングについて

Tristan: 例えば今日やっていたプロジェクトはJUCEを使っていたのですが、JUCEは知っていますか?

野老: VSTを作る時に使うソフトウェアみたいなのですよね?聞いたことはありますが使ったことはありません。

Tristan: あなたもゲームやプログラムを作りますよね。JUCEを使ってみるといいと思います。すごい簡単な事をするのに2年くらいかかりるほど、とても難しいですが。

野老: 最近VSTを作ってみたいと思っていたのでどれくらい難しいのか気になっていました。

Tristan: 困ったときはいつでもコード送ってくれれば教えますよ。ずっとこの事ばかり考えていたので2年もかかっています。まず1から(※)C++を学ぶ必要がありました。

※C++ 様々なサービスやアプリケーションなどで広く使われているプログラミング言語。

Tristan: C++を学ぶ前に、JUCEを試みたのですが複雑すぎて断念しました。

野老: てっきりJUCEはより簡単にVSTを作れるようにするものだと思っていましたが、どうやらかなり難しそうですね。

Tristan: その考えは間違っていません!ただ、それをもってしても難しいです。結局ポインターなどは使うので最低でもC++ができないと難しいです。型付や複雑なスコープの違いなど学ぶ必要があります。(※)DSP処理に使うバッファを操作する事もあります。なので2年もかかっていましたが、今朝どういうことか、JUCEで何か作ろうと思い立ってキーボードに打ち込んでみたら、実際になにかできました。Pure Dataで作ったスケッチを、構造はそのままでそれをJUCEに実装する事ができました。具体的には、Wavefoldingシンセシスを実装する事ができました。

※DSP デジタル信号処理。コンピューターに音が入りエフェクトがついて出てくる処理の事。

野老: コードのみでのオーディオプログラミングはかなり難しそうですね、PuredataやMaxなどのビジュアルプログラミング言語系はもう少し簡単そうに思います。

Tristan: 確かに複雑です。ただ、僕はここにくるまで2年かかりましたが、それは入門者向けのリソースが少ない事も原因でしょう。基本的にプログラミングを最近始めた人向けではないです。もっと早く習得できる人もいますが、その人は恐らくもう既にプログラミングの経験が豊富な人でしょう。去年はDSPについてのハードウェアに近いレベルでやっている人たちの講義や講話を頻繁に見ていました。ひとついい動画があるので送ります。彼はもはやJUCEなどのフレームワークも使いません、直にC++でオーディオプログラミングをします。これらの1時間ほどある話を3回くらい見てからようやく理解できました。

野老: これは後で見てみます。今年中にとてもシンプルなディレイのVSTを作りたいという目標が実はあります。

Tristan: いいですね。それならまたおすすめの動画がありますよ。これはJUCEを使ったものです。

野老: では、オーディオプログラミングの入り口としてはJUCEから入るか、よりハードウェアに近い部分を勉強してからか、どちらがよいでしょうか?

Tristan: 私の場合はOpen Frameworksを使い始めてから、JUCEはより怖くなくなりました。



■グラフィック系のプログラミングについて

Tristan: Open frameworksはC++版の(※)Processingみたいな感じです。

※Processing Javaでグラフィックスのプログラムを作れるフレームワーク。

野老: 僕もOpen Frameworksはとても興味があります。

Tristan: Open Frameworksは最高です。そこから始めるのがおすすめです。Open Frameworksは楽しいし、実際に色々できると思います。当初C++の経験は少なかったですが、それでもOpen Frameworksでは少しの期間でなにかできるようになりました。最近はiphoneのアプリを作っていますが、それはOpen FrameworksがIOSアプリ向けにもコンパイルできるからでもあります。PuredataもOpen FrameworksもどちらもCにコンパイルするので、一緒にコンパイルできるのです。

野老: とても楽しそうですね!

Tristan: 最近はどうやってコンピューターから音が出てるのかっていう部分をよりディープに知りたくなったので勉強しています。とはいえとても複雑なのでまだまだ専門家になったとは言えませんが。


■自分は何?

野老: あなたの音楽の範疇を超えた活動に関連しますが、自分をどのようにラベル付けしますか?ミュージシャンですか?アーティストですか?

Tristan: そうですね。私は自分の事をアーティストと、そう周りに説明すると思います。音は、僕にとって「ストーリー」です。音や画像で「ストーリータイム(絵本や話の読み聞かせ)」をする事がアーティストである事だと思います。実は今また大学院に行って彫刻を勉強しようかと思っています。

野老: 彫刻というのはデジタルの3Dモデリングという事ですか?

Tristan: そうですね、もっと言うと美術館などのインスタレーション作品やマルチメディア作品などに彫刻で取り組むという感じです。まだ自分の人生でなにがしたいのかわかっていませんが、恐らくアーティストになりたいんだと思います。実際にお金にする事はとても難しい事であることはわかっています。



■最近好きなモノや事

野老: では最後の質問になります。最近見たり聞いたりしたシェアしたい音楽はありますか。

Tristan: 最近好きなレーベルはApron Recordsです。あとは、Federico DurandとSpace Heaterも気に入っています。

Tristan: Make Noiseという会社はわかりますか。

野老: なんとなく聞き覚えがあります。

Tristan: モジュラーシンセなどを作ったりしている会社です。

野老: 0-coastを作っている会社ですね。思い出しました。

Tristan: そうです。友人らがその会社で働いています。彼らはとても刺激を与えてくれています。ひとりはこのバンドでも活動していたり、もうひとりは去年閉鎖したTiny Mix Tapesで記事を書いたりしていました。Orange Milk Recordsやその立ち上げメンバーも元々Tiny Mix Tapeのライターだったんですよ。Foodmanは知っていますか?

野老: 知っています。彼は会ったことはありませんが、同じ名古屋の人です。

Tristan: Tiny Mix TapesがFoodmanを取り上げた事で知った人も多かったと思います。他にToiret Statusやemmamouseなども、僕はTiny Mix Tapesが彼らを取り上げていたのを見て知りました。そこから他の日本のアーティストなど知るようになりました。なのでTiny Mix Tapesがなくなってさみしいです。みんな世界に散らばっているけど、みんな近く繋がっているというのは面白いです。実際Foodmanはあなたのご近所さんで、私の親しい友達が彼の記事を書いたわけですから(笑)それはとても素晴らしい事だと思います。それがあるべき姿だと思います。

Tristan: デジタル、プログラミング関連の勉強は、2020の私にとても刺激を与えて、よりデジタルアートに対してより深い理解が得られたように思います。例えば今使ってるZoomもOpenGLを使っている可能性もありますし、それが私たちの通信手段のひとつとも言えますから。これからもハードウェアに近い部分はさほど変わらずにいて、その上にどんどんデジタルリアリティが構築されていくだけだと思います。それはとても大切で美しい事のように感じて、たくさんの刺激を受けています。

野老: そうなんですね。今回はインタビューありがとうございました。

Tristan: こちらこそありがとうございました。このような時間を設けていただきありがとうございました。



さいごに


以上で終わりです。いかがでしたでしょうか。

EuglossineのカセットはOriental Tapesのバンドキャンプ、もしくは国内の取り扱い店舗からご購入いただけます。

取り扱い店舗

・LOS APSON? 

・ON READING 

・TEMPO 

・オントエンリズムストア 

・カクバリズムオンラインストア

・大福レコード 

・Fastcut Records

デジタルは配信(準備中)とバンドキャンプから購入できます!


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