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ユーグロッシン オムニドリフト インタビュー(前編)


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はじめに

フロリダのマルチメディアアーティストTristan Whitehillによる音楽プロジェクトEuglossineのアルバム「Omnidrift Endearment」のリリースに際してインタビューをしました。インタビュアーは野老快南(Ogawa & Tokoro/Oriental Tapes)で、名古屋とフロリダ間でビデオインタビューの形式で行われたものを、後日書き起こしたものです。

フロリダのエレクトロニック・ミュージックシーンの話、今回のアルバムの制作について、さらに音楽の域を超えたデジタルアート作品について、お話を伺いました!


生い立ちや音楽を始めたきっかけについて



野老快南(以下野老) : 最初に音楽を作ろうと思ったきっかけはなんですか?

Tristan Whitehill(以下Tristan) : 私の父親はミュージシャンで、YesやTangerine Dreamなどを聴かせてくれました。Bob Marleyは特に好きで、そういうルートで音楽の世界に入りました。父はDX7とJX8Pもくれました。

野老: とてもいいシンセですよね。実は僕も自分の隣にDX7があります。

Tristan: そのDX7はまだ動きますか?

野老: 完璧に動きます。

Tristan: 私もDX7が大好きなんですが、サードパーティ製のメモリ拡張ボードが壊れてて、修理も試みたけど、まだ治っていません。お父さんがくれたもので、いつも使っていたものなので悲しいです。でも、これが僕を音楽の世界に引き込んでくれました。

野老: お父さんはどのようなミュージシャンですか?

Tristan: 彼はミュージシャンで、コンポーザーでもあります。彼はかなり独特な人です。以前僕のアルバムを聴いてもらった時も、理解できなかったようでした。エドガー・ヴァレーズやアルノルト・シェーンベルク、フィリップグラス、テリー・ライリーなどを教えてくれました。

野老: 挙げてもらった人達があまり馴染みがないのですがどういう人達ですか?

Tristan: クラシック/ミニマル/セリエル音楽などの作曲家です。父はそのような音楽を私に紹介してくれましたが、電子音楽への理解は薄いように思います。というのも少し変で、父はVSTを使ったりして音楽を作るのに、なぜだかエレクトロニック・ミュージックに対しては「それはReal Musicじゃないよ」という反応をします(笑)。

野老: なるほど(笑)

Tristan: 私は父に自分の作った音楽を聴かせながら育ってきました。彼はとても批評的でした。

野老: ではお父さんはある意味師匠という感じだったという事ですか?

Tristan: まあ、そうですね(渋々)。その後は大学では、ジャズの勉強をしました。10年前ごろの話ですが、ジャズバンドやジャズオーケストラでギターを弾いていました。結局自分の音楽を作りたくなったので大学では音楽の学位はとりませんでしたが。

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↑EuglossineことTristan Whitehill



自身の作品に影響を与えた音楽や文化について


野老: 音楽制作/作曲において、エレクトロニック・ミュージック的な側面を多く取り入れるようになったきっかけはありますか?

Tristan: Squarepusherの影響は間違いなくあるでしょう。20歳くらいの時に初めてSquarepusherを聴いた時は「これはやばい」となりました。それ以前もアーメンブレイク等をビデオゲームやテレビで聴いた時は、かなりクールだと思っていました。そこで周りの人がその事を話す時に口にしていたwarp recordsやLuke Vibert、アシッド系などを聴き始めてからは、エレクトロニック・ミュージックにのめり込みました。アンビエント系の音楽も同時期に聴き始めました。その「音」がすごい好きで聴いていました。さらに北フロリダのゲインズビルの親しいミュージシャン達が電子音楽もやっていた事もあって、ライブ演奏を見たり、機材を使っているのを見たりして色々教えてもらって刺激を受けました。



■北フロリダのエレクトロニックミュージックの歴史


野老: エレクトロニックミュージックのローカルコミュニティがあったということでしょうか?

Tristan: そうですね、周りの人が作っていた電子音楽はいわゆる「テクノ」という感じではなく、音/サウンドアート/フィールドレコーディング/アンビエント/シンセサイザーなどが多かったです。ライブは、ハウスパーティーなどで行われる事が多かったです。後々クラブなどに行ったりする事はありましたが、先に挙げたWarp Recordsなどの音楽もクラブで聴くのではなく、家でヘッドホンで聴くという個人的な体験でした。

Tristan: 80年代の後半にシカゴとマイアミでは、「EBM」などの音楽が人気でした。それもあって北フロリダはそのあと90年代と2000年代は、なんらかのエレクトロニックミュージックのシーンはありましたが、特別に人気がでたものはなかったように思います。北フロリダはかなり、田舎な雰囲気というか、アメリカ人のステレオタイプは想像できますか?

野老: 保守的な傾向の強い人というイメージです。

Tristan: 間違いないですね。批判するつもりはないのですが、「ビール大好き、ジーザス大好き」みたいな感じです。ですから、そこの人々と実験的なエレクトロニックミュージックのエレクトロニックミュージックのシーンがクロスオーバーする事はありませんでした。その後からは私の友人の集まりがライブのブッキングをしたりなどはありましたが、そのような小さな集まりが広く点在しているという感じでした。

野老: 具体的にその集まりや友人でアーティストとして活動していた人は挙げられますか?

Tristan: そうですね、Cabo Boingという音楽をしている人がいます。彼は以前Yip-Yipというバンドで活動していました。このバンドは、特に最初期に強いエレクトロニック・ミュージックな要素の影響を人々に見せたといえると思います。他にも私の親しい友人でもあるKane Pourや、Xiphiidae、The Mercury Programなどはフロリダで特に精力的にエレクトロニック・ミュージックに近い音楽を作っていました。

野老: 彼らはフロリダのアーティストですか?

Tristan: そうです。より正確には北フロリダです。南とは少し雰囲気が違います。南はラテン系やキューバ系の南米の人が多いです。

野老: 日本でも確かにそういうイメージがあります。

Tristan: なので多くの人はスペイン語を話しています。特にマイアミが南端で一番大きな都市です。

野老: 北フロリダで一番大きな都市はなんですか?

Tristan: ジャクソンビルです。実はジャクソンビルはアメリカでも特に面積が広い都市なんです。人口はほどほどなのですが、散らばって広がっている都市です。都市が定めている域もほぼまるまる群(州の次の行政区画)ほどあります。とにかく広い都市です。

Tristan: フロリダでは各地で様々な面白いアートが同時多発的に起きています。ただフロリダの歴史などからしても、近代的な文化、例えば”ダンスミュージック”やディスコが浸透してきたのもここ8年くらいの新しい出来事です。ディスコナイトやゲイクラブなどはありましたが、よりメインストリームないわゆる「EDM」のフェスなどが開催されたりするようになったのはつい最近の事です。



■数年にも渡る活動を経た自身の作品への変化


Euglossine / Sharp Time (Orange Milk Records) 2017年

野老: 数年に渡る活動を経て、自分の音楽に変化を感じますか?

Tristan: はい。ある程度は感じています。より「スペース」を意識するようになったと思います。若い時はよくわからないまま、音楽がそこにあって音楽ができる感じでした。今は、昔の自分の音楽をきいて「もっとスペースがあったらもっと聞きたくなるな」と感じています。

野老: スペースというのは、作曲/コンポジション的な事ですね?

Tristan: そうですね、より空いた空間を作るというイメージです。これが一番重要な変化であったと思います。といっても私の音楽は多くの要素が密集した感じですが、流れが落ち着く部分では抑えるという感じです。



■"Omnidrift Endearment"のインスピレーション



野老: 今回のアルバム「Omnidrift Endearment」を作る上でのインスピレーションはなにかありましたか?

Tristan: 2年前に友人達とブッキングをしてNYでライブをした時に今回のアルバムの半分ほどある長尺の表題曲の「Omnidrift Endearment」を作りました。この曲は各セクションが繋がった一連の流れがある中で、上下左右の多種多様な動きがありますが、各セクションは曲中の最後のセクションの部分から派生しています。

Tristan: さらにある種のユーモアを取り入れようと試みています。インターネットではある意味アートが使い捨てになっている部分があって、サンプルやサンプルパックを作って送りあったり、フォトショップの合成画像をシルクスクリーン印刷風に見せる為のテクスチャーを販売されていたりしています。そこにある使い捨てや飽和の状態になっているアートに対して私はなにかを感じました。自分の作ってる電子音楽/ジャズのような音楽もこれに似たような存在自体の曖昧さ、極めて存在してない事に近い音楽のように思います。Youtubeやデジタル広告など常に自分に対して提供されつづけるインターネット上の短命で使い捨てのモノ、もはやただのデータとも言えますが、そこを景色としてみた場所に存在するジャズとも言えます。

Tristan: 例えばマッコイ・タイナーが音楽を演奏していると(音楽に没頭して)どこかスピリチュアルな場所に行きます。その場所が2020年だとインターネットの墓場のような場所なのかもしれない、と。このアルバムは恐らくそのような場所から来ているように思います。ただ、たくさんのデータがあるだけなんです。

野老: なるほど。要約してもらっても大丈夫でしょうか?

Tristan: テクスチャーやアイデアの最終処分場ともいえるデジタルデータを風景として捉えるという詩論に基づく作曲、という事ですかね。

野老: ありがとうございます。



さいごに


以上で前編は終わりです。

EuglossineのカセットはOriental Tapesのバンドキャンプ、もしくは国内の取り扱い店舗からご購入いただけます。

取り扱い店舗

・LOS APSON? ・ON READING ・TEMPO 

・オントエンリズムストア ・カクバリズムオンラインストア

・大福レコード ・Fastcut Records

デジタルはバンドキャンプから購入できます!

後編も準備中ですのでお楽しみに。









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