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ロスの寂れたショッピングモールで映画を観た話

唐突だが、私はいまロスにいる。アメリカのあのLos Angelesだ。

諸事情は割愛しつつ、今回は『異国の映画館で映画を観る』という実績解除をしたので記念に筆を取った次第。それでは、はじめよう。


アメリカの劇場で映画を見てみたかった理由

旅先で向かう場所は人間、千差万別だ。ある人間は観光地へ向かったり、またある人は地元のスーパーやマーケットに赴くかもしれない。私は後者側の行動をするのだが、アメリカを旅するに際してどうしても映画館に来たかった。

理由は明白。アメリカの人々は本当に上映中もリアクションをしているのか確かめたかったからだ。
数ヶ月前に一気見したNetflixのStranger thingsでも、シーズン3で主人公らが劇場にてback to the futureを鑑賞し、大声を上げるシーンが描かれている。
本当に?ほんとうにみんな声をあげるものなの?感嘆や驚きを公の場で露わにする世界観は果たしてどんなものなの? ちょっと楽しそうで羨ましい。行けるんだったら確かめてみましょうよ、という話である。

早く観たかった『POOR THINGS』(哀れなるものたち)

さて、問題はどの映画を観るかである。リアクションを感じたいのならば、パニック・スリラー系がドンピシャだが、残念ながら良い時間帯に上映していなかった。
もし時間が合えば超常現象ホラーの『Night Swim』を観たかったのだが、さすがに異国・ナイトショー・ホラーの三拍子は危険すぎる。

ということで選んだのは『POOR THINGS』(邦題:哀れなるものたち)。日本でも公開されてすぐに話題となり、映画好きの友人が感想を語り合ったり、SNSで賞賛の声が聞こえてきたりするなど非常に気になっていた。となればとりあえずティザーを観てみる。

とにかく美しくて歪な有象無象たち。そして圧倒的な存在感のエマ・ストーン。しかし何が何だか全くわからないストーリーは最高に魅力的だろう。
シュール的SFラブコメ映画という声があれば、スリラー映画という声もあるから、世界全体が動揺している様子がわかる。イギリス・アメリカ・アイルランド合作というのも心惹かれる。

正真正銘ケイオスな作品をアメリカという異国の地で鑑賞するのも乙ではないか。そう考えた私はコソコソと計画を立て始めたのだった。

アメリカの寂れたショッピングモールへ

滞在先から最も訪れやすかったのは、South Bay GALLERIAというショッピングモール内にある劇場だった。しかしながらこのモール、荒廃しているとの現地情報を入手する。
観光地を巡るような一般的な旅行ならば、廃れている場所と巡り会うことも少なかろう。発想の逆転で、このような場所に訪れられるのも珍妙で良いではないか。と、ワクワクしUberで現地へ。

外観はリゾート地のモールみたい
平日のフードコートは想像通りガラガラ
全品$10の古着屋、とても良かった
レトロゲーム自販機、なんこれ

平易な衣類・雑貨屋の間に空き店舗がポツポツ並ぶ。至る所で雨漏りをしておりバケツが置かれている。気だるい清掃員と、おしゃべりが止まらない店員たち。
モールとしては寂しげだけど、働いている人たちは目が合えばハローハワユと唱えるし、笑顔も絶えない。終わってるけど終わってない、なんだか楽しそう。日本では味わえない、緩やかでにこやかな廃れがそこにはあった。

意外にも上質な映画設備で鑑賞を

ショッピングモールを見て回った時点で、映画館の設備にも期待をするのをやめていた。だがここで嬉しいことに想像が覆される。

大人$11.99だから日本とトントン(1$=148円と仮定)くらい
スナック・ドリンクコーナーは日本とそっくり
廊下も日本の劇場と似てるね
レザー調のふかふか椅子&小型テーブルが付属

驚いたのは座席の仕様だ。レザー調のたっぷりクッションソファーに小型テーブル、そしてなんと電動リクライニング付きだ。背もたれは動かないが、足を心地よい位置まで上げられる。すごいすごい、さすが娯楽とカルチャーの国!

これ至上の悦楽なり。海外の劇場で映画鑑賞

ネタバレ等々あるため詳細は語れないが、端的に言おう。至高である。異国の地で最新映画を地元の人々と共に鑑賞するライブ感、感情の揺れ動き。旅という非日常の延長線で没入するさらに非日常な映画の空間。全てにおいて最高だ。

POOR THINGSもピカイチだった。残念ながら私の絶望的ヒアリング能力あまり、微細な言葉選びは理解できなかったものの、彼らの言葉からダイレクトに物語の波に飲まれ、時に胸が苦しくなり、そして晴れやかな気分になる。
字幕というレイヤーを外して鑑賞する劇場映画は想像以上に“生もの”だ。

そしてこの目的の大きなミッションだった「リアクション芸を観る」だが、これも無事クリア。というのもPOOR THINGSにはシュールなブラックジョークが宝石のように散りばめられており、そのジョークに「oh…」と笑う客がいた。
劇中には主人公が遺体の男性器をおもちゃのように弄ぶシーンがあるのだが、そこで「うぉほっほ」と爆笑してたのもセンセーショナルだった。日本ではおそらく、声を殺して笑うシーンだろうに。

そしてなぜだか、皆エンディングクレジットをラストまで見ない。一人ひとり観客が立ち去り、エンドロールと私だけの空間が生まれたのも新鮮だった。POOR THINGSを見終えた人ならわかると思うが、あのエンドロールである。それを異国の劇場で独り占めできるなんて、贅沢極まりないじゃないか。

明るくなった劇場で、清掃員の方が入ってくる。「Hi, 楽しめた?」と気さくな挨拶に、自然と「最高だったよ」と言葉が漏れた。自然に、異国の言葉で。

ありがとうサウスベイギャラリア…

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