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『世界標準の経営理論(18章「リーダーシップ」、19章「モチベーション」』 入山章栄 著 ~企業のダイバーシティ推進担当の本棚紹介⑬~

なぜこの本を読んだのか

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ダイバーシティ推進の仕事をする前から愛読している本です。

仕事の役に立ちそうか

前回の記事にも書いた通り(こちら)、この本はとても仕事の役に立ちます! 主要な経営理論30を体系的に解説している、厚さ6センチ(目分量)全800ページのとんでもなくコスパの良い本です。
前回に引き続き、ダイバーシティの観点から関連するパートをご紹介したいと思います。

仕事向けの備忘にしたい点:「第18章 リーダーシップの理論」から

本書ではリーダーシップに関する理論がいくつか紹介されていますが、不確実性の高い環境下での経営において重要なリーダーシップスタイルとして「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)」が挙げられています。

  •  TFLを構成するのは以下3つの要素
    ① カリスマ:ビジョン・ミッションを明確に掲げ、それが「いかに魅力的で」「部下のビジョンにかなっているか」を部下に伝え、部下にその組織で働くプライド、忠誠心、敬意を受け付ける。
    ② 知的刺激:部下が新しい視点から考えることを奨励し、刺激する
    ③個人重視: 部下ひとりひとりと個別に向き合い、学習による成長を促す

  • TFLが今後重要になる理由
    ① 物質的な欲求を満たされた人間は、より精神的な豊かさを求めるようになる 
    ② 不確実性の高い環境では、単なる将来予測よりも、「こうしたい」というビジョンを掲げることが有用
    →①②から、ビジョン重視のTFLと親和性が高い

TFLに加えて注目すべきものとして紹介されているのが「シェアード・リーダーシップ(SL)」というチームのあり方。

  •  SL=「グループの複数の人間、時には全員がリーダーシップを執る」

  • 従来の「特定の一人がリーダーシップを執る、垂直型のリーダーシップ」よりも、SL型(水平型)のリーダーシップのほうがパフォーマンスが高い。その傾向は、複雑なタスクを遂行するチームにおいて顕著

  • 「SL×TFL」の組み合わせが最強:「チームの全員がビジョンを持って、全員がリーダーシップを執りながら、互いに啓蒙しあい、知識・意見を交換する」という状態。
    そのためには、「自分のビジョンは何か」「自分は何者で、何をしたいのか」を全員が、真剣に内省することが求められる。

仕事向けの備忘にしたい点:「第19章 モチベーションの理論」から

  • モチベーションの種類には以下2つがある
    ①外発的動機: 報酬・昇進など
    ②内発的動機: 楽しみたい、やりたいといった内面から湧き上がるもの

  • 内発的動機のほうが、個人の行動へのコミットメントや持続性を高める

以下はモチベーションに関する理論

  1. ニーズ理論: 人は根源的な欲求をもっている、それがモチベーションとなる(例:マズローの欲求五段階説)

  2. 職務特性理論: 内発的動機を高める職務特性(多様性、アイデンティティ、有用性、自立性、フィードバック)を意識して、職務をデザインをし直す(ワークデザイン)ことにより、モチベーションを高めることができる

  3. 期待理論: 人の動機は、「期待(実現可能性)」「誘意性(見返り)」「手段性」の影響を受ける。報酬制度と同期の関係を説明するのに適した理論。

  4. ゴール設定理論: 期待理論を前提に、「ゴール・目標の設定」をモチベーションの基礎としてくわえたもの。
    ・人はより具体的で、より困難・チャレンジングなゴールを設定するほど、モチベーションを高める。
    ・人は、達成した成果について明確なフィードバックがあるとき、よりモチベーションを高める

  5. 社会認知理論: ゴール設定理論の発展形で、あらたに「自己効力感」という概念が加わる。

  6. プロソーシャル・モチベーション(PSM)
    PSM=他者視点のモチベーションのこと(顧客視点、取引先の視点、部下の視点、社会貢献、など)。 
    PSMと内発的動機が同時に高いレベルにあると、高いパフォーマンスにつながる(他者に貢献することを、自らの楽しみとして感じる)
    ・PSMと内発的動機の補完効果が、個人の創造性を高める可能性がある。クリエイティビティには、新奇性だけでなく有用性も必要。PSMが高い人は「他者視点での有用性」を意識できることがその理由。

18章と19章からの示唆→ 創造性の高い個人(内発的動機×PSM)を輩出できる組織とは、「TFL×SL」な組織である

上記の示唆は、著者である入山先生の意見として書かれているもの(理論として世の中にあるものではない)ですが、今までの各理論やコンセプトの定義と整合しています。

  •  TFLタイプのリーダーは、他者の内発的動機を高める

  • TFLタイプのリーダーがいるチームにおいて、メンバーはリーダーから啓発される機会が多いことから、他者視点が育つ(PSMが高まる)

  • よってTFLタイプのリーダーのもとでは、創造性の高い個人(「内発的動機×PSM」を有する個人)が育つ

  • このような個人が、相互にリーダーシップを執ることで(SL)、高い組織パフォーマンスが実現される

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さて、今回ここまでご紹介した内容は、ダイバーシティに直接関係する内容ではありませんでしたが、私としてはダイバーシティ推進について以下のような示唆があると感じました。
例えばある5~6名のチームにおいて、女性が一人だけいたとします。日本企業の職場風景であれば、リーダー(マネージャー)は中年男性で、女性はリーダーより若いというのが一般的でしょう。このとき、この女性が「シェアード・リーダーシップ」を執り得るでしょうか? 
このチームのリーダーが、ごく平均的な管理者でれば、答えはNoでしょう。このチームの女性比率は20%弱ですが、この水準は「マイノリティ」と言われ、「ありのままの自分の意見」を表明することは難しいとされています(「黄金の3割理論」)。また「自分の失敗は、その属性全体の失敗として見られる」と認識しているため、萎縮します。このような萎縮状態の女性がリーダーシップを執ることは困難でしょう。
しかし、もしこのチームのリーダーがTFL型かつSLを推進するリーダーであれば、答えはYESになります。このリーダーは、自身のビジョン・ミッションを明確に掲げ、それを部下に腹落ちさせます。そして部下が新しい視点から考えることを奨励し、個別に向き合い、学習による成長を促します。そうしてさらに、ある場面においては女性部下がリーダーシップを執ることを促します。このような働きかけにより、女性部下もまたリーダーたり得るようになり、同時にチームの成果は最大化されることになります。また多様なメンバーとしてリーダーを支えることで、リーダーの認知バイアスを正す役割も期待できます(前回記事参照)。
SLもTFLも、ダイバーシティ推進のための理論ではありませんが、このように考えると、どちらも包摂的な(inclusive)リーダーシップのあり方やチーム作りそのものと言えると私は感じました。

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