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ストレスを簡単に測定する方法

ストレスを数値化する

 ストレスの度合いを測定・可視化することは、ストレス問題に向き合うための有効な取り組みの1つでしょう。ストレスを数値化する方法には、血液や尿検査などの方法があります。最近は医療機関に出向かずとも自宅で採血等して機関に郵送するという便利な方法もありますが、それでもやはり測定できる頻度には限界があり、その都度コストもかかります。一方で、チェックリストのような質問項目に答えて点数付けすることによってストレス度を測るという方法も昔からよく行われてきました。ただ、この方法ではその時に気分などに左右され、かなり主観に依存した不安定な方法だとも言えるでしょう。

HRV(心拍変動)とは

 ある程度客観的な数値の測定として、生体情報からストレス度合いを間接的に測る方法の1つに、HRV (Heart Rate Variability:心拍変動)があります。これは、文字通り、心拍リズムの変動を測定するものです。イメージに反して、通常、健康な心臓というのは、実は一定の間隔で拍を刻んでいるわけではありません。健康な心臓の振動は、常に微妙に変化をしているのです。肉体的あるいは精神的な困難に突如遭遇したとき、私たちは生理的・心理的ホメオスタシス(恒常性)を回復させるため、心臓血管系にて瞬時にそのインパクトに対して調整を行う必要があります。心拍振動が常に変化していることは、この瞬時な対応がされているということです。このメカニズムから、HRV(心拍変動)のパターンつまり心拍リズムには、常に人の内的な感情が反映されているといえます。

心拍数とは、通常1分あたりに心臓が拍動する回数を指しますが、一方の心拍変動(HRV)とは隣り合う心拍間の間隔の変動を指します。HRVは心臓と脳および自律神経系プロセスによって起こるもので、心臓神経機能の指標となります。何かしらの病的状態、たとえば心臓の状態が正常でない場合はHRVが高まることもあるため、必ずしもHRV値が高いことがよいわけではありません。HRV値が最適な水準範囲にあることは、健全な自己調整力が保たれており、レジリアンス(抵抗力、耐久性)が高いことを示しています(最適値の範囲は、下記のチャートのように年齢・性別によって目安があります)。

心拍変動(HRV)は、休息・睡眠やリラクゼーションを司る自律神経系の副交感神経によって制御されています。特に12対ある脳神経の1つである迷走神経(Vagus Nerve)は、心拍の変動に影響を与える副交感神経系の代表的な神経です。その副交感神経系の活動が反映するHRV値を測定するということは、身体がストレッサー(ストレスの原因となる刺激)に対応するときに、心身のバランスをきちんと維持できているかを知るには効果的な方法といえます。HRV値が下がるということは、副交感神経の活動が低下し、ストレスに対する回復が完全にできておらず、ストレス状態が続く可能性を示しています。

HRV指標の種類

HRVは、心拍のR-R間隔(拍動と拍動間の長さ)ごとの変動を測定する指標ですが、その種類は大きく2つのタイプに分かれます。1つが「周波数領域(Frequency-Domain)」で、もう1つが「時間領域(Time-Domain)」です。周波数領域では、周波数領域帯のパワーを積算して指標として利用します。その領域帯とは、超低周波数領域(0~0.04Hz)、低周波数領域(0.04~0.15Hz)、高周波数領域(0.15~0.5Hz)に分類されることが多い。一方、時間領域はR-R間隔のバラつきを定量化して指標として使います。連続する心拍間の時間のバラつきです。一般的には、こちらの時間領域の指標の方が広く使われることが多い。なぜなら、周波数領域の方では複雑な計算と長い測定時間を必要としますが、時間領域の方であれば比較的容易に測定できるからです。

一般人向けのHRV指標:rMSSD

日々の生活の中で自分で測定するといった場合、時間領域の指標の1つである「rMSSD」がもっとも実用的でよく利用されます。これは連続した隣接するR-R間の差の2乗の平均値の平方根で算出する指標で、短期間(5分間程度)で測定できるので日常生活でも実用的です。さらに最近の研究では60秒、あるいは5秒という超短時間の測定であっても意義ある情報がとれるとも言われています。

rMSSDの年齢別・性別の適正範囲値(目安)

スマホでストレス測定

 HRV測定に必要な機器ですが、最近では専用機器だけでなく、一般人向けとしてスマートフォンのアプリも多種提供されています。中でも外部センサーを取り付ける必要もなく、購入時に内臓されているカメラを使って測定できるものもあります。これは、PPG (Photoplethysmogram:光電式容積脈波記録法)というテクノロジーを活用し、心拍の変更を脈拍から測るものです。スマホのカメラに人差し指を付けると、ライトが照射され測定がスタートします。

スマホアプリにより測定結果

ある研究によると、このPPGを利用したスマホアプリと、ECG(Electrocardiography:心電図)とで、rMSSDを測定した結果を比較したところ、その差異は十分に許容範囲内であったという結果が出ています。これまでに、この技術を利用したストレス測定アプリが数多く開発されています。そのようなアプリを利用したストレス測定を日常生活に取り入れることは、ストレス管理への意識を高めるための有効な第1歩といえます。スマホさえあれば手軽に測定できる利便性を考えれば、より多くの人がストレスを数値化で管理するようになっていくのではないでしょうか。

Takeaways - 

・心拍数の変動からストレス度合いを間接的に測る方法の1つとして、HRV (Heart Rate Variability: 心拍変動)というものがある
・HRV数値が適正範囲にあることは、副交感神経系の活動がストレッサー(ストレスの原因となる刺激)にきちんと対応していることを示している
・HVR指標の中でも、rMSSDは短時間で測定でき、一般の人が日常生活でストレスを測定したい場合に適している
・最近は、スマートフォンのアプリで容易に測定可能で、今後ストレスを数値化した指標で管理する傾向が増えることが予想される

(参考)
・Childre & Martine (1999). The HartMath Solution
・Shaffer & Ginsberg (2017). An overview of Heart Rate variability 
・Uetani,K (1998). Twenty-Four Hours Time Domain Heart Rate Variability and Heart Rate: Relations to Age and Gender Over Nine Decades.
・Plews, D.J., Scott, B., Altini, M., Wood, M.,& Kilding, A.E.(2017). Comparison of heart rate variability recording with smart phone photoplethsmographic, Polar H7 chest strap and electrocardiogram methods.

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